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「助けて」の心が生み出す新たな社会 - 奥田知志

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弱者から次代の花形が出る

 私がこのような思いを抱く根底には、キリスト教の宗教的な思想があります。

 キリスト教の本質を極めて単純化して言えば、私が背負わなければいけなかった十字架をイエス・キリストが代わりに背負い、そのキリストが私の代わりに傷つき死んでいく、その贖いによって、私たちは赦され生かされているという考え方です。つまり、キリスト教最大のメッセージは、十字架に架けられ傷ついた者が救い主であるということです。

 ヨハネの福音書に「光はやみの中に輝いている」という言葉があります。私はホームレス支援の活動を通して、苦しむ人、追いやられた人たちが持つ認識論的特権があることを学びました。そして、野宿の親父さんたちから人間とは何かを教わったのです。「弱者」として蔑まれている人々から学んでいく視点こそ、今の時代に足りないものだと思います。

 かつて教育学者の林竹二氏が「創世記」という授業の中で語った生物の進化についての話が印象的です。それは、すべての生き物は、最初水の中から生まれた。その後、最善の深さのところを占領する強者が現れる。そうすると弱い者は浅い水際に追いやられるが、その弱い者の中から陸でも水でも生きられる両生類が生まれる。さらにその中の弱い者は水のないところに追いやられ、そこから陸上の動物が生まれてくる。こうして弱者の間から〝次の時代の花形が出現する〟という視点です。

 そこで気づかされることは、進化とは弱者の系譜だということです。私はここに次代の希望を見出します。強い人が弱い人を助けるのではなく、弱い者同士だからこそ、絆が必要であり、その弱さや貧しさを背負わされた人たちこそが、新しい絆を創り出していくのだと考えます。

傷を分かち合う社会の仕組みづくり

 人との関わりを避けることで、自分の安心・安全を保とうとする人がいますが、私は「自分を守る」ということの本当の意味を見つめなおす必要があると思います。

 水の中で泳げる人と泳げない人の違いの1つは、息継ぎができるかどうかです。泳げない人は水中で息を吐かないから水面に顔を出しても肺がいっぱいでそれ以上息を吸うことができません。水中でしっかり息を吐く人は顔を上げた時に息を吸うことができます。

 今、多くの人がゆとりのない中で、他者との関わりを避け、まるで、水中で息を吐かないように、いろいろなことを手放さず握りしめています。でもそれで本当に安心・安全を手に入れることができるのでしょうか。

 私には、現代人がこの安全の確保によって、自らを無縁という孤独へと追い込んでいるように思えてなりません。

 聖書の中には「汝のパンを水の上に投げよ。汝、後の日にそれを見出さん」(伝道者の書11章)という言葉がありますが、本当の意味で自分を守るというのは、傷つくことであり、手放すことだということを教えてくれています。

 そして社会という視点で語るならば、自己責任だと言って、一部の人だけに致命傷を負わせる社会ではなく、赤の他人同士が傷を分かち合えるように、傷を再分配していく仕組みづくりが必要だと考えます。それはいわば「健全に傷つくことを保障する社会」です。

 そのように他者を生かし、自分を生かしていく〝絆の傷〟が生まれていけば、きっと〝タイガーマスク〟も胸を張って正体を現すことができるはずです。

 そんな新しい社会を生み出していくキーワードが「助けて」という言葉なのだと思います。

<月刊誌『第三文明』2014年5月号より転載>

リンク先を見る 『「助けて」と言える国へ――人と社会をつなぐ』
奥田知志、茂木健一郎
価格 821円/集英社新書/2013年8月21日発刊
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おくだ・ともし●1963年、滋賀県生まれ。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。NPO法人 北九州ホームレス支援機構理事長。関西学院大学神学部大学院修士課程修了。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)、脳科学者・茂木健一郎氏との共著『「助けて」と言える国へ』(集英社新書)がある。 
NPO法人北九州ホームレス支援機構リンク先を見る

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