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【第157回】「どっちが深刻? 世界の貧困、日本の貧困 『犠牲の累進性』を超えて」の巻 - 雨宮処凛

前回は「夏休み」ということで更新がなかったが、みなさんには「夏休み」は存在しただろうか。私は北海道に3日ほど帰省し、戻ってきた翌日の8月15日にNHKの「日曜討論」に出演した。見た人はご存知だろうが、テーマは「消えた高齢者」と大阪の子ども置き去りなどの「児童虐待」。

私自身は、家族が最初で最後のセーフティネットになっていて、結局問題が家族に丸投げされていること(機能している家族だったらいいが、貧困などによって機能していなければ様々な問題が起こるはず)や、シングルマザーの実態などについて、話をさせて頂いた。他の出演者は吉岡忍氏や西部邁氏など。で、ショックを受けたのは、児童虐待の話の時、西部氏の口から発された「産み散らかして」という言葉だ。

何か、すごい言葉じゃないだろうか・・・。あと、西部氏は将来の計画を立てて子どもを産むべきだ、というようなことも言っていたのだが、自分の親世代やその上の世代などが、それほど将来設計を明確にしていたのかと考えるとどうも怪しい気がする。たまたま経済成長時代で、夫が正社員で妻が専業主婦で、ってな「モデル家族」を基準とした社会だったからこそなんとかなった部分が非常に大きい気がするからだ。時代の後押しというか、前提が今とは違いすぎる。

しかし、なんとかなった人はその当時のことなど忘れ、「自分は綿密な将来設計を立てていたからなんとかなったのだ」などと大嘘をついたりするのでやっかいだ。そういう「将来設計を綿密に立てない奴は子どもなど産むな」的な言い分は、少子化を推進するだけだろう。もちろん、現実を見ることも大切だが(AIU保険の試算では、日本では子ども一人が大学を卒業するまでにかかるお金は3000万)、「なんとかなった」世代の人々には、子育てするにあたっての前提が過去の日本とはまったく違うことをぜひ考慮してほしい、と切に思った。でないと、その言葉は時にとてつもない暴力性を帯びてしまう。

さて、本題。9月19日、タイトルにあるように「どっちが深刻?世界の貧困、日本の貧困 『犠牲の累進性』を超えて」というイベントを開催する。「反貧困ネットワーク」と「動く→動かす」の共催で、私や湯浅さんも出演する。で、今回のイベントタイトルの名付け親は私だ(自慢)。会議で話しても全然タイトルが決まらず、弁護士会館地下のお蕎麦屋さんに場所を移してビールを飲み始めたらすぐにこのタイトルが浮かび、決定となった。

ちなみに共催の「動く→動かす」とは、途上国の貧困に取り組むNGO。「世界の貧困」と「日本の貧困」って、時に対立するような扱われ方をしてきたのだが(アフリカの貧困に比べたら日本の貧困など大したものではない、という感じで)、「犠牲の累進性」を乗り越える形で、どちらについても考えてみようという主旨である。

ちなみに「犠牲の累進性」とは、『生きさせろ!』で取材させて頂いた社会学者の入江公康氏から教わった言葉。「お前の置かれた状況などは、ほかのもっと貧しい人や大変な人に比べたらなんでもない」というような言い分で問題から目を逸らさせ、我慢を強いるやり口や雰囲気のことだ。例えば正社員の長時間労働より非正規の低賃金の方が、非正規の不安定労働よりもホームレスの過酷な生活の方が、日本のホームレスよりも第三世界のスラムの貧民の方がより貧しくて大変なんだ、という形で、現在その人が向き合っている困難を呑ませようとするやり口。

非常にいい使用例がある。それは私が石原慎太郎都知事と対談した時のこと。日本の貧困問題を話す私に、石原氏は突然ウガンダやチェチェンの話を始めたのだった。「そっちよりはマシ」という感じで。この時私は、「それって『犠牲の累進性』ですね」と突っ込めばよかったのである(その時は忘れていた)。

こういった形で常に「○○よりはマシだ」と比較していくと、例えば先進国の日本に住んでいる、というだけで弱音を吐いたり「辛い」と言ったりする「資格」がないことになってしまう。しかしながら、そんな日本では過労死や自殺が横行し、路上で亡くなる人も絶えないなど実際に命が失われている。つい最近も、新宿アルタのすぐ近くで、路上生活をしていたらしき人の遺体が発見されたという話を聞いた。この猛暑の中、誰にも気づかれず、既に死後硬直が始まっていたという。

このように、実際に命は失われている。しかし、日本の貧困はまだマシという雰囲気はいまだあって、それが解決を遅らせている。それでは「世界の貧困」に強い関心が向けられているかというと、「自分には関係ない遠い国の話」といった反応をする人も少なくないのではないだろうか。

一方で、なんとなく「世界の貧困」と「日本の貧困」が運動として住み分けているようなイメージもある。しかし今回、このような形で両方を一緒に考えるという機会ができたわけだ。

シンポジウムのパネリストは、「動く→動かす」事務局長の稲葉雅紀氏、そして青年海外協力隊員としてエチオピアの国営TV、飢餓難民救済委員会で活動し、東欧の激動や湾岸戦争、カンボジアPKO、ルワンダ内戦、アフガン、イラク戦争など60カ国以上を取材してきたジャーナリストの吉岡逸夫氏、そして湯浅さん、私だ。吉岡さんとは10年くらい前に知り合い、その後、「なぜ日本人はイラクに行くのか」で取材を受けたものの、こういった問題で語るのは初めてなのでどんな展開になるのか非常に楽しみである。

ぜひ、足を運んでほしい。

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