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消費増税後の日本経済

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●成長のエンジンは家計から企業へ

さて、1-3月期の実質GDPを項目別にみると、個人消費が+2.1%と高いのは想定の範囲内だが、それ以外では民間設備投資の+4.9%が一種のポジティブサプライズであった。

なにしろ設備投資は、昨年は-2.0%、1.0%、0.7%、1.4%と低迷してきた。せっかく円安・株高で業績が上がっているのに、企業はキャッシュを貯め込むばかりで投資や雇用が伸びてこない。今年の春闘では、政府に背中を押されるようにしてようやく賃上げに踏み切るケースが目立ったが、「いつになったら企業部門は動き始めるのか」とイライラしていた向きは少なくなかっただろう。

おそらく企業が設備投資をする際には、「増税前の駆け込み」はあまり意識しないはずである。1ドル100円前後の為替レートが1年近く続いたことで、ようやく設備投資が動き始めたということであろう。ゆえに4月以降は、家計部門が増税で減速する一方で、入れ替わりに企業部門が活発化することになるのではないか。

思うにアベノミクス1年目の2013年度は、活発な個人消費と公共投資が景気の牽引役となった。2年目の2014年度は、企業の設備投資と輸出が伸びることになるだろう。つまり経済成長のエンジンを、家計部門から企業部門にシフトすることが望まれる。

実際、デフレ脱却が実感されるようになってくると、75兆円(企業の純利益の4年分!)とも言われる企業の手元資金は、時間とともに減価していくことになる3。だったら企業としては、設備投資でも研究開発でも使っておく方が合理的ということになる。もちろんM&Aや自社株買いでも構わない。日本企業はなるべく早く、「キャッシュを貯めこむ」というデフレ期の習性から抜け出すべきであろう。

個人のレベルでも同様なことが言える。毎年1%ずつ物価が下がる経済においては、「手元の100万円は、来年には101万円の値打ちがある」ことになり、なるべくキャッシュを残してじっとしている方が賢明だということになる。もちろん借金などは愚の骨頂である。それが、「手元の100万円は、来年は99万円」(=物価上昇1%)という世の中に転じた場合、消費や投資が喚起されるのは当然のことであろう。

本日(5月30日)発表された消費者物価を見ると、4月の物価総合指数は3.4%となり、増税効果分(約1.7%と試算されている)を差し引いても、1%台半ばの物価上昇が続いていることになる。2013年度の年平均(総合)も+0.4%となった。今から再び物価下落に戻るという予想は、さすがに少数派になっていることだろう。

もっとも日本経済は、1998年以来ずっと緩やかな物価下落が続いてきた。企業も家計も基本的に「縮み志向」になっている。この心理的な「慣性」から抜け出すことは、けっして簡単なことではないはずである。

3 日本経済新聞5月26日一面「日本企業最高益への挑戦」から

●輸出は「まだ本気出してないだけ」

もうひとつ、2014年度の日本経済で期待したいのが輸出の伸びである。
2013年度の貿易額は、輸出が70.9兆円、輸入が84.6兆円、貿易収支は13.7兆円の赤字となった。「毎月1兆円超」の貿易赤字が続いており、「多過ぎる貿易黒字」を批判された昔日の面影はすっかり消え去っている。

○貿易動向(月次データ・季節調整値) 画像を見る

輸入の増加は、(1)通信機、自動車、医薬品など製品輸入の伸び、という構造的要因と、(2)原発停止に伴う鉱物性燃料の伸び、という期間限定的な要因が重なっている。前者は日本経済の成熟化を考えれば当然のことであり、後者は今後の原発再稼働によっていずれ縮小に向かうだろう。また、今年1~3月の輸入は消費税駆け込みによる上振れ効果が窺える。ゆえに4月以降の輸入は、やや縮小に向かうはずである。

問題は輸出である。日本経済の「四番打者」ともいうべき製造業は、いわばバットが湿った状態が続いている。ただし、「日本の製造業は空洞化してしまって、もう輸出するものがない」という見方は極端過ぎるだろう。円高是正が進み、企業が生産比率の見直しを始めたとしても、その効果は1年やそこらでは表れない。昨年度は「強過ぎる内需」のお陰で、「輸出に回す商品が足りない」という現象もあったと聞く。2014年度の景気は、「これまで沈黙していた主砲のバット」に懸っていると言っていいだろう。

とりあえず4月の輸出数量は、前年同期比+2.0%ということで「目覚ましい伸び」とはならなかった。しかしここへ来て民間設備投資が増加していることから見ても、今後の輸出の伸びには期待できると思う。思うにベテランの四番打者というものは、周囲から「もう限界」と言われ始めてからが意外としぶといものである。

●求む、成長戦略

こうしてみると、2014年度の日本経済はかなりいい形になっている。
5月21日に、金融政策決定会合後の記者会見に臨んだ黒田日銀総裁は、自信たっぷりに見えた。すなわち、日銀から見ると今の日本経済は物価が1%台で安定し、消費税増税分はちゃんと転嫁されており、景気腰折れの心配もない。失業率は低下し、むしろ人手不足が心配されている。「異次元の金融緩和」を批判した人も居たけれども(筆者も懐疑的だった)、1年たってみてどうですか、と言っているようであった。

まことに仰る通りで、今後の日本経済の課題は構造改革にあり、ということになる。黒田総裁の言葉を借りれば、「供給面の問題が明らかになったのだから、成長力を高め、持続的な成長を実現するための議論を幅広くやっていく」ということである。

そこで来月にも発表されるという成長戦略の第2弾が重要になってくる。
期待その1は「国家戦略特区」であるが、正直、うまくいくようには思えない。小泉政権時代の「構造改革特区」はボトムアップ方式であったが、これをトップダウンにしてみたところ、自治体との齟齬が目立っている。特に東京都は23区中9つの区のみを特区に指定するというやる気のなさである。察するに都庁としては、「自分たちはこれから東京五輪をやるんだから、ほかのことは勘弁してくれ」という感じなのではないか。

期待その2は「法人減税」で、6月の骨太方針で打ち出されることになるだろう。ただし財源の問題もあり、年末に自民党税調が結論を出す頃には、相当に小粒な規模になっているかもしれない。メッセージ性という点で、やや物足りない感がある。

期待その3は「GPIF改革」で、年金基金の運用方法を見直して、国債を減らして株を買わせようというもの。外国人投資家の関心も高く、実際に株価対策としてはいいかもしれないが、日本経済の成長を促進する効果としてはやや疑問符が付く。

期待その4は「日本版スチュワードシップ・コード」で、いわば官主導によるコーポレートガバナンスの強化である。昨年の成長戦略で検討が盛り込まれ、今年2月に金融庁が「責任ある機関投資家の諸原則」として打ち出したもの。現在、大手金融機関が続々と受け入れつつあり、投資先に対して資本効率の向上を働きかけることになる。機関投資家としては必ずしも従う義務はないのだが、政府系の仕事が回ってこなくなるかもしれないと考えたら、たぶんノーとは言えないだろう。方向としては正しいと思うが、先の「官製賃上げ」と併せて、どうもお節介な感が否めない。

規制改革の基本は「一利を興すは一概を除くに若かず」ではないかと思う。余計な規制を取り除くのが本来の姿であり、「政府が民間に○○をしてあげる」という形は望ましくないのではないか。この点で、今の成長戦略の議論は少々隘路に入っているような気がする。政府たるもの、もう少し民間を突き放す感じがあっても良いと思うのである。

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