記事

ヤンキー化する日本経済〔2〕 - 斎藤環(筑波大学教授・精神科医)×原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)

〔1〕はこちら→ヤンキー化する日本経済〔1〕

価値観の基準は「コミュ力」


斉藤:一口にヤンキーといっても、ヤンキーのなかには階層があります。トップグループにいるのは、いわゆる地アタマのいいヤンキー。頭のいいヤンキーは中央志向や海外志向が強く、芸能人や起業家になるのはたいていこの層です。

原田:地アタマのいいヤンキーの会話って、本当に面白いですよ。僕の同級生がまさにその典型で、もともと刑務所に何度か入った経験もある暴走族出身者。いまはアパレル会社などを経営しています。話術に長けていて、北区と板橋区のヤンキーを大勢従える強者です。

斉藤:その人はマイルドヤンキーなんですか?

原田:30代ですから、元祖ヤンキーですね。右足が義足なんです。詳しい説明は省略しますが(笑)。

斉藤:そうした面ではヤンキーの社会寄与度は高い、といえます。懸念があるとすれば、たとえば教室でいうスクールカースト(学校内における序列と差別)の問題ですよね。地アタマのいいヤンキーが学校のカースト上位を掌握して、教師もそれに取り入ってしまうという傾向がある。いきおい、地方における適応形態がヤンキー優位に変化してしまう。

原田:おっしゃるように、学生に聞くと、スクールカーストの上位はヤンキーだといいます。てっきりヤンキーは集団の序列から外れていると思いきや、しっかり上のほうに組み込まれている。

斉藤:加えて、カーストを決める価値観がコミュニケーション力一本なんです。地アタマのいいヤンキーの評価基準は「コミュ力」しかない。なにしろ地元で毎日、仲間と対話をして鍛えていますから、コミュ力が圧倒的に高いのは当然です。一方でコミュ力が低いオタクや引きこもり学生はどうしてもカーストの下層に追いやられてしまう。

ここでいうコミュ力とは、論理能力のことではなく、要するに笑いの取れる能力とか、人をいじれる能力を指します。そういう力はほんとうに強いので、学生時代はわが世の春を謳歌するわけです。人気の基準はお笑い系が規範になっているので、ユーモアのある人、笑いのセンスのある人はどんどん、面白い系ヤンキーとして君臨しますよね。閉じた社会のなかで生きる鉄則は、いかに面白いキャラをつくるか、という点に尽きる。キャラ性の比較でいったら、ヤンキーには勝てないですからね。

日本では上から下まである程度の割合でヤンキーの成分が入っていて、たとえばブラック企業の経営者は、明らかにヤンキー性が高い。とにかく精神論で社員を引っ張ろうとしているからです。この気合主義ともいうべき風潮は、太平洋戦争時の「大和魂という無限の資源さえあれば、あとは神風が吹いて勝てるはず」みたいな気風とそう変わりません。その発想自体が非常にヤンキー的だと思います。

原田:私が普段、仕事で接するのは、日本で1%未満のいわゆる超優良大企業です。サラリーマン社長が多いので、バランス型というか、上品な人が多い。もう少しヤンキー色が必要なシーンもこれからのグローバルの時代には出てくると思います。大企業の経営者よりむしろ中小企業のほうがヤンキー性をもっているケースが多いかもしれませんね。

斉藤:広告業界の体質を大きく変えたきっかけの1つは、社員の過労自殺事件が発端となった91年の電通裁判でしょう。

原田:いまでは業界全体で残業時間も減り、体育会系的な理不尽さはかなり緩和されているように思います。むしろかわいそうなのは、元ヤンキー世代である上司です。メンタルダウンする若い社員が増えていて、会社がケアしすぎている気がします。勢いとノリでクライアントを説得したり、気合いで納期に間に合わせる広告業界のヤンキー要素が著しく減ってしまっている。一方で、一晩中怒鳴り散らして、喧嘩をしているようなトンデモ社員が一掃されたのも事実なので、それがいいことなのか、悪いことなのかわかりません。なんとなく寂しさは感じますね。

アジアの若者たちもマイルドに


原田:最近、私が気になるのは海外のマイルドヤンキーの動向です。北京や上海などアジアで若者研究をして感じるのは、経済が成熟してくると、どの国の若者も基本的にはマイルドヤンキー化するということです。台湾で国会を占拠するようなのは一部の学生で、基本的にはアジアの若者たちもマイルドになってきています。もちろん中国の農村地帯に行くと違いますが、北京や上海、ソウルなど都市部は同じ傾向です。この前、田舎から上海に出てきて、イタリア料理屋で働くフリーターの中国人に会いました。田舎から出てきている時点で、ちょっとマイルドヤンキーとは違うんですけど。最初、彼がいったのは、「このままずっといまの仕事をやりたいんです」。驚きましたね。中国のGDPはまだ辛うじて上がってますが、GDPに占める給与所得は明らかに減っている。

つまり生活がきつくなっている人は増えているはずなんです。「正直、バイトつらいでしょ」と聞くと、「いや、みんないい人で居心地がいいんです」。中国でもマイルドヤンキーがとうとう出てきた(笑)。2、3年前の中国だったら、どの階層の若者にインタビューしても、「サラリーマンは嫌だ。社長になりたい」の一点張り。みんな上昇志向が高くて、聞くほうが鬱陶しくなるほどでした。要するに経済が成熟してくると、マイルドなタイプの若者が生まれるというのは、万国共通ということです。

斉藤:先ほど、日本では社会の上から下までヤンキー性が浸透していると話しましたが、政治家でいえばキャラが立っているほうが望ましい、という風潮をつくったヤンキー化の元祖は、田中角栄だと思います。彼以降、タレント候補のような流れが生まれ、最近では、橋下徹なんかは外せないですよね。少なくとも、彼の支持層は圧倒的にヤンキー性が高い人びとが多い。

 日本の政治家のヤンキー性の何が問題かというと、それはしばしば橋下氏にみられるような「本音主義」に陥りがちになることです。建前でいいから、政治家は理想を語らなきゃいけないと私は思うんですけれども、どうも田中角栄以降、政治家というのは、庶民の本音を代弁するのが仕事だという雰囲気が広まっていて、これは大問題です。もちろん思いの丈を語る局面があってもいいけれども、やはり本道は理想を語って、その実現に邁進してほしい。ネット上で選挙運動を展開しても全然浸透していないのは、結局は何回土下座したかとか、何人と握手したかという基準で政治家が当選してしまうからです。ある意味、ムラ的な価値観で政治も動く論理が国政にも及んでいることを考えると、政治におけるヤンキー主義というのは、ほんとうに厄介だといわざるをえない。

原田:残念ながら、ヤンキーの若者たちは情報リテラシーも高くないので、たとえば、今年2月の東京都知事選でネット活動を展開した家入一真氏のことを知らない人も多いと思います。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)をやっているような情報感度の高い子たちにはメッセージが響いていたと思いますが。先述のように基本、TVが情報源ですから、舛添要一さんのような有名人は知っているかもしれないけど、それ以外の候補者は知らない子たちが多いように思います。多少保守的だから保守政党を支持しているかというと、そもそも政治離れの流れは続いていて、相関性はないですね。

ケア業界ではプラスに働く


斉藤:ヤンキーが保守化しているのは、1つには学校教育の影響もありますね。コミュニケーション力や気合主義というヤンキー的な価値観を促す同調圧力です。何も考えずにいると、マジョリティを占めるヤンキー的なスタイルに染まってしまう。よほど強いオタク趣味がある、あるいはサブカルチャーに強い親和性があるなどの抵抗性がなければ、自然にヤンキー化の流れに押されてしまう。さらに、教育現場で、ヤンキー性を促進する傾向があることです。典型的な例が、学校教育に取り入れたよさこいソーラン(高知県のよさこい節と北海道のソーラン節を交ぜ合わせた踊り)ですよね。あれは、『3年B組金八先生』のドラマ経由で流行っただけあってすごい普及率ですね。

原田:よさこいなど地域の祭りに参加してる子は、どちらかというと残存ヤンキーのような気がします。彼らの世界はけっこう年功序列で、上のいうことを聞いたり、お酒もメチャクチャ飲んだりする、昔ながらのタイプの子たちです。

斉藤:もともと、よさこいソーランは残存ヤンキーの非行率を減少させるための目論見があったそうです。それは不良が輝く場面をつくり出したという意味で、実際に非行率を下げてるんじゃないかと思います。もともと日本人は群舞好きですし、竹の子族が流行った歴史もあります。マスゲームではなく群舞というところがポイントで、マスゲームだと全体主義になってしまうけど、群舞というのは中間集団的な踊りです。だからクラス単位、チーム単位で優劣をつけたりすると盛り上がる。この手のお祭りは日本中に広がってますよね。私は、こういったお祭り現象は伝統芸能を駆逐するブラックバスみたいなものだといっていますが、一方では非行化に対するワクチンとして有効に機能しているように感じます。ただ、副作用としてヤンキー化を促進し、マジョリティを占めてしまうという問題はどうしても否めない。

原田:ヤンキー的な祭りは全国に広がっているけれども、自治体がマイルドヤンキーを活用して、地域振興のために活動してもらうというのは考えにくいですね。地域に貢献するのはむしろ頭のいい高学歴層です。昔は東京の大学を出たものの、就職に失敗して、仕方なくUターン就職していたような若者が、最近では積極的にUターン就職するようになっている。そういう子たちは可能性があるかもしれないですけど、ボリュームゾーンであるマイルドヤンキーの子たちは、LINEで地元の友だちと会話をして、近場の居酒屋へ行って、休日はイオンなどの大型ショッピングモールへ、という生活ですから、駅前の商店街がシャッター通りになってもあまり関係ないんですよね。むしろ大型ショッピングモールができてくれるほうが嬉しいわけですから。それでも、介護士や看護師になるマイルドヤンキーの子も結構いたりして、社会との接点は必ずあると思う。

斉藤:ケア業界は有望ですね。ヤンキー的な面倒見のよさがプラスに働く分野ですから。

弱者へのサポートに期待


原田:今後のマイルドヤンキーの行方はどうなるか、という視点で話をすると、シナリオは二つあると思います。1つは、マイルドヤンキーがマイルドヤンキーの子どもを産んで、拡大再生産するという見方。1つのクラスター(集団)としてかなりのヤンキー層が残っていくという説です。

もう1つのシナリオが、いまのマイルドヤンキー化の現象は過渡期のものであって、いずれ異なるクラスターが生産されてヤンキーは衰退するという説。私が調査した20代の子たちは、バブル世代か新人類世代を親にもっています。つまり日本で最も正社員率が高い最後の世代。私もそうですけど、その下の団塊ジュニア世代の親になると、非正規雇用者も多く、同世代賃金格差が生じている。やはりマイルドでいられるのは、パラサイトできる親がいるからなんです。私たちの子どもが親になるころは、マイルドヤンキーの家庭の賃金格差がいまよりも激しくなって、「東京へ行って稼いでやる」みたいなことを突如、言い出すガチなヤンキーが再び台頭するかもしれない(笑)。

マイルドヤンキー層は成熟社会の必然として永遠に続く1つの層だという説と、偶然生まれた一時的な層であるという説の両方があって、正直、どっちに正解があるかわからない。どちらもリアリティがある気がします。

斉藤:私はいわゆる美学や生き方としてのヤンキー、これ自体は多かれ少なかれ続いていくであろうと考えています。いわゆる残存ヤンキー層がマジョリティになってくると、ある種、安定した日本になると思いますけれど、原田さんがおっしゃるようなマイルドヤンキー層がそれに取って代わるとすれば、とても住みづらい社会になるという懸念があります。結局、ヤンキー的な社会というのはどうしても反知性主義でコミュ力一本になってしまう。それにどうしてもなじめないオタクや引きこもり層は、不適応になってしまうということが起こりうる。それがたとえば秋葉原事件の加藤智大、最近でいえば黒子のバスケ脅迫事件の渡辺博史容疑者のような、コミュ力弱者の暴走につながる可能性があります。私の専門分野の立場からいえば、何とかそれは避けたい。国のサポートに期待をしたいところですが、本来、国が果たすべき再分配や弱者保護を自治体や地域の絆、家族の支えに任せましょう、という孤立を促す発想になっているのが最も危ない。そこが、ヤンキーカルチャーの大きな欠陥点といえるでしょう。ヤンキー層の尖った部分とマイルドな包容性のバランスをいかに取るか、という感覚が求められていると思います。

(『Voice』2014年6月号より)

■斎藤環(筑波大学教授・精神科医)
1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程修了。爽風会代々木病院などを経て、現在、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙。近著に、『ヤンキー化する日本』(角川oneテーマ21)がある。

■原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)
1977年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所などを経て現職。日本およびアジア各国で若者へのマーケティングや若者向け商品開発を行なっている。近著に、『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)がある

リンク先を見る
■『Voice』2014年6月号
【総力特集:しのびよる中国・台湾韓国の命運】 今月号の総力特集は、「しのびよる中国・台湾、韓国の運命」と題し、中国の脅威を論じた。武貞秀士氏は、中韓による「反日・歴史共闘路線」で中国が朝鮮半島を呑み込もうとしていると警鐘を鳴らす。一方、宮崎正弘氏は、台湾の学生運動の意義を説き、中国経済の悪化でサービス貿易協定の妙味は薄れたという。また、上念司氏と倉山満氏は、中国の地方都市で不動産の値崩れが始まっており、経済崩壊が目前で、日本は干渉しないことが最善の策だと進言する。李登輝元台湾総統の特別寄稿『日台の絆は永遠に』も掲載。ぜひご一読いただきたい。

第二特集は、日清戦争から120年、日露戦争から110年という節目の今年に、「甦る戦争の記憶」との企画を組んだ。また、硫黄島での日米合同の戦没者慰霊式に弊誌が招待され、取材を許された。遺骨収集の現状を含め、報告したい。 さらに、世界的に著名なフランスの経済学者ジャック・アタリ氏とベストセラー『帝国以後』の作者エマニュエル・トッド氏へのインタビューが実現。単なる「右」「左」の思想分類ではおさまらない両者のオピニオンに、世界情勢を読む鋭い視点を感じる。一読をお薦めしたいインタビューである。

あわせて読みたい

「マイルドヤンキー」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    橋下氏 感染数より死亡数を見よ

    PRESIDENT Online

  2. 2

    東京の緊急事態対応は「まとも」

    木曽崇

  3. 3

    藤浪感染で残念な私生活が露呈

    NEWSポストセブン

  4. 4

    強制退寮 ハーバード大生に衝撃

    井上貴文

  5. 5

    キスも…慶応研修医の集団感染

    文春オンライン

  6. 6

    スペイン 死者が1万4500人突破

    ロイター

  7. 7

    今すぐに検討すべき現金一律給付

    BLOGOS編集部

  8. 8

    よしのり氏 政府の持久戦を支持

    小林よしのり

  9. 9

    感染爆発の米NY 市長が問題発言

    Rolling Stone Japan

  10. 10

    緊急事態会見はライターが上手い

    Chikirin

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。