記事

「侵略された領土を軍事力で取り戻す」ということ

 きょうの朝日新聞に、アメリカのシンクタンクがアジア11カ国の外交専門家らを対象に行ったアンケート調査(朝日新聞後援)の結果が出ていた。10年後のアジアを考えるのが趣旨のようだが、その中に気になる設問とその回答が図示されていた。「侵略された領土を軍事力で取り戻すことに賛成?」と聞いて答えさせている。

 結果は、賛成率の高いのがアメリカ、台湾、韓国、インドネシアで、やや低いのがタイ、ミャンマー、オーストラリアとなり、平均では賛成が81%で反対は10%しかない。日本は81%の平均値で、中国はやや高い83%だった。これは相手国が一方的に悪いような聞き方をしている設問が良くないし、国民一般を対象にした調査でもないのだが、それにしても「軍事力で取り戻す」意見が圧倒的に多いのには驚く。あたかも戦時モードを煽るキャンペーンのようだ。

 そもそも「侵略された領土」という規定には、客観的な基準が何もない。千年も昔の歴史を持ち出すこともできるし、ほとんどすべての領土紛争に「失地回復の正義」が語られなかったことがあっただろうか。人間集団の縄張りには、必ず支配のあいまいな周辺地域が残る。そこで止むをえず関係者の知恵で線引きをしているに過ぎないのだ。

 「領土を守る」と言えば、父祖の代から伝わる生れ故郷を侵略者から守るような悲壮感があるかもしれないが、現代の紛争にそのようなものは少ない。多くは国が決めた「たてまえ上の領土」をめぐる論争や紛争になっている。「行ったことも見たこともない周辺の寸土を守るために、あなたは命を捨ててもいいと思えますか」と聞いたら、回答はずいぶん違ったものになるだろう。現代の戦争では、前線の兵士よりもはるかに多くの民間人が殺されるのが常識なのだ。

 石垣の竹富島の人々が採用を拒否したという育鵬社版の「中学公民教科書」の概要を見てみた。尖閣諸島のところでは、日本の固有の領土であって、中国が海洋資源を目的として領有権を主張してきているという、外務省のホームページからの引用だけを掲載して、他のことは何も説明していない。国の広報機関に徹しているのがよくわかった。

 この「固有の領土」論と「侵略された領土」アンケートは、今のところ別個のもので関連はないように見える。しかし集団的自衛権など、「軍事力の行使」が国として必要不可欠だとする議論を常識化しようとしている今の雰囲気には、非常に危険なものがある。孫子も言うように「兵は国の大事」である。軽々しく論じてほしくない。

あわせて読みたい

「領土問題」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    酷暑下の札幌五輪マラソン 市民の冷ややかな声も少なくない

    NEWSポストセブン

    07月27日 09:36

  2. 2

    “愛国芸人”ほんこんが「デマツイート」で提訴される 原告代理人・米山隆一氏は怒り

    SmartFLASH

    07月26日 09:58

  3. 3

    中国、ロシア製ワクチンと立憲民主と共産党 まあ少し可哀想ではあるけど、ブレインが悪いのとセンスがないというだけ

    中村ゆきつぐ

    07月27日 08:26

  4. 4

    野球は7回、サッカーは60分に!若者のスポーツ観戦離れを「時短化」で食い止めろ

    土屋礼央

    07月27日 08:11

  5. 5

    東京都で過去最多となる2848人の感染確認 20代951人、30代610人…重症者は4人増の82人

    ABEMA TIMES

    07月27日 17:07

  6. 6

    プロフェッショナルなサービス、人はそれを必要とするか?

    ヒロ

    07月27日 11:31

  7. 7

    ファイザー製ワクチン、接種から7カ月で抗体レベル減少 デルタ株への免疫力低下も

    ABEMA TIMES

    07月27日 15:33

  8. 8

    安定的な皇位継承 旧宮家の男系男子の皇籍復帰が必須だ

    和田政宗

    07月27日 13:45

  9. 9

    東京の新規感染者数が2848人…「緊急事態宣言って何」の声

    女性自身

    07月27日 21:31

  10. 10

    「世襲議員」は是か非か、制限することは可能なのか。まずは政治資金団体を課税対象にするのが現実解?

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月27日 10:14

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。