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中国の著名「反日活動家」童増インタビュー - 時事通信社北京特派員 城山英巳

※本シリーズは、5月27日発売の「文藝春秋SPECIAL」との共同企画です。本誌掲載記事の一部を4週にわたって配信いたします。(BLOGOS編集部)
<テーマ:中国の膨張を止められるか>

日本車を破壊し尖閣に上陸する「反日デモ」の猛威
それらを主導する著名活動家に本音を聞いた


時事通信社北京特派員 城山英巳

 中国では、戦時中の日本へ強制連行された中国人元労働者や遺族の提訴が相次ぎ、戦時中の賃借をめぐる訴訟の敗訴で商船三井の運搬船が裁判所に差し押さえられた。これら対日訴訟を支援しているのが、民間団体「中国民間対日賠償請求連合会」会長で投資家の童増氏(57)だ。童氏は1990年代初め以降、中国政府が72年の日中共同声明で放棄した戦争賠償請求に関して「民間・個人の請求権は放棄されていない」と主張し、賠償請求活動を展開。また「中国民間保釣連合会」会長として沖縄県・尖閣諸島の領有も訴え、尖閣諸島への上陸も後押しした。4月に著名「反日活動家」の本音を聞いた。

日本政府が友好を望まなくなった

ー日本に対してどういう認識を持っているか。

「1945年以前の戦争時代の日本と、敗戦後の日本とを区別している。前者は日本民族全体に軍国主義が充満したが、後者は米国の改革によって世界の経済や平和に貢献しました。しかし日本政府は戦後、戦時中の日本軍国主義の中国侵略の事実を隠し、自身は『(加害者ではなく)被害者だ』と強調した。日本の民衆は『我々は原爆の被害者だ』として、侵略の事情をよく知らない。日本社会で中国侵略が隠され続けた背景には、中国外交の問題もあった。中国政府は七二年の国交正常化以降、賠償を放棄し、戦時中の日本軍の暴行を暴露してこなかった。『中日友好』のため日本を刺激したくなかったからです。これが日本政府による『歴史改竄』や『侵略戦争否定』を生み出しました」

「私がまず言いたいのは、日本人を恨みません。しかし日本政府のやり方には非常に大きな怒りや反感がある。われわれが日本への賠償を要求しているのは、戦後に残された問題を民間の努力によって明るみに出すためです。われわれは『反日』を強調しているのではなく、(問題を明るみに出して)20年後、30年後の長期的観点での『中日友好』を目指しています」

ー91年に全国人民代表大会(全人代=国会)に対日賠償を求める意見書を提出するなどして以降、あなたは公安当局に拘束されたりして圧力を受けましたが、一貫して日本を訴える活動を続けているのはなぜか。

「中国の戦争被害者は日本国内で提訴したが、敗訴した。多くの人が亡くなりました。90年代に(中国老齢科学研究センターに勤めていた)私に対して彼らが手紙を書いて送ってきた。当時、私の知識は非常に限られ、北京の図書館で戦争に関する一次資料を調べてようやく日本軍の暴行の実態を知った。92年になると全国の被害者が私を探し出し、手紙を書いては残忍な行為があったことを知らせてくれた。私は中日両国の次世代の人たちが歴史を知り、歴史を繰り返してはいけないと感じたのですが、当時のわれわれの国の外交方針はできるだけそれを表に出さず、『友好』だった。こうした深い憎しみは覆い隠されたのです」

ーこれまで受理されなかった強制連行の提訴が3月に初めて受理されたが、習近平指導部になって方針が転換したのか。

「中国外交当局はこれまで日本企業を提訴すると中日友好関係に影響すると恐れてきた。しかし現在は変化した。変化の原因として挙げられるのは、強制連行の被害者があまりにも多いこと。さらに元労働者が高齢になり、今回の提訴が最後のチャンスで、当局も動かざるを得なくなった。日本政府が『友好』を望まなくなったこともある」

「一方、大量の人々が提訴すれば、国内の安定に影響するのではと、当局は懸念していたが、これは間違った観点です。デモ行進など過激な手段で訴えるのではない。いかに多くの人が提訴しようと、法律を武器に法的秩序に従っているわけですから。かつて私に対して当局の圧力はあったが、今はない。開放的になった」

「私の感じるところでは安倍晋三首相は歴史を尊重していない。このやり方では中日関係はさらに決裂の方向に向かい、全世界で日本民族全体にマイナスの印象をもたらすでしょう。習近平国家主席は3月末にドイツで行った演説で『南京大虐殺』に言及したが、これは歴代指導者では初めてのことでしょう。日本がずっと歴史を改竄し、侵略戦争を認めようとしないから、戦争や虐殺に反対するため提示したのだと思う。中国として国際義務を果たし、国際法を守り、中国の声を代表したという点で長期的な中日関係にとって有益です。また欧州で話したのは欧州の多くの人がこれを知らないからでしょう。安倍首相が退き、新たな首相が誕生して歴史を直視しなければ、日本はまた、安倍首相の『古い道』を歩むことになるだけです」

ーあなたが目指すところは具体的に何ですか。「中国民間対日賠償請求連合会」はどんな役割を果たしているのか。

「中日間の歴史問題が解決しないのは、日本に対する庶民の憎しみが解決しないからです。『中国民間対日賠償請求連合会』は象徴的な機構で、旗印にすぎない。全国で行われる個々の提訴は、主に各地の弁護士が行い、われわれが連絡役を務めたり、資金的な支援を行ったりしている。われわれの目的は中国国内で、さらに多くの被害者が法律を武器にして日本政府や日本企業を提訴することです」

ー尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる問題では島への上陸を後押しし、反日デモも支持しました。尖閣問題に関して最近、どのように対応しているのか。

「中国政府が現在、この方面で役割を発揮するようになり、われわれ民間の役割は一段落しました。われわれは、中国政府が釣魚島を取り戻すためどう抗議活動を展開していくかに関心を持って見ている。そういう意味で後方に退いた」

ー商船三井の船舶差し押さえに関してはどう考えるか。

「戦時中の日本の行為に対して法律的な決定が下され、問題が解決した。日本国民はこうした事情を知らなかっただろうが、差し押さえによって覆い隠された問題が明らかになり、長期的な両国関係にとって有益だと思う」

毛沢東をけがすことは13億人民をけがすこと

 筆者は、2012年9月、日本政府による尖閣諸島国有化を受け、中国各地で吹き荒れた大規模反日デモの際、約2万人が気勢をあげた北京の日本大使館前で連日、取材した。そこで見たものは、毛沢東の肖像画を掲げて「小日本を打倒しろ」とデモ行進する大量の若者だった。彼らは何を考えているのだろうか。それを知りたくて12年11月、当時話題になっていた左派学者を訪れ、話を聞いた。  その人は、毛沢東を信奉する左派系サイト「烏有之郷」の発起人の一人で、北京航空航天大学の副研究員・韓徳強氏(46)。北京の日本大使館前での反日デモに参加した際、河北省固安県から来た500〜600人の集団に混じり行進した。そして帰り際に毛沢東を懐かしむプラカードを持った青年と交流していたところ、「くそったれ」と罵る老人の声が聞こえた。韓氏がこの老人に平手打ちしたことが、中国版ツイッター「微博」などで伝わると、韓氏の理性を欠いた行動への批判と、毛沢東への尊敬から起こした行為への同情で賛否が分かれた。

ー老人を平手打ちしたのはなぜか。

「毛主席は中華民族の大英雄です。毛主席をけがすことは新中国、そして13億人民をけがすことであり、中国を分裂させる漢奸(売国奴)だ」

ーあなたは日本に対してどう認識しているか。

「日本はあの歴史に対して今に至るまで真剣に謝罪しておらず、この点で言えば、日本はまだ軍国主義の亡霊に取り付かれていると感じる。釣魚島の購入(尖閣諸島国有化)も日本軍国主義がまた姿を現したもので、軍国主義の氾濫を防止し、中国領土主権を防衛しなければならない。私が反日デモに参加した理由はそれが目的です」

ーデモの際に日本車を破壊する暴力行為が横行したが。

「非理性的かもしれないが、全体としては非常に良好な効果を生んだのではないか。(日本車が壊され)中国市場で日本車の売り上げが低下しなければ、日本政府は立場を軟化させないでしょう。だから中国政府は日本車を壊して焼いた若者に感謝しなければならない」

ー日本車はやはり嫌いか。

「私は車を運転せず、車を持っていないが、もし買うとすれば日本車は選ばず、中国国産車を買います」

ー日本料理店で一緒に食事でもどうか。

「あなたがもし自分を日本国内の親中派だと位置づけているならば、一緒に食事してもいい。もし反中派ならば、食事しない。また中国人が経営する日本料理店ならいい。われわれの友人だからだ」

ー毛沢東の肖像画を掲げる若者をどう思うか。

「(中国に毛沢東がいなくなり)中華民族は再びバラバラの砂に変わり、(19世紀のアヘン戦争以降のように)中国は再び侵略されるままになり、日本を含めた人々にばかにされてしまうと懸念している。(中国の改革・開放後)30数年間の外交政策は軟弱となり、若者はそれに対して強烈に感じることがあったのだろう」

 反日デモで「毛沢東」を掲げた若者は、米国やソ連と対決した毛沢東時代の強い外交を望んでいる。12年10月に話を聞いた30代の中国人ジャーナリストは毛沢東主義者と称し、「保釣(釣魚島防衛)運動」にも携わった。彼は「中国を引っ張るリーダーは国際的に他国から尊重される強い指導者でなければならない」と語った上で、日本について聞くとこう答えた。

「日本が好きではないとは言っていない。米国の方が嫌いだ。米国は現代戦争の震源地だ。また日本には独立した軍事・外交方針はなく、米国の属国に等しいからだ」

(同じテーマの記事を読み比べる:中国はなぜ尖閣にこだわるのかー中華思想あるいは「上から目線」の研究 - 京都府立大学准教授 岡本隆司

プロフィール

城山英巳
しろやま ひでみ 1969年三重県生まれ。慶應大学文学部卒業、早稲田大学大学院修了。時事通信社入社後、社会部などを経て現在、二度目の北京特派員。著書『中国共産党「天皇工作」秘録』( 文春新書)でアジア・太平洋賞特別賞受賞。戦後日中外交史に関するスクープで2013年度の「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

「文藝春秋SPECIAL」編集長から


自分の頭で考える人の新しい雑誌をつくりました。
世界はいま、大きく変わりつつあります。イデオロギーの砦の中にいれば、深く考えなくても暮らせる時代は終わりました。われわれは目の前の課題をいちいち議論し、解決していかなくてはならない、実に"面倒な"時代を生きているのです。
こんなとき、簡単な"正解"が示されると、ついそれに飛びついてしまう。しかし、本当にそれで問題は解決したのでしょうか。 この雑誌は、正解を求めません。ひとつのテーマについて、あらゆる角度から最良のテキストを集め、読者のみなさんに提供します。正反対の意見でも、読むに足るものならどちらも掲載します。正解はみなさん自身の頭で考えてほしいのです。
簡単な正解の代わりに、簡単に読める工夫をしました。忙しい現代人の生活スタイルにあわせ、一本の論考を四ページから六ページにしてあります。ちょっとした移動時間でもまるまる一本読めてしまう分量です。さらに深く知ることができるように関連書籍も示しました。
みなさんが自分自身の正解へたどちるくための思考の補助線になればと願っています。



文藝春秋 (2014-05-27)
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