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「集団的自衛権はナショナリズムではなくリアリズム」 - 衆議院議員・自由民主党幹事長 石破茂

※本シリーズは、5月27日発売の「文藝春秋SPECIAL」との共同企画です。本誌掲載記事の一部を4週にわたって配信いたします。(BLOGOS編集部)
<テーマ:集団的自衛権容認は日本の右傾化なのか>

「集団的自衛権と靖国参拝に、何の関係があるというのですかね」
〝ミスター集団的自衛権〟が語る憲法解釈変更の理論と道のり

衆議院議員・自由民主党幹事長 石破茂
聞き手 評論家・拓殖大学客員教授 潮匡人

−今年、石破さんは『日本人のための「集団的自衛権」入門』(新潮新書)を上梓され、増刷を重ねていますが、いまなぜ集団的自衛権なのでしょうか。

石破 東西冷戦の頃は、バランス・オブ・パワー(力の均衡)が保たれ、第三次世界大戦は回避されました。冷戦は「長い平和」の時代でもありました(J・L・ギャディス『ロング・ピース』芦書房)。その冷戦構造が崩壊し、力の均衡が崩れた。冷戦の終結が、その後の湾岸戦争やユーゴ紛争、イラク戦争を生んだとも言えるでしょう。アジア太平洋においても再び、地域の力を均衡させる必要が生まれているのです。

−「リバランス政策」とも呼ばれる、米オバマ政権が掲げるアジア太平洋重視戦略の背景ですね。

石破 それも、今、日本が集団的自衛権の行使を可能としなければならない背景の一つです。日米同盟を強化し、加えてオーストラリアその他アジア太平洋諸国との関係を強化することで地域のバランスを保つ。集団的自衛権の行使を認め、将来的には日米安保を再改定する。それが独立主権国家としての本来のあり方ではないでしょうか。

−一部マスコミは、集団的自衛権の行使に向けた政府・自民党の動きを「右傾化」や「ナショナリズム」の脈絡で批判しています。

石破 かつて江藤淳氏は、「保守主義にイデオロギーはありません。イデオロギーがない?これが実は保守主義の要諦なのです」と書きました(『保守とはなにか』文藝春秋)。皇室を敬い、家族や地域共同体を大切にし、歴史と伝統文化を守る。それが本来の保守でしょう。それと集団的自衛権の問題は、なんら関係がありません。

集団的自衛権をナショナリズムと結びつけるのは「国連憲章」をきちんと理解していない証拠です。集団的自衛権は、国連憲章によって「固有の権利」と規定されたものです。国連は、国際紛争を個別の国家間の戦争ではなく、国連加盟国全体で解決するという集団的安全保障の精神で作られています。しかし一方で、憲章は安保理の常任理事国に拒否権を与えました。拒否権が行使されれば、国連は紛争に介入できす、集団安全保障体制は機能しません。だから中南米諸国などが「われわれ小国はどうなってしまうのか」と不安の声を上げたのです。そこで集団的自衛権を規定した。そもそも集団的自衛権は、大国の横暴から小国が連携して自衛を図るための権利なのです。それを「侵略戦争」や「ナショナリズム」と結びつけるのは、かなり飛躍した発想ではないでしょうか。

「憲法は政府を縛る」だけでは狭すぎる

−たとえば朝日新聞は「集団的自衛権 解釈で9条を変えるな」と題した社説で「時の首相の一存で改められれば、民主国家がよってたつ立憲主義は壊れてしまう」と批判しました(今年三月三日付)。

石破 私は学者ではありませんので、さまざまな学説について議論はしませんが、「憲法は政府を縛るものだ」とすることだけを立憲主義と捉えるのは狭すぎると思います。憲法の定める基本的人権の尊重や平和主義、国民主権といった基本原理は政府を拘束しますし、変えてはなりません。他方、時代に応じて変えなければ国民の安全が保てないのであれば、変えるべきものもあるはずです。しかも立憲主義によって三権分立が厳格に定められている以上、「時の首相の一存」で改めることは不可能です。憲法に従い、主権者たる国民が選んだ国会議員によって選ばれた内閣として決定するのであり、閣議決定しても、国会が法律を整備しなければ行使はできません。

−朝日は「日本近海での米艦護衛は、基本的には個別的自衛権の枠組みで対応できる」とも主張しました(平成十九年五月三日付)。こちらは個別的自衛権の解釈を拡大していこうという話ですから、これだって「時の首相の一存」になるはずですね(笑)。

石破 今は日本海海戦(日露戦争)の時代と違って、艦船が整列して航行するわけではありませんから、米艦護衛の議論をする場合も、防護すべき米艦は水平線のはるか向こうにいると考えるべきでしょう。その米艦に対する攻撃を日本に対する攻撃とみなすのは、国際的には国際法とは隔たりのある日本独自の解釈と言われてしまう危険性があると思います。いくら日本が「個別的自衛権」と言っても、海外から見れば集団的自衛権の行使にしか見えないわけですから。

靖国参拝とは無関係

−朝日こそ時代錯誤です。個別的自衛権の拡大こそ「いつか来た道」でしょう。その朝日新聞が今年三月十六日付朝刊一面に《(集団的自衛権 行方を問う)「ナショナリズムとの連動、懸念」ナイ教授に聞く》と題した記事を掲載、こう報じました。

「オバマ米政権に近い米国の知日派の代表格として知られる米国のジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授(元米国防次官補)が朝日新聞のインタビュー取材に応じた。安倍政権が進める集団的自衛権を巡る憲法解釈の見直しに向けた動きについて、安倍晋三首相の靖国神社参拝などを例示して『政策には反対しないが、ナショナリズムのパッケージで包装することに反対している』と語った」


石破 集団的自衛権と靖国参拝に、何の関係があるというのですかね。私は憲法改正論者ですし、集団的自衛権行使を可能とすべきとずっと考え、行動していますが、靖国神社にはある時期からは参拝しておりません。これは私なりの考えですが、政治家の務めは自ら参拝することではなく、天皇陛下に御親拝を賜る環境を整えることだと思っています。それがかつての大日本帝国と英霊との間に交わされた約束ではないのか。われわれ戦後の政治家は、その約束を実現しなければならない。それが実現でき、天皇陛下が御親拝されたら、私はその日のうちに参拝するつもりです。

靖国参拝と集団的自衛権には何の関係もありませんし、ナショナリズムから集団的自衛権を議論しているわけでもありません。地域における抑止力を高めるか否か。問われるべきは、その一点です。

−米誌「タイム」(アジア版)の表紙の顔に安倍総理が起用され、「パトリオット(愛国者)」と紹介されたことを懸念する声もあります。

石破 「パトリオット」は米軍の迎撃ミサイルの名称にもなっているように、けっして悪い意味ではありません。「ナショナリスト」とは違います。

−むしろナショナリズムと批判されるべきは、日本の政府・自民党ではなく中国、韓国ではないのかと私は感じています。中国や韓国のほうが、日本よりナショナリスティック(国家主義的)だと思いますが、なぜかマスコミは「日本の集団的自衛権行使を国際社会が懸念している」と批判します。

石破 集団的自衛権行使についての批判を、国連常任理事国たる中国や、国連事務総長を出している韓国が言うのは本末転倒でしょう。常任理事国である中国や事務総長の任を負う韓国こそ、国連憲章の理想を体現すべきであり、集団的自衛権は国連憲章が認めている権利なのです。先日まで訪米していましたが、会談した中で日本の右傾化に対する懸念が示されたことはありませんでした。バイデン副大統領、ヘーゲル国防長官、国務副長官、あるいは下院議長、院内総務その他、共和党・民主党問わず、多数の政府高官や議員に会いましたが、誰一人「安倍はナショナリストだ」などと言った人はいません。むしろ皆さんが共通して表明したのは、日本ではなく中国への懸念でした。アメリカのみならず国際社会は、中国の不透明な軍拡や強引な海洋進出を不安に思っています。

私は昭和六十一年から議席を頂いていますが、二回目となった平成二年の総選挙以来、集団的自衛権行使を公約に掲げてきました。ようやく今、その議論がメジャーになっています。一昨年秋の自民党総裁選で真正面から集団的自衛権を問うたのは、安倍候補と私だけでした。示し合わせたわけではありませんが、演説の内容もかなりの部分で重なりました。二人とも憲法改正と集団的自衛権を唱え、決選投票で安倍候補が勝った。その後自民党は安倍総裁、石破幹事長という体制で、衆・参の国政選挙に勝利した。以上の経緯を考えても「時の首相の一存」ではありえません。

ナショナリズムに走らない、冷静な議論を

−集団的自衛権問題の解決は、憲法解釈の変更によるのではなく、憲法自体を改正すべきとの主張があります。解釈修正を「裏口入学」と揶揄する向きもあります。石破さん自身、憲法改正論者であり、防衛法制を抜本的に改正すべきと主張されてきました。自民党の「国家安全保障基本法案」も石破さんが取り纏めたと承知しております。

石破 正直に申し上げると、十数年前までは私も「集団的自衛権を認めるなら憲法改正が必要だ」と考えていました。しかし、佐瀬昌盛先生(防衛大学校名誉教授)の論文などに触発され、考えを深めていくようになりました。集団的自衛権が行使できないというのは、憲法のどこにも「行使してはいけない」と書いていない以上、あくまで憲法解釈としての制約に過ぎない。その場合の憲法解釈が正しいのであれば憲法を改正しなければなりませんが、もし解釈が間違っているなら、何も憲法を変える必要はない、そう思い始めたわけです。

当時、私は自民党を離れ、新進党の議員でした。私が自民党を離れた大きな理由の一つは、河野洋平総裁時代、憲法改正に向けた動きが止まったからです。次に所属した新進党を離れた大きな理由も、小沢一郎党首が「集団的自衛権は認めない」という公約を掲げたからです。これらの行動は、複数の政党を渡り歩いたと批判を浴びましたが、私の主張はなんら変わっていません。むしろ主張を曲げず筋を通そうとした結果、そうなったわけです。

そもそも、なぜ憲法九条の解釈として「集団的自衛権の行使は許されない」と言えるのか、それを論理的に説明できた人は誰もいません。国会でも合理的に透徹した説明をした人はいない。それは結局、合理的には説明できないからではないでしょうか。

日本国憲法は前文で「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」、「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と明記しています。その憲法の解釈として、「集団的自衛権はダメ」というのは、もはや「間違った解釈」として修正すべきではないでしょうか。

−自公は、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」に対処するための法整備を先行させると報じられています。なぜ集団的自衛権より優先させるのでしょうか。

石破 より優先度が高い、ということです。現場を預かる幹部自衛官の間にも「急いでグレーゾーンの問題を解決してほしい」という声が少なくありません。最前線でその必要性を実感しているからでしょう。実際いつ「グレーゾーン事態」が起きても不思議ではありません。だから急ぐのです。ですが、集団的自衛権の議論を棚上げするつもりは毛頭ありません。

グレーゾーンの法整備、自衛隊の海外活動における法整備、集団的自衛権行使のための法整備?あるべき防衛法制の柱はこの三本立てとなるでしょう。その中で、まずは喫緊の法整備から始めるということです。もちろん、この全てにおいて与党として公明党との協議が必要ですが、公明党も長く与党にあり、責任ある政策を一緒に策定してきています。集団的自衛権の行使についても、丁寧かつ緻密な議論を積み重ねることにより、必ず結論を得て実現できると信じています。

できるだけ多くの政党の理解を

−一部「保守」陣営には「公明党との連立を解消し、憲法改正に突き進むべき」との意見もあります。

石破 それは政治の現実を踏まえない空理空論で、連立を解消したら憲法改正ができるわけでは全くありません。

−かつて福田恆存は、「保守派はその態度によつて人を納得させるべきであつて、イデオロギーによつて承服させるべきではない」と書きました(「私の保守主義観」)。いまの一部「保守派」は「保守的な態度」を失っています。石破さんは新書の帯で「冷静な議論のために」と記しました。今こそ「冷静な議論」が必要ですね。

石破 政治はイデオロギーではなく現実です。先日の沖縄市長選も含め、着実に一つ一つの選挙を勝たなければ安倍政権を維持できません。その意味でも公明党との協力関係は重要です。

−ナショナリズムではなく、リアリズムということですね。現実問題、公明党の理解は得られるのでしょうか。

石破 かつての自衛隊PKO派遣から始まり、有事法制も、テロ特措法も、イラク特措法も、すべて公明党と時間をかけて議論しながら整備してきました。長い連立を経た両党間には、そうした実績と信頼関係があります。公明党との協議はまた、国民に対する透明性の高い議論プロセスでもあると思っています。

民主党にも集団的自衛権の重要性を理解している議員が多数います。「日本維新の会」や「みんなの党」にも理解者が少なくありません。重要な問題であるからこそ、できるだけ多くの政党に理解してほしい、一人でも多くの議員に賛成してほしい。心からそう願います。(同じテーマの記事を読み比べる:アメリカは「日本の戦争」に巻き込まれることを恐れている - 元官房副長官補 柳澤協二

プロフィール

石破茂
いしば しげる 1957年鳥取県生まれ。慶應義塾大学卒業。86年初当選。当選9回。防衛大臣、農林水産大臣、党政調会長を歴任し、2012年の総選挙では幹事長として自民党を歴史的大勝に導く。
近刊『日本人のための「集団的自衛権」入門』(新潮新書)が話題になっている。

うしお まさと 1960年生まれ。早稲田大学法学部卒業。同大大学院法学研究科博士前期課程修了。航空自衛隊で旧防衛庁長官官房勤務などを経て、3等空佐で退官。聖学院大学専任講師、帝京大学准教授などを経て現職。国家基本問題研究所客員研究員。近刊『日本人が知らない安全保障学』(中公新書ラクレ)が注目を集めている。


「文藝春秋SPECIAL」編集長から


自分の頭で考える人の新しい雑誌をつくりました。
世界はいま、大きく変わりつつあります。イデオロギーの砦の中にいれば、深く考えなくても暮らせる時代は終わりました。われわれは目の前の課題をいちいち議論し、解決していかなくてはならない、実に"面倒な"時代を生きているのです。
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簡単な正解の代わりに、簡単に読める工夫をしました。忙しい現代人の生活スタイルにあわせ、一本の論考を四ページから六ページにしてあります。ちょっとした移動時間でもまるまる一本読めてしまう分量です。さらに深く知ることができるように関連書籍も示しました。
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