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「読者に“思考の補助線”を提供する雑誌をつくりたい」―「文藝春秋SPECIAL」編集長インタビュー―

「自分の頭で考える人の新しい雑誌を作りました。(中略) この雑誌は、正解を求めません。ひとつのテーマについて、あらゆる角度から最良のテキストを集め、読者のみなさんに提供します。正反対の意見でも、読むに足るものならどちらも掲載します。正解はみなさん自身の頭で考えてほしいのです。」
文藝春秋から発行されている「文藝春秋SPECIAL」が、上記のようなコンセプトを掲げ“新しい雑誌”にリニューアルされる(27日発売)という。今回のリニューアルの狙いを吉地真編集長に聞いた。(BLOGOS編集部)


現役世代、大学生にも読んでほしい

―「文藝春秋SPECIAL」がリニューアルされるとのことですが、従来のコンセプトからどのように変わるのでしょうか。

吉地氏:まず、想定読者の世代が変わります。従来の「文藝春秋SPECIAL」の基本的な想定読者は、シニア層。大まかに言うと、65歳以上の仕事をリタイアされているような方々がターゲットでした。ですが、リニューアル後の想定読者は現役世代。それこそ大学生から読んでもらいたい。日々、現実と向き合っている世代の人たちに、様々な問題をわかりやすく届けたいと考えています。

また、扱うテーマも変わります。「文藝春秋SPECIAL」は当初、「文藝春秋」の臨時増刊として開始されたエッセイ雑誌でした。その後、特集ページを増やしたりもしたのですが、基本はエッセイの雑誌で、例えば特集のテーマが「老後のお金」といった場合には、様々な筆者に「私とお金」というエッセイを書いていただいていたのです。

今回、リニューアルにするに至った背景には、“今現実に起きていること”に対応する雑誌が弊社の中になくなってしまったという部分もあります。かつては「文藝春秋」「諸君」「週刊文春」という3本の柱があったのですが、東西冷戦が終結後、だんだんオピニオン需要が減ってきて、「諸君」は休刊ということになりました。ですが、ここにきて、そうした需要が起きてきた。エッセイのニーズがなくなったわけではないですが、それ以上にここ数年の国際環境の劇的な変化に対応できるような雑誌が必要だと考えたんです。

―エッセイ誌からオピニオン誌への転換を意識されたということでしょうか。

吉地氏:オピニオン誌というと、雑誌として言いたいことを強く訴えて、目指すべきゴールに読者を引っ張っていくというイメージがありますよね。しかし、今回のリニューアルで目指すのは、そのような意味でのオピニオン誌ではありません。むしろ、雑誌そのものの主張は敢えて強く出さないで、ひとつの問題に対して、様々な考え方が世の中にはあるのだということを示したいと考えています。

従来のオピニオン誌というのは、ひとつの考え方を強く打ち出していくスタイルだったと思います。例えば、雑誌の中にひとつ良い論文が載っていたとしても、「いや、それは違う」という意見は掲載されないことが多い。それは編集部が「これが正しい」「こういう意見がいい意見です」というスタンスなのでしょう。

いまの時代、読者はみなさん忙しいですから、「中央公論」「世界」「Voice」「文藝春秋」のすべてを読んで、「さぁどれが正しいのだろう」と考える時間はないのが現実です。だからこそ、賛否両論を一冊の中で読むことができれば、自身が考えるきっかけになるのではないでしょうか。「賛成も反対も両方の意見に読み応えがあるけど、これどちらが正しいのだろうか」ということを読者と一緒に考えていきたい。“自分の頭で考える人の新しい雑誌”というのはそういう意味なんです。

「文藝春秋SPECIAL」を読んで、特集されているテーマについてもっとくわしく知りたいと思えば、関連する書籍を読んでもらえればいいと思っているんです。そんなあるテーマについて考える、その導入の役割を果たしたい。これを “思考の補助線”と表現しています。この雑誌に正解が書いてあるということではなく、読者の皆さん自身が考える正解にたどり着くために必要となるテキストを提供したいんです。

編集を入れることで、議論の“補助線”を提供したい

―リニューアル第1号のテーマは「平成ナショナリズムは日本人を幸せにするのか」です。今回の “新しい雑誌”に掲載する原稿を執筆する論者はどのように選んだのでしょうか?

吉地氏:とにかく編集部員が書店を何軒も回って、今回のテーマについて発言している人の本を探して、どーっと買ってきて読みました。そこから「これはいいな」「これは面白いな」というものリストアップして絞り込んでいったんです。ですから、新進気鋭の筆者も多く登場しています。僕は25年間、オピニオンを紹介する仕事をしていますが、今回登場していただいた若い論者の話を伺っていて「なるほど」と思うところは多かったですね。

また、リニューアルにあたって、一つ一つの記事を、基本4ページ、長いもので6ページと可能な限り短くしました。忙しい人でも移動中の電車の中で気になった記事を読めてしまうと思います。さらに、テーマに興味を持った人は、知識を深められるように関連書籍も提示してあります。4ページで400字詰め原稿用紙9枚、4千字いかないぐらいですから、この手の論考だと極端に短いと思います。「文藝春秋」は基本8ページで、「8ページで書けるかよ」と言っている世界だったものを、一気に半分にしたわけですから。

―ネット上で顕著なのですが、賛否両論といいつつ賛成も反対もどんどん先鋭化していき、結果的に議論が成立しない状況もあると思いますが。

吉地氏:雑誌ですから“編集”を入れることで、ある程度緩和できると思っています。ネットの良さは自分でアップできるところですが、そこに編集は入っていません。編集がないことの良さももちろんあると思います。しかし、我々の場合、編集作業をいれることで、双方言いっぱなしになってしまったとしても、議論の対立点はどこなのか、という勘所や争点が目に留まるように意識しています。そうしないと編集の意味がありませんから。

また、文藝春秋独自のテイストもあります。世の中にひとつの意見しかないように感じた時に、違うものを読みたいという好奇心、外からコチョコチョいっているよりも当事者本人に聞いてみようという意識が文藝春秋のカラー、伝統としてあります。

今回はナショナリズムをテーマとして扱っていますが、「韓国人はどうだ」「中国人はどうだ」という論説は、探さなくても今はいくらでも読めます。しかし、 韓国人、中国人が本当はなんていっているのか、という論説を取り上げる雑誌はほとんどありません。リニューアル第1号では、 “韓国の冷静な知識人”“ちゃんとした反日活動家”へのインタビューも収録しています。先鋭的な意見もありましたが、冷静に事態を捉えている部分もあったので、これはぜひ読んで確かめてほしいと思いますね。(※BLOGOSでは、本誌掲載記事の一部を4週にわたって配信いたします。記事一覧はこちら

プロフィール

吉地真(きちじ・まこと)47歳。『諸君!北朝鮮を見よ』編集長。1990年に株式会社文藝春秋に入社。『週刊文春』『月刊文藝春秋』『諸君!』を経て、『文藝春秋SPECIAL』編集長を務めている。

文藝春秋SPECIAL
「人間は変わらない」と思うのが保守 緊急復刊した『諸君!』編集長が語る論壇の未来 - 2012年2月のインタビュー

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