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<集団的自衛権>安倍首相は正々堂々と「国民の信」を問うべきだ〜田原総一朗インタビュー

他国のために自国の武力を使う「集団的自衛権」の行使を認めるよう、憲法解釈を変更すべし――。首相の諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)がそう提言した。それを受け、安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使に向けて積極的に検討を進めることを表明した。だが、国民の中には反対する声も多く、自民党と政権を組む公明党も慎重な姿勢を崩していない。今後、集団的自衛権をめぐる議論はどうなっていくのか。田原総一朗さんに聞いた。【大谷広太(編集部)、亀松太郎】

アメリカに対する「念押し」のためという意味

AP/アフロ写真拡大
なぜいま、集団的自衛権なのか。理由としては、次のような点があげられている。

1つ目は、世界の状況が大きく変わり、自国の防衛力だけでは自分の国を守れなくなっている。東アジアでは、北朝鮮が核兵器の爆発実験やミサイルの発射実験を繰り返している。この北朝鮮への危機感が高まっている、と。

2つ目は、中国が軍事大国への動きを加速させていること。中国の軍事費はこの10年4倍になった。26年間では、なんと40倍にもなったという。そういう意味で、アジアの状況が非常に大きく変わっているのが大きい。

3つ目として、尖閣諸島をめぐって、中国と日本が激しく対立するようになっていることがある。

そして、4つ目はアメリカの問題。これまで、アメリカは「世界の警察」としてふるまってきたが、オバマ大統領は「世界の警察をやめる」と表明した。この姿勢の転換は日本にも影響する。日米安保条約の第5条では、日本が危機に陥ったときアメリカが日本を助けると定められているが、これはアメリカが世界の警察だった時代に作られたものだ。

いまは事情が変化している。もし尖閣諸島に中国が攻めこんできたとき、アメリカは本当に日本を助けてくれるのか。「世界の警察」をやめたということで、日本を助けてくれない危険性があるのではないか。アメリカ国内の世論からも、なぜ日本のためにアメリカ人が命を捨てないといけないのかと反発が起きる可能性がある。

そこで、アメリカに「有事のときは、ちゃんと助けてくれよ」と念押しするために、アメリカが危機のときは日本が助けるという集団的自衛権の行使に踏み切るというわけだ。つまり、集団的自衛権の行使を認めるのは、アメリカへの念押しという意味がある。

もう一つは、精神的な意味だ。日本の外交政策について「対米従属外交をやめて、自立せよ」という主張がこれまでにも政治家や有識者から出ていたが、集団的自衛権の行使を認めることで、アメリカに従属するのでなく、より対等に近い関係になることができるという考えだ。アメリカに対してプライドがもてるような関係にしたいという気持ちがある。

公明党は「創価学会婦人部」の意見を無視できない

編集部写真拡大
このような理由が、集団的自衛権の行使を認めようという動きの背景にあるわけだが、実際にはどんな場面で集団自衛権を行使しようと考えているのか。そこが大きな問題だが、僕が司会をしているBSの番組に、安保法制懇の中心メンバーである北岡伸一座長代理に来てもらって、くわしく聞きたいと思っている。

集団的自衛権の行使を認めると、なにが変わるのか。それは、日本が「戦争をする国」になるということだ。戦後に作られた新憲法のもとで、日本はずっと「国外では戦争をしない国」だった。自分が攻撃されたときには戦うが、他国の戦争に加わらないという専守防衛だった。

ところが、集団的自衛権を行使することで、日本は海外でも戦争をする国になる。それは、アジアの国々がこれまで認識してきた日本の姿と大きく変わることを意味する。

それだけ大きく変わるのだとしたら、憲法を改正すべきだ。そういう意見が根強くあるが、なかでも強く言っているのが、公明党の支持母体である創価学会だ。憲法を改正するのではなく、憲法の解釈を変更するだけで、集団的自衛権の行使を認めるのは筋が通らないというわけだ。

特に、創価学会の婦人部の反対が激しいと聞いている。日本は平和国家であるという意識が強く、戦争に巻き込まれるような事態は避けるべきという考えで、集団的的自衛権を認めることに強く反対している。

創価学会において婦人部の力は強く、国政選挙でも大きな役割をはたしている。その創価学会の婦人部が反対しているので、その支援を受けている公明党も、集団的自衛権の行使に慎重な姿勢をみせているということだ。

それに対して、自民党はどう動くか。実は、野党のなかでも、みんなの党や維新の会は集団的自衛権に賛成なので、安倍内閣は公明党との関係を切って、みんなの党や維新の会と連携することで、集団的自衛権の行使を閣議決定することができないわけではない。

だが、それは意外とむずかしい。なぜかというと、選挙協力の問題がある。国政選挙になったとき、自民党と公明党の支持組織は、小選挙区では自民党に投票し、比例区では公明党に投票するという選挙協力をおこなっている。これが大きいのだ。特に、自民党の若手には、公明党の票をもらうことで当選している議員が少なからずいる。

国会の勢力図だけをみれば、みんなの党や維新の会と組んで、集団的自衛権の行使のために憲法解釈を変更することを閣議決定できる。しかし、選挙協力のことを考えると、公明党を切るのはむずかしい。

ただ、選挙協力の問題は、自民党の弱みであるだけでなく、公明党にとっても同じだ。小選挙区は自民党、比例区は公明党という選挙協力で、自民党の票をもらうことにより比例区で当選している公明党の議員もいる。だから、自民党との関係が切れることは、公明党にとってもマイナスになる。

そういう複雑な状況のなかで、両党が懸命に落としどころを探っているのが現状だ。

集団的自衛権をテーマに「解散・総選挙」を実施すべき

共同通信社写真拡大
現在、自民党の中には、「あまり無理をしないほうがいい。公明党とはゆっくり時間をかけて話し合ったほうがいい」という石破幹事長を中心にしたグループと、「早く結論を出すべきだ」という安倍首相の周辺グループの2つの流れがある。完全に2つに分かれているわけではないが、自民党の中にも温度差がある。

国民の世論をみると、さらに意見は割れていて、最近の共同通信の世論調査では、集団的自衛権の行使に「反対」という意見が48%で、「賛成」の39%を上回っていた。反対の理由で一番多かったのは、集団的自衛権を行使すると、日本がアメリカの戦争に巻き込まれるのではないかというものだ。また、限定的に行使するといっても、実際に始めてしまえば歯止めがきかなくなるのではないかという声も強くある。

新聞社の論調も社によって違っていて、朝日・毎日・東京は反対だが、読売・産経は賛成という構図だ。これは、民主主義の国として、とても健全でいいことだと思う。集団的自衛権に反対できないのは民主的でないが、集団的自衛権に反対しかできないのも民主的ではないからだ。両派が堂々と自分の意見を主張できるのは、とても健全な状況だと思う。

長い間、日本人は安全保障ということを真剣に考えてこなかった。安全保障はアメリカにまかせておけばいいと思っていた。いま、安倍政権が集団的自衛権の行使の容認を言い出したことで、日本の国民も、安全保障について考えざるをえなくなった。そういう意味では、いい機会だと考えることもできる。

ただ、これだけ議論のある問題について、閣議決定をするだけで、憲法の解釈を変更するのはよくない。安倍首相は正々堂々と国民の信を問うべきだ。衆議院を解散して、集団的自衛権をテーマにした選挙をすべきだ。民主主義の国なのだから、国民の審判を受けてから、大きな決断をすべきである。

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