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- 2014年05月24日 20:28
交渉学から見たロシア・天然ガス大型商談の実相
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仮にあなたが、重要な商談で遠くに出張に行っているとしよう。相手は近ごろ羽振りの良い大企業で、タフな交渉相手だ。あなたは新商品を、この相手に売り込もうとしている。それも一度きりの注文ではない。3年にもわたって継続的に供給する、総額40億円以上の大型商談だ。
長引く不況で、自社の財務状況はピンチにあり、何としてもこの売り込みを成功させたい。それもできれば市場相場に近い価格で決めたいところだ。ただし、あなたの側には弱みが一つある。この新商品はまだ開発中で、早くても半年後でないと供給できないのだ。投資額もかかる。だから、キャッシュフローを考えれば、頭金を少しでももらえるとうれしい、と内心思っている。
さて、出張先で2日間、膝詰めの打合せをしたが、なかなか妥結に至らない。出張日程を延ばすことも難しい。しかし、とうとう帰る時刻の直前に、契約をまとめる事ができた。飛行機に乗り込む直前、あなたは本社にメールを打つ。「無事、販売契約を取れました。それも、こちらの希望する製品価格で決める事ができました。」
さて、あなたのこの商談、成功だったろうか、失敗だったろうか?
売り込みの契約を取れたのだから、成功だ--そう判断する向きもあろう。だが、よく考えてみてほしい。「希望する製品価格で妥結できた」ということは、逆に言うと、頭金はもらえなかったことを意味する。もし、当面は納品もないのに頭金を払ってくれるような場合、タフな相手は必ず、逆に製品価格に値引きを要求してくるはずだ。
ということは、あなたの会社は頭金をもらえず、製品ができるまではろくに収入もないまま、ぎりぎりの状態で、開発投資を続けなければならない。しかも約束してしまったのだから、その開発投資のお金を、別の用途にふり向けることも、もうできない。開発に失敗したら、もうおしまいだろう。
おまけに、あなたが帰りの便に飛び乗る直前にやっとサインできたという状況は、あなたが価格にあらわれない条項で、かなり譲歩したことを意味している。営業マンは、手ぶらでは帰れない。だから、帰る直前の交渉が、一番効くのだ。まったくタフな相手である。--そう考えると、この結果は、成功とはいえ、ほとんど赤点ぎりぎりの成績ということになりそうだ。
そして、今週、ロシアのプーチン大統領が中国を訪問してとりまとめた、超大型の天然ガス商談は、これとよく似たシチュエーションなのだ。
すでにメディアに報道されているように、ロシアは、シベリアの天然ガスを、中国に対して30年間継続して供給する契約を交わした。総契約額は4000億ドル(約40兆円)を上回ったとみられる。
(ロイター報道 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0E10SH20140521)
ウクライナ問題のため欧州と疎遠状態に陥ったプーチンが、アジアに活路を求めて見事に成功した、と報じる向きもある。だが、この話はそんな簡単なものではない。
国家規模のプロジェクトは数字の桁が大きすぎて理解しにくい。そういうときは、金額を1万分の一にすると企業的な規模になり、1億分の一にすると個人的な規模になって分かりやすい。ちなみに日本のGDPは年間500兆円弱だが、これは企業なら500億円、個人なら500万円の年収というわけだ(日本は人口が1億人ちょっとだから、GDPを1億で割るとほぼ一人あたりの数字になる)。最初の『商談』の数値は、その方式で「40兆円」を「40億円」に換算し、さらに時間は10分の1に圧縮し、「30年」から「3年」にして、作ったものだ。
さて、この天然ガスは、シベリアのChayandinskoyeおよびKovyktinskoyeガス田から供給することになっている。だが、どちらのガス田も、まだ生産設備は十分開発されていない。さらに、このガスは通称「シベリアのパワー」と呼ばれる長大なパイプラインで中国に運ばれる。総延長距離は約4,000km。米国の西海岸と東海岸くらいの距離である。そしてこのパイプラインも、これから建設するのだ。したがって、中国にガスが供給されるのは、最低でも4~6年後だと想定される(だから冒頭の例では10分の1で「半年後」に供給予定と書いた)。とにかく、気の遠くなるほど遼遠な、大陸的商談なのだ。
リンク先を見る
Power of Siberia Pipeline - Gazprom社ホームページより引用
http://www.gazprom.com/about/production/projects/pipelines/ykv/
長引く不況で、自社の財務状況はピンチにあり、何としてもこの売り込みを成功させたい。それもできれば市場相場に近い価格で決めたいところだ。ただし、あなたの側には弱みが一つある。この新商品はまだ開発中で、早くても半年後でないと供給できないのだ。投資額もかかる。だから、キャッシュフローを考えれば、頭金を少しでももらえるとうれしい、と内心思っている。
さて、出張先で2日間、膝詰めの打合せをしたが、なかなか妥結に至らない。出張日程を延ばすことも難しい。しかし、とうとう帰る時刻の直前に、契約をまとめる事ができた。飛行機に乗り込む直前、あなたは本社にメールを打つ。「無事、販売契約を取れました。それも、こちらの希望する製品価格で決める事ができました。」
さて、あなたのこの商談、成功だったろうか、失敗だったろうか?
売り込みの契約を取れたのだから、成功だ--そう判断する向きもあろう。だが、よく考えてみてほしい。「希望する製品価格で妥結できた」ということは、逆に言うと、頭金はもらえなかったことを意味する。もし、当面は納品もないのに頭金を払ってくれるような場合、タフな相手は必ず、逆に製品価格に値引きを要求してくるはずだ。
ということは、あなたの会社は頭金をもらえず、製品ができるまではろくに収入もないまま、ぎりぎりの状態で、開発投資を続けなければならない。しかも約束してしまったのだから、その開発投資のお金を、別の用途にふり向けることも、もうできない。開発に失敗したら、もうおしまいだろう。
おまけに、あなたが帰りの便に飛び乗る直前にやっとサインできたという状況は、あなたが価格にあらわれない条項で、かなり譲歩したことを意味している。営業マンは、手ぶらでは帰れない。だから、帰る直前の交渉が、一番効くのだ。まったくタフな相手である。--そう考えると、この結果は、成功とはいえ、ほとんど赤点ぎりぎりの成績ということになりそうだ。
そして、今週、ロシアのプーチン大統領が中国を訪問してとりまとめた、超大型の天然ガス商談は、これとよく似たシチュエーションなのだ。
すでにメディアに報道されているように、ロシアは、シベリアの天然ガスを、中国に対して30年間継続して供給する契約を交わした。総契約額は4000億ドル(約40兆円)を上回ったとみられる。
(ロイター報道 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0E10SH20140521)
ウクライナ問題のため欧州と疎遠状態に陥ったプーチンが、アジアに活路を求めて見事に成功した、と報じる向きもある。だが、この話はそんな簡単なものではない。
国家規模のプロジェクトは数字の桁が大きすぎて理解しにくい。そういうときは、金額を1万分の一にすると企業的な規模になり、1億分の一にすると個人的な規模になって分かりやすい。ちなみに日本のGDPは年間500兆円弱だが、これは企業なら500億円、個人なら500万円の年収というわけだ(日本は人口が1億人ちょっとだから、GDPを1億で割るとほぼ一人あたりの数字になる)。最初の『商談』の数値は、その方式で「40兆円」を「40億円」に換算し、さらに時間は10分の1に圧縮し、「30年」から「3年」にして、作ったものだ。
さて、この天然ガスは、シベリアのChayandinskoyeおよびKovyktinskoyeガス田から供給することになっている。だが、どちらのガス田も、まだ生産設備は十分開発されていない。さらに、このガスは通称「シベリアのパワー」と呼ばれる長大なパイプラインで中国に運ばれる。総延長距離は約4,000km。米国の西海岸と東海岸くらいの距離である。そしてこのパイプラインも、これから建設するのだ。したがって、中国にガスが供給されるのは、最低でも4~6年後だと想定される(だから冒頭の例では10分の1で「半年後」に供給予定と書いた)。とにかく、気の遠くなるほど遼遠な、大陸的商談なのだ。
リンク先を見る
Power of Siberia Pipeline - Gazprom社ホームページより引用
http://www.gazprom.com/about/production/projects/pipelines/ykv/



