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吉田調書は朝日新聞の不毛なリークか

朝日新聞が独占スクープとして特集している「吉田調書」について、内閣官房から吉田氏本人の上申書が公開されました。

この上申書に、政府が吉田調書を秘匿した理由が書いてあります。

リンク先のPDFを見るとわかると思いますが、この上申書では前後関係がつかみにくい。私も3回読み直してようやく大意を得ました。

上申書の内容をかいつまんで整理すると、

・政府事故調による吉田氏へのヒアリングで吉田調書は作成された。書類は政府事故調が保管している。

・国会事故調が吉田氏にヒアリングしたかったが、氏は入院中で出来なかった。

・国会事故調はヒアリングの代わりに吉田調書を使わせてもらうことにした。

・吉田氏は国会事故調が検証する目的でこれを許可した。

・ただし、吉田調書を国会事故調から外部へ漏らさないことを条件とし、それには政府事故調も国会事故調も同意している。

ということになると思います。

つまり、この調書を扱ったのは政府事故調と国会事故調だけであり、両委員会はそれを第三者に漏らさない約束を吉田氏と交わしていたことになる。

両委員会のいずれかに、この約束違反をして朝日新聞の記者に漏らした人がいる。

朝日新聞の記者は、そういう性質の調書と知ってか知らずか、これを自社だけのスクープとして特集を組んだ。

ーーというのが、吉田調書をめぐる事実関係ということになります。



上申書に書いてあるように、吉田調書の中には公の場では語れないような言葉遣いが含まれており、それは、調書を取った政府事故調の担当委員と一対一での人間関係をもとに、お互い信頼した上でのやりとりであったようです。

だから、担当委員以外の人間にこのやりとりの文字起こしを見せると、相当な違和感を伴って伝わってしまうので、なおのこと吉田氏は外部漏洩を恐れたということです。

これはとても納得感を持って伝わってきます。



マスコミはすぐに「隠蔽体質」などと騒ぐので、調書を秘匿するのは悪いことだと思われるかもしれませんが、決してそんなことはない。

原発事故に限らず、不祥事の検証を行なう際に当事者の聞き取りは必須ですが、事が事だけに、必ず自分か仲間の失敗をありのままに語ってもらわなければなりません。そのためには、聞き取り対象者をその内容によって処分しないことと、聞き取り内容を秘密にすることを約束しておかなければいけません。そうでなければ、検証は上手く進まないのです。

秘密を守ることによって事実を洗いざらいにする。一見矛盾するようですが、完全な検証に近づくには避けて通れない道でしょう。

公開されることを前提にした暴露話など、真面目な人ならするわけがないからです。


そして、この吉田調書も含めた、沢山の人からのヒアリングで秘密をかき集め、閉じられた調査委員会内だけで真摯に検討を加えて作成するというのが、調査報告書の作成方針だったと思われます。

秘密を守るというのは、調査対象者の正直な発言を引き出すためだけでなく、外野からの不当な圧力を避けるためにも必要なことでしょう。そんなことは、特別に作業に加わった人間でなくても普通の想像力があれば理解できることです。


ところが、この約束事を守れなかった調査委員がいて、それを受け取った朝日新聞が全国民の前にそのままさらけ出してしまいました。

こういうことがあると、今後同じようなことがあったとしても、主要な人物の中に秘密を墓まで持ち込んでしまう人が現れるかもしれない。なにしろ、自分の腹の中にだけしまっておけばいいことですから、秘密にしてることすら外部からはわからないわけです。

これは国民の知る権利を保障するどころか、むしろ歴史的検証に必要な情報を永久に葬り去ることになります。



仮に、朝日新聞の特ダネが政府事故調や国会事故調の報告書を覆すほどの驚きの内容を含んでいるものであるのなら、これはスクープとして意味があるでしょう。

それは、両事故調委員会がまともな仕事をしていなかった場合の国民に対するメディアの権利であり義務であるかもしれない。

しかし、私の見聞きする限り、今のところではそのようなどんでん返しは特に無いようです。

そもそも吉田調書を取り上げた1面に朝日新聞が「原発所員、命令違反し撤退」というセンセーショナルな見出しをつけていますが、これは特集記事の該当部分を読めばミスリードだとすぐわかるのです。

なぜそんなことをするのか?

吉田調書に驚愕の内容などないことを朝日新聞自身がいちばん知っているから、賞味期限が切れないうちに派手な見出しをぶち上げた、と考えると合点がいきます。

だとすると、今回の朝日新聞の暴露はスクープといえるような代物ではなく、不毛なリークにすぎないのではないでしょうか。

これによってバカな国会議員が騒ぎ出したり他のメディアに飛び火したりして政府非難の大合唱になれば朝日としてもしてやったりでしょうが、どうやら他紙が追随している様子もないようです。

完全に朝日新聞の勇み足だったーーーということになればいいと思いますけどね。

正直いって、故人の遺志を踏みにじる、それもあの吉田所長の遺志を踏みにじって「死人に口なし」とばかりにその名誉を傷つけることを平気ですること自体に、私はかなり憤っています。

最後になりましたが、福島からの電気をもらい続けてきた東京人として、そして国民のひとりとして、吉田元所長に哀悼の意を表します。


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