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残業代ゼロ制度に抵抗する田村厚生大臣

 突然ですが、残業代ゼロ制度について、どのようにお感じになっているでしょうか?

 はっきり言って、残業代ゼロ制度に反対する人が圧倒的に多いと思うのですが、ただ、その一方で僅かながら残業代ゼロ制度に賛成する人々がいるのも事実でしょう。

■ 仕事の成果で評価するシステム

 仕事の時間ではなく、仕事の成果で評価されることがあってもいいのではないか、と。時間で評価すると、どうしてもだらだらとした仕事ぶりが改まらない、と。

 どう思います?

 私だって思うのです。本来であれば、仕事の成果に応じて賃金が支払われてもいいかもしれない、と。むしろその方が本筋であるだろう、と。

 しかし、問題は、誰が仕事の成果を客観的に、そして冷静公正に評価できるのかということなのです。例えば、営業担当職員のように、売上高とか契約数などの客観的数字で判断できるのであれば、誰も異議は唱えないでしょう。

■ 成果を判断することの難しい事務屋の仕事

 しかし、事務屋の仕事となると、なかなか難しい、と。

 それに、仕事の成果によって賃金が支払われることが適当であるとしても、それならそれで対象となる職員に対し、相当の自由度を与えないことには話にならないのです。

 そうでしょう?

 だって、どうやって仕事を遂行するかに関して、細かいことまで管理職が指示している一方で、仕事の成果がイマイチだなんて言われた日には堪ったものではないからです。

■ 終身雇用制度との関係をどう考えるのか

 それに‥仕事の成果によって報酬が支払われるべきだという考えが適当であるというのであれば、そもそも我々は終身雇用制度を抜本的に見直すべきだということなのでしょうか? そこまでのことを安倍政権が考えているというのであれば、まだ少しは話の筋が通るのです。

 しかし、終身雇用制度、つまり勤務年数が長くなればなるほど給料が少しずつ増える制度がおかしいのではないか、なんて今の政権が疑問を呈している訳ではないのです。

 だから、益々納得がいかないのです。

■ 自民党の考え

 ところで、この残業代ゼロ制度に関して、昨日のNHKの午前中の討論番組でも議論が行われていました。

 自民党の高市政調会長は、「日本の労働生産性は低い。個人のニーズに応じた働き方ができるよう大胆に変える必要がある」と言っていたのですが、納得が行きますか?

 私は、そもそも日本人労働者の生産性が低いという意見には与しません。そう言った意見が蔓延していることは十分に承知していますが‥しかし、そのような意見が正しいという証拠はないのです。というのも、各国の労働者の生産性をどうやって評価するのかと言えば、ただ各国の労働者に支払われる賃金を比べるだけの話で‥従って、例えば、各国の労働法制の違いなどによって労働者が相対的に恵まれた立場にある国の場合には、賃金としての取り分が多くなるためにそのような国は労働生産性が高く見えるだけのこともあるからです。

 要するに、極論すれば、どんなに真の意味の労働生産性が低かろうと、労働者に対して支払われる賃金が相対的に高い国の場合には、労働生産性が高く見え、その反対にどんなに真の意味の労働生産性が高かろうと、労働者に対して支払われる賃金が想定的に低い国の場合には、労働生産性が低く見えてしまうだけの話です。

 でも、本日は、そのような議論はひとまず棚に上げ‥仮に日本の労働生産性が低いとした場合にでも、何故残業代の支払いを止めたら労働生産性が高くなるというのでしょうか?

 例えば、労働現場の実態に何の変化もないなかで‥つまり、労働者たちの残業時間には何の変化もないなかで残業代がゼロになれば、労働者の取り分は減る訳で‥そうなると、労働者が生産した付加価値は減少し、労働生産性は低下してしまうでしょう。

 つまり、高市政調会長の言うことは一見もっともらしく聞こえるものの、全然論理的ではないのです。彼女が言いたいのは、例えば、一日、正規の給料として12000円、そして、残業代として4000円、合計1日当たり16000円稼ぐ人がいたとして、その人の残業代がゼロになっても、その人が正規の就業時間内に16000円分稼げば、その人の労働時間は少なくなるにも拘わらず、その人が稼ぐ1日当たりの給料は変わらないのだから‥というものだと思うのです。

 確かに、経営者側が、上のようなケースの場合に1日当たりの正規の給料を12000円から16000円に引き上げてくれるのであれば、労働者は残業を全くしないで、今までどおりの給料が稼げるわけですから、大変好ましいようにも見受けられます。

 しかし、残業なしで今までと同じ仕事をこなすためには、それこそ勤務時間中、冗談の一言も言うことなく、それこそわき目も振らずに仕事に集中することを余儀なくされるでしょう。従って、正規の就業時間が終了する頃にはへとへとになってしまうでしょう。

 それに、仮にそうやって残業なしで今までと同じ成果を上げることができたとして、経営者側は本当に給料を12000円から16000円に上げてくれるのでしょうか?

 そこが信じられないのです。そのような企業は存在したとしてもほんの一握りの存在と言っていいでしょう。

■ 個人のニーズに応じた働き方と内職のシステム

 高市氏は、「個人のニーズに応じた働き方ができるよう大胆に変える必要がある」とも言います。私も、それに関しては特に異論はありません。しかし、そのことと残業代を支払わないということは必ずしも必然の関係にある訳ではないのです。

 それに、そのような各人のニーズに応じた仕事のシステムは、昔から日本にも存在しているのです。そうなのです。内職がまさに各人のニーズに応じた、しかも成果に応じて対価を支払うシステムであるのです。仕事の時間など決まっている訳ではなく‥従って、残業代など支払われる筈もない。報酬は、ただどれだけの仕事を仕上げたかによるのです。

 であれば、残業代ゼロが適用される労働者を増やすのは、内職従事者を増やすようなものでしかないのです。

■ 企画・開発の仕事に関する評価の困難性

 いずれにしても、内職の場合には、仕事の成果が誰の目から見ても客観的に計測が可能である場合に限られます。しかし、その一方で、安倍総理が推し進めようとしている残業代ゼロ制度は、企画・開発などの仕事が念頭にあるのだとか。

 確かに新商品の企画や開発といった仕事であれば、仕事の時間数と仕事の完成度、或いは満足度が必ずしも一致するものではないでしょう。しかし、そういった仕事に対する評価は、誰がどうやって下すことができるというのでしょうか?

 たとえ会社のトップが気に入るような企画書を書き上げることができたとしても‥それが成功を収めるかどうかはまた別。それに、そういった仕事に従事する職員たちが、全て自分の判断と裁量に応じて動くのであれば、その結果に対して自分たちが責任を負うのも当然であるかもしれませんが‥しかし、それらの職員が管理職の地位にないとすれば、当然に管理職の指示に従って動かざるを得ないのですから、その仕事の結果について自分たちだけの責任を求められるのは筋が通らないのです。

■ 管理職であることが残業代ゼロのメルクマール

 つまり、そもそも自分たちの判断で自由に仕事をする権限がない職員に対して、成果に応じた賃金しか支払わないというのは矛盾した制度であるとしか言えないのです。

 そして、そのことについてよく考えて行くと‥だから、管理職には残業代を支払わず、そして、残業代を支払うかどうかの線引きが、管理職の立場にあるかどうかであることの意味が分かってくるのです。

■ 田村厚生労働大臣の発言

 さて、本日、私が一番言いたい話は今から述べることです。

 高市政調会長が残業代ゼロ制度を支持する一方で、田村厚生労働大臣が次のように述べたと報じられています。

 「課長手前の課長代理は、いろいろな仕事をしていて成果が測れない。時間で測るべきだ」

 さあ、如何でしょうか?

 田村大臣のこの発言は何を意味するのでしょうか?

 課長手前の課長代理は、いろいろな仕事をしていて成果が測れないと言っています。

 恐らく、この発言に関しては、残業代ゼロ制度を猛烈に批判する人々も首をかしげるのではないでしょうか? 田村厚生労働大臣がそのように残業代ゼロ制度に消極的な意見を述べてくれるのは有難いが、しかし、課長代理のする仕事は成果が測れないものなのか、と。

 しかし、もし、それが本当であるとしたら、課長代理のボーナスは全員一律でなければならないのでしょうか?

 これは誰が考えてもおかしいと言わざるを得ないのです。

 さらに言えば、田村大臣が、課長代理は残業代ゼロの対象から外すべきだというのであれば、課長代理の下の係長や係員はなおさら残業代ゼロの対象から外すべきなのでしょうか?

 それとも、係長や係員は、課長代理と違って仕事の中身が一定であり成果を測りやすいので残業代ゼロの対象にしてもよいと言いたいのでしょうか?

 どうもはっきりしないのです。

■ 厚生労働省の立場

 いずれにしても、田村厚生労働大臣は、安倍政権が推し進めようとする残業代ゼロ制度に関して、閣僚の立場にありながらも消極的な意見を述べたということなのです。

 何故敢て安倍総理に逆らうようなことを言ったのでしょうか?

 それは、そもそも残業代ゼロ制度を打ち出すということが旧労働省の存在の否定するようなものだからなのです。

 企業が優越的な立場を利用して労働者に対し不利な労働条件を押し付けようとするのを何とか阻止して労働者のために働くのが旧労働省の存在意義であるのです。そして、今、その旧労働省の存在を軽視するような動きに安倍総理が出ているので、こうして田村厚生労働大臣は旧労働省の役人の代弁をしているのです。

 いずれにしても、厚生労働省も残業代ゼロ制度に真っ向から反対している訳ではありませんが、その対象になるのは、為替リーダーなどの年収2千万円以上の人々に限るなどと言っているので、実質的には残業代ゼロ制度に反対しているのと同じであるのです。

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