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裁判員制度「強制」効果拡大の失敗

 最高裁が毎年行う裁判員制度に関する国民の意識調査のなかの、参加の意思を問う設問では、肯定・否定の回答がそれぞれ2種に分類されています。参加に肯定的な意見が「参加したい」と「参加してもよい」であるのはいいとしても、かねてから気になるのは否定的な意見の分類、「あまり参加したくないが、義務であれば参加せざるを得ない」と「義務でも参加したくない」の方です。

 何で最高裁は、ここで「義務」というものを挟んだ、こんな国民の意思の採り方をあえてしているのでしょうか。あくまで、「義務でも」の回答設定も、「参加しない」ではなく、「したくない」という希望で、拒否の意思をストレートに聞いた形をとっていません。いうなれば、「したくない」意思を程度であえて分けた格好です。

 これは、見方を変えれば、「強制化」に対する「効果」の分類といえます。同じ「したくない」人のうち、「強制化」の効果あるいは脅威で参加をしぶしぶ選択する人の割合。実はともに裁判員制度の必要性や参加の意義を積極的に認めているわけではない「したくない」という消極派のうち、「義務」を出されては逆らえない人と、最終的に拒否できるかはともかく、少なくとも正直な意思を表明できる人の違いともいえます。

 そして、こうした形で国民の意思を分類したい側の意図として、あることが推察できます。それは、一口にいえば、「強制化」の効果拡大です。そもそも「義務」という言葉を挟むこと自体、この制度が「強制」であることの周知・脅威の拡大を狙っているといえるものですが、要は前者の「効果」の部分への取り込みです。つまり、みんな「やりたくない」のは同じ、でも、これだけの人が「義務」ということで「納得」しているではないか、あなたはどうなの、と。あたかも「納税」のように、「やりたくない」けどやっている人もいるんだから、あなたも「義務」を自覚しようよ、国民として、というメッセージになるということです。

 だから、制度推進者がおそらく思い描いた展開は、「義務でも」の人が、「義務なら」にどんどん転換し、「義務なら」で参加した人が「参加してよかった」と発言し、やがて前記肯定的評価2種に流れるストーリー。その「強制化」の効果のストーリーが、はっきりするアンケート結果を、ここで期待しているのではないかと思うのです。そして、それは取も直さす、彼らにとって、「強制化」して「よかった」というストーリーです。

 残念ながら、制度開始5年が経っても、そういうストーリーにはなっていません。2009年度の意識調査であった「義務なら」44.9%、「義務でも」36.3%は、2013年度には前者が40.6%に減り、後者が逆に44.6%と増加。積極意見2種の合計も18.5%から14.0%に下降し、これらいずれにも該当しない「わからない」が1.3%から0.8%に。制度の実態が分かれば分かるほど、国民の意思はよりはっきりと拒否の方向に流れている、といえます。「強制化」の効果のストーリーとは、真逆といっていい状況です(「平成25年度裁判員制度の運用に関する意識調査」)

 今年の憲法記念日の最高裁長官談話では、裁判員制度について「順調」という文字が消え、「様々な課題」の存在の方に言及していますが、最高裁もこの現状には、さすがに「順調」という言葉はあてはめられなかった、という見方も出ています。

 5月23日、朝日新聞の「社説」は、5年という節目の裁判員制度を取り上げていますが、「強制化」という問題に言及しないのはもちろんのこと、このはっきりとした国民の反応を、あくまで「強制化」の失敗として見ない、あるいは読者に見させない論調に終始しています。世論調査の結果に加え、辞退率が2009年53%から2013年63%に増えていることまで紹介し、「制度が定着化とは逆行しているように見えるのはなぜか」と自問しながら、学者のコメントを引用しつつ、原因をすべて「裁判員の経験を社会で共有できていない」ことに被せています。

   「強制化」の効果のストーリーは厳然と残っているのに、「やってよかった」がもっと広がれば、あたかも主体的な積極参加意見が増えるという見方です。急性ストレス障害になった裁判員が、「強制化」の脅威ゆえ参加を余儀なくされ、それを拒否しきれなかったことを今、後悔し、もう二度と自分のような被害者を産まないでほしいと叫んでいることを「朝日」が知らないわけもありません。

 「朝日」はこの社説でも、「社会の正義は、『お上』にまかせるものではない」などと、またぞろ「お任せ司法論」を持ち出しています。しかし、肝心なことは、裁判員制度は国民の「お上に任せられない」という意識のもとに作られた制度ではない、ということです。国民の意思を反映させるという制度が、国民の意思を反映していない――。「強制化」の存在そのものが、そのことを物語っている制度の現実は、少しも変わっていないというべきです。

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