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- 2014年05月30日 23:00
消費増税後の日本経済
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消費税が8%になってから、ほぼ2か月が経過しました。4月以降の経済データもようやく揃いはじめて、景気への影響もだいたい見通しがついてきたところ。結論を先に言ってしまえば、増税による影響は思ったよりも小さい模様です。
思えばアベノミクス1年目の2013年度は、個人消費と公共投資が予想外に健闘しました。製造業よりは非製造業の健闘が光ったとも言えます。しかし2年目となる2014年度は、設備投資と輸出が主役となることでしょう。つまり家計部門から企業部門へと、景気の牽引役交代が待たれるところです。
デフレ脱却が見えかけた日本経済の現況を、あらためて整理してみたいと思います。
消費税増税はその典型例であった。4月1日を機にいろんな値段が変わった。JRの運賃は1円刻みとなり、郵便料金も端数が出た。多くのスーパーでは定価の表示方法が変わり、財布の中には1円玉や5円玉が増えた。外食産業では、増税をわかりにくくするために、大幅なメニュー刷新に踏み切ったところもある。まさに「値付けこそは経営なり」で、世の中が大きく変わったことは一目瞭然であった。
ところが、消費税増税に伴う景気への影響を、経済指標の中で確認することは容易ではない。なんとなれば、「4月のデータ」が揃うのは早くても5月に入ってからである。しかるに4月1日の当日から世の中の変化は始まっている。この間の雰囲気の変化は、自分の皮膚感覚で掴み取る以外にはない。
そこで4月の冒頭週を、個人的に「街角景気ウォッチング」に充ててみた。
まずはかねて検討中だったiPad miniを、わざわざ4月1日に銀座のアップルショップに買いに行った。ここは増税とは無縁な場所の典型で、店内は3月までと変わらず活況であったし、買った商品の初期設定を手伝ってもらっている間にも、ベテランユーザーから初心者までがひっきりなしに店を訪れていた。スマートフォンやタブレット型端末の最新型は、増税後も値引きなしで売れる人気商品なのであった。
逆にデパートの紳士服売り場は客が少なく、歩いているとすぐに店員から声をかけられた。しかしそれでも婦人服売り場よりはずっとマシであって、どうも女性の方が男性よりもはるかに計画的に、「3月中に」買い物を済ませていたようであった。
面白いのが外食関係で、関係者の言によれば「この業界の値上げは、既に去年から始まっている」とのこと。ガソリンや電気代などは昨年から既に上がっていたし、食品偽装問題もあったことから、最近の消費者は多少の値上げは受け入れてくれるのだという。実際に、上手に値上げしたチェーンは普通に客が入っていて、むしろ安値にこだわったチェーンの方が苦戦している。アルバイトが集まらなくなって、「パワーアップ閉店中」を余儀なくされている某牛丼チェーンなどは、その典型であるかもしれない。
ところで、「街角景気ウォッチング」をしているうちに、リアルタイムで手に入る景気指標があることに思い当たった。それはマスコミ各社が毎月行っている世論調査である。消費者が増税を負担に感じていれば、確実に内閣支持率が低下するはずである。幸いなことに各社発表のタイミングはバラバラなので、平均すれば趨勢が掴めるはずである。
結果は下記の通り。毎日新聞だけがやや「異常値」になっているものの、全体は「4勝4敗」で有意な変化は読み取ることができなかった。ということは、「民意は消費税増税にさほど影響を受けていない」という結論を導き出すことができる。
○マスコミ各社の内閣支持率調査1 画像を見る
1 http://www.realpolitics.jp/research/
個人的にありがたみを感じたのは、ホンモノの「景気ウォッチャー調査」(4月分)である。3月の同調査は、「現状判断は過去最高水準、先行き判断は大震災以来の低水準」だった。つまり「駆け込み需要で足元は良いけれども、先行き(3か月先)は悪い」という見通しだ。ところがどの程度悪く、どれくらい長期化するかが読み取れない。なにしろこの調査は2000年からで、過去に「増税局面」を経験したことがないのである。
5月12日に発表された4月分調査は、「現状判断」と「先行き判断」が見事に逆転していた。すなわち、4月の現状判断が15か月ぶりの50割れとなり(57.9→41.6)、先行き判断はどん底からいきなり50超えとなった(34.7→50.3)。つまり「街角景気」は、足元の景気は悪化したけれども、3か月後にはまた回復すると言っていることになる。
○景気ウォッチャー調査(現状=上と先行き=下) 画像を見る
さらに内閣府は、週1ベースで自動車、家電販売、飲食料品、百貨店、サービス販売などの消費動向を追跡調査している2。これらを見ても、4~5月の消費はほぼ反転、もしくは底入れしており、増税による景気腰折れの懸念はどうやら小さいといえそうだ。
2 「消費税率引き上げ後の消費動向等について」http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/shuji/
○GDP(実額)の推移 画像を見る
足もとの4-6月期は増税効果でマイナス成長となり、続く7-9月期は再び前期比プラスとなりそうだ。年末に予定されている再増税論議(8%→10%)においては、この7-9月期GDPが重要指標となるので、政府としてはむしろ4-6月期は低めに出る方が好都合、と考えているかもしれない。もっと言えば、5.5兆円規模の補正予算は夏場に集中的に投入し、7-9月期の成長率を高めにしたいという腹積もりであろう。
ちなみに消費税は1%ごとの税収が2.5兆円なので、2014年度は2.5兆円×3%=7.5兆円分の国民負担増となる。そのうち5.5兆円を経済対策として還元されるので、実質の国民負担増は約2兆円分で済む計算となる。1997年の増税時は2.5兆円×2%=5兆円に加えて、特別減税の中止と年金保険料増加が重なって合計9兆円の国民負担増であった。しかも景気対策を全く行っていなかったために、景気の腰折れにつながってしまった。
そこで今回は2兆円の負担増にとどめてある。これでは財政再建にはならないが、来年のことを考えると景気の腰折れだけは避けなければならない。意地悪く言わせてもらえば、政府が言う「好循環実現のための経済対策」(=補正予算の正式名称)とは、「物価上昇→賃上げ→デフレ脱却」という表向きの目標とは別に、「増税→対策→再増税」という財政にとっての好循環を狙っているように思える。
思えばアベノミクス1年目の2013年度は、個人消費と公共投資が予想外に健闘しました。製造業よりは非製造業の健闘が光ったとも言えます。しかし2年目となる2014年度は、設備投資と輸出が主役となることでしょう。つまり家計部門から企業部門へと、景気の牽引役交代が待たれるところです。
デフレ脱却が見えかけた日本経済の現況を、あらためて整理してみたいと思います。
●個人的な街角景気ウォッチング
別に自虐的になっているわけではないのだが、「景気はエコノミストよりもタクシーの運転手に聞け」というのは単なる冗談ではなく、重要な真実を含んでいると思う。少なくともタクシーの運転手は、みずからの「営業活動」という生データを持っている。それに対し、エコノミストとは公表データを基にして景気を判定する仕事である。経済データは誰かが作ってくれた時点ですでに古くなっている。ゆえに、速報性で劣るのである。消費税増税はその典型例であった。4月1日を機にいろんな値段が変わった。JRの運賃は1円刻みとなり、郵便料金も端数が出た。多くのスーパーでは定価の表示方法が変わり、財布の中には1円玉や5円玉が増えた。外食産業では、増税をわかりにくくするために、大幅なメニュー刷新に踏み切ったところもある。まさに「値付けこそは経営なり」で、世の中が大きく変わったことは一目瞭然であった。
ところが、消費税増税に伴う景気への影響を、経済指標の中で確認することは容易ではない。なんとなれば、「4月のデータ」が揃うのは早くても5月に入ってからである。しかるに4月1日の当日から世の中の変化は始まっている。この間の雰囲気の変化は、自分の皮膚感覚で掴み取る以外にはない。
そこで4月の冒頭週を、個人的に「街角景気ウォッチング」に充ててみた。
まずはかねて検討中だったiPad miniを、わざわざ4月1日に銀座のアップルショップに買いに行った。ここは増税とは無縁な場所の典型で、店内は3月までと変わらず活況であったし、買った商品の初期設定を手伝ってもらっている間にも、ベテランユーザーから初心者までがひっきりなしに店を訪れていた。スマートフォンやタブレット型端末の最新型は、増税後も値引きなしで売れる人気商品なのであった。
逆にデパートの紳士服売り場は客が少なく、歩いているとすぐに店員から声をかけられた。しかしそれでも婦人服売り場よりはずっとマシであって、どうも女性の方が男性よりもはるかに計画的に、「3月中に」買い物を済ませていたようであった。
面白いのが外食関係で、関係者の言によれば「この業界の値上げは、既に去年から始まっている」とのこと。ガソリンや電気代などは昨年から既に上がっていたし、食品偽装問題もあったことから、最近の消費者は多少の値上げは受け入れてくれるのだという。実際に、上手に値上げしたチェーンは普通に客が入っていて、むしろ安値にこだわったチェーンの方が苦戦している。アルバイトが集まらなくなって、「パワーアップ閉店中」を余儀なくされている某牛丼チェーンなどは、その典型であるかもしれない。
ところで、「街角景気ウォッチング」をしているうちに、リアルタイムで手に入る景気指標があることに思い当たった。それはマスコミ各社が毎月行っている世論調査である。消費者が増税を負担に感じていれば、確実に内閣支持率が低下するはずである。幸いなことに各社発表のタイミングはバラバラなので、平均すれば趨勢が掴めるはずである。
結果は下記の通り。毎日新聞だけがやや「異常値」になっているものの、全体は「4勝4敗」で有意な変化は読み取ることができなかった。ということは、「民意は消費税増税にさほど影響を受けていない」という結論を導き出すことができる。
○マスコミ各社の内閣支持率調査1 画像を見る
1 http://www.realpolitics.jp/research/
●ウォッチャー調査は「反動減は一時的」
5月に入ってからは、ようやく4月以降の経済データを確認できるようになった。個人的にありがたみを感じたのは、ホンモノの「景気ウォッチャー調査」(4月分)である。3月の同調査は、「現状判断は過去最高水準、先行き判断は大震災以来の低水準」だった。つまり「駆け込み需要で足元は良いけれども、先行き(3か月先)は悪い」という見通しだ。ところがどの程度悪く、どれくらい長期化するかが読み取れない。なにしろこの調査は2000年からで、過去に「増税局面」を経験したことがないのである。
5月12日に発表された4月分調査は、「現状判断」と「先行き判断」が見事に逆転していた。すなわち、4月の現状判断が15か月ぶりの50割れとなり(57.9→41.6)、先行き判断はどん底からいきなり50超えとなった(34.7→50.3)。つまり「街角景気」は、足元の景気は悪化したけれども、3か月後にはまた回復すると言っていることになる。
○景気ウォッチャー調査(現状=上と先行き=下) 画像を見る
さらに内閣府は、週1ベースで自動車、家電販売、飲食料品、百貨店、サービス販売などの消費動向を追跡調査している2。これらを見ても、4~5月の消費はほぼ反転、もしくは底入れしており、増税による景気腰折れの懸念はどうやら小さいといえそうだ。
2 「消費税率引き上げ後の消費動向等について」http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/shuji/
●政府の狙いは「7-9月期こそが勝負」
5月15日には1-3月期のGDP速報値が発表された。年率で5.9%という高い伸びを示しているので、これでようやく実額ベースでリーマン前の水準を超えることができた。名目GDPも、ここへ来て6四半期連続の伸びを示している。○GDP(実額)の推移 画像を見る
足もとの4-6月期は増税効果でマイナス成長となり、続く7-9月期は再び前期比プラスとなりそうだ。年末に予定されている再増税論議(8%→10%)においては、この7-9月期GDPが重要指標となるので、政府としてはむしろ4-6月期は低めに出る方が好都合、と考えているかもしれない。もっと言えば、5.5兆円規模の補正予算は夏場に集中的に投入し、7-9月期の成長率を高めにしたいという腹積もりであろう。
ちなみに消費税は1%ごとの税収が2.5兆円なので、2014年度は2.5兆円×3%=7.5兆円分の国民負担増となる。そのうち5.5兆円を経済対策として還元されるので、実質の国民負担増は約2兆円分で済む計算となる。1997年の増税時は2.5兆円×2%=5兆円に加えて、特別減税の中止と年金保険料増加が重なって合計9兆円の国民負担増であった。しかも景気対策を全く行っていなかったために、景気の腰折れにつながってしまった。
そこで今回は2兆円の負担増にとどめてある。これでは財政再建にはならないが、来年のことを考えると景気の腰折れだけは避けなければならない。意地悪く言わせてもらえば、政府が言う「好循環実現のための経済対策」(=補正予算の正式名称)とは、「物価上昇→賃上げ→デフレ脱却」という表向きの目標とは別に、「増税→対策→再増税」という財政にとっての好循環を狙っているように思える。
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



