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ヤンキー化する日本経済〔1〕- 斎藤環(筑波大学教授・精神科医)×原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)

荒れない成人式

斉藤:原田さんの『ヤンキー経済 』(幻冬舎新書)を読んで、15年ぐらい前のことを思い出しました。当時、博報堂の『広告』という雑誌の仕事で原宿や渋谷の若者をサンプリングして、何回かインタビューをしていました。ある回で池袋に行って、多少ビクビクしながら若者のインタビューに臨んだわけです。

原田:ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』に出てくるような不良を思い浮かべて。

斉藤:そうです。ところが拍子抜けしたのは、チーマーたちの言葉がとにかく「地元愛」一色。池袋って、われわれから見たらもう都会ですよ。てっきり都会っ子かと思いきや、「渋谷には行きたくない」というわけです、行くのが疲れるから(笑)。要は地元の友だちとのつながりだけで、つるんで遊んでいたい。ほとんど半径数キロのきわめて限られた範囲で生息していて、そのエリアから出ようとしないんですね。

原田:われわれがイメージする昔ながらのヤンキーに比べて、最近はだいぶヤンキーもマイルドになっています。今年、成人式の日にTBSの『ニュース23』に出たのですが、当初は「荒れる成人式」を報じる企画趣旨だったのが、いざ取材すると、ずっと荒れていた沖縄県でさえ、とうとう若者がゴミ拾いをし始めた。全然荒れていない(笑)。

斉藤:いわゆる「マイルドヤンキー」の定義ですが、基本的に上京志向がなく、地元内で強固な人間関係・生活基盤を構築し、そこから出たがらない若者たち、ということですね。

原田:はい。あと、いまのマイルドヤンキーと昔のヤンキーで最も異なる点は、地元志向は同じとしても、「地元」を構成する要素がちょっと違うところ。たとえばマイルドヤンキーの子に、「地元のどこが好きなの?」と聞くと、だいたい三つぐらいに集約されるんですよ。

1つ目は、パラサイト(寄生)できる家、親がいること。その背景として、われわれの世代と比べて親とずいぶん仲がいい若者が多くなっている。2つ目が、中学時代の友人です。彼らは中学からケータイを持ち始めて、いまでいえばLINEでつながっていて、学校から家に帰っても、仲間と連絡を取り合っているわけです。情報とコミュニケーションの量は昔に比べて格段に多く、それが地元出身の「絆」を深めている。3つ目が、イオンなどの大型ショッピングモールです。

極端な話、寝ているあいだに、右の3つごとそっくり岐阜県のヤンキーと一緒に福井県に持っていったら、最初の何カ月かは戸惑うかもしれないけど、そのうちにたぶん順応してしまう(笑)。彼らにとって、これら3つの要素で日本のどこでも置き換え可能なのが「地元」というわけです。

斉藤:なかなか興味深い。普通、ヤンキーというと、派手な外見とか、家庭や仲間を重んじるライフスタイル、バッドセンス(ダサさ、格好悪さを競う価値転倒)などさまざまな要素があって、容易に定義するのは難しいと思ってあきらめていましたが、こういう括りで見ると、わかりやすい。さらにポイントとして、日本人は皆多かれ少なかれヤンキー思考をもっているということですよね。

原田:まさにそうです。私も十数年、博報堂で若者研究をしていますが、マイルドヤンキー層のボリュームは年々増えているように感じます。

斉藤:引きこもりやニートの増加という、「反社会」ではなく「非社会」に向かうトレンドが、ヤンキーにもついに及んでしまった、といってよいかと思います。社会に対してツッパるのはつらい、面倒くさいという流れですね。

原田:いまは反抗するにも、父親がわきまえていて物腰が柔らかいので、敵視する対象にならない。経済的にも、矢沢永吉さんの成り上がりのように、「夢を描いて東京に」という野心を抱くことが難しい時代にもなっている。それならば居心地のいい環境に染まって、中学時代の友人とまったりと楽しく暮らしたい、と考えるようになったのかもしれません。

斉藤:問題はヤンキーにも適応形態と不適応形態があって、適応形態の場合は、ひたすら家族と仲間を大事にする。他方、不適応形態のヤンキーはネグレクトや虐待のような形態を取って発現することが多い。両極端ですけれども、不思議なことに家庭が破綻していても、なぜかそんなに荒れない子どももいます。

原田:一例を挙げると、以前に練馬区に住んでいる男の子をインタビューしたことがあります。EXILEみたいなファッションをしている子で、家に行ったら部屋が散らかり放題だった。いったい何があったのか話を聞いてみたら、ある時期からお父さんとお母さんが家から消えてしまい、半年に一回ぐらいブラッと帰ってきてお金を10万円ぐらい置いていく。当然、生活するには足りませんから、お姉ちゃんが働いていて何とか生きているという。彼自身はニートで、パチンコへ行くだけのお金はないから、毎日ゲームセンターで格闘ゲームをやっている。格闘ゲームは対戦に勝つと何時間も続けられるからです。そこで地元の仲間たちとつるんでいて、彼にとっては一番の居場所ということでしたね。

斉藤:ゲーセンはニートのコミュニティですよね。

原田:私の本で「マイルドヤンキーはパチンコ・パチスロが好き」という特徴を挙げましたが、これはやっぱりある程度の食いぶちがある人の話であって、経済的にほんとうに苦しいヤンキーには当てはまらないところがありますね。

スポーツカーよりミニバンがクール

斉藤:一方で、相対的に見た場合、ヤンキー的な若者のほうがそうでない若者よりお金を落としてくれる、という側面もあります。

原田:いくつか理由があって、1つは、情報リテラシーが低いがゆえに消費せざるをえない、という側面があります。たとえば都内に住んでいる大学生であれば、ITスキルがあるので、YouTubeでただで映画を観たり、曲を好き勝手にダウンロードして手に入れてしまう。CDを買う必要がないし、レンタルショップに行く必要すらない。また、東京の若者は普段からいろんな人に触れていて、なんとなく流行がわかるので雑誌を買わなくてもいい。ところが、同じ場所にいて、同じ世代と生きているヤンキーは、閉じられた人間関係のなかで生きているので、そこから新しい情報は得られず、雑誌やTVが主な情報源になっています。

斉藤:いまは若者のTV離れの時代といわれるなかで、TVに接していない都会の若者は、CM効果の対象になりません。それこそBGM代わりにTVをつけっ放しのライフスタイルなら別として、マーケティングは困難なものにならざるをえない。ところが地方のヤンキーの情報源は圧倒的に、いまなおTVです。当然、CMが狙うターゲットになるわけです。

原田:私が調査をしてビックリしたのが、「最近、気になったCMある?」と聞くと、東京の高学歴の若者たちより、圧倒的にこのマイルドヤンキーからは数々のCMが挙がってくるんですね。とくに男子であれば車のCMがたくさん挙がってくる。

斉藤:ということはCMの出来や演出だけではなくて、商品そのものが好きということでしょうか?

原田:両方ある気がしますね。広告の出稿量も多いので、目にする回数も多いでしょうし、純粋により車への興味が残っているのがマイルドヤンキー層ですから。

斉藤:車にしても高級車志向ではなくて、ワンボックスカー。

原田:そう。この点で、大発見したことがあります。ミニバンというのは、基本的にはどの国でもファミリーカーという扱いです。三列シートがあって、けっしてスポーツカーのようなクールな見栄えではありません。家族をもった男が、ほんとうはスポーツカーに乗りたいのに、ファミリーをもったので、「イクメン」になるためにある種の決断をして乗る車です。ところが、マイルドヤンキーたちにとっては、このミニバンはイクメンになるための変身ツールではなく、むしろ独身者でも憧れるクールな乗り物になっています。

ただ、ミニバンが日本で普及したのは、1995年あたりですよ。これより上の世代って、家に車があったとしても、せいぜいセダンクラスの大きさです。家にミニバンがあったのはいま20代くらいの世代から。ミニバンって、子どもがいちばん機能を享受できるものでしょう。そうした世代の特性と相まって、彼らの仲間を大事にする志向が強く作用しています。車内でくつろいで、KREVAや湘南乃風などのJ-POP音楽を大音量で流して皆で歌うのに空間がマッチしているんじゃないかな、と。

斉藤:改造車系は最近、どうですか。

原田:改造をしている子はいますが、ヘッドランプをちょっとだけ変えるとか、地味なレベル。明らかに改造車といういでたちの車は、改造車のメッカである北関東で調査してもかなり減っています。それよりも、内装に凝って手を加えるのがいまどきのヤンキーらしい。仲間や親が座って快適なふかふかシートを付けるとか。おうち感覚ですね。

斉藤:UFOキャッチャーのぬいぐるみを大量に窓辺に置いている車も一時期みられましたが、最近はいかがですか。

原田:僕の実感としては減ってきていますね。

斉藤:若者のぬいぐるみ離れ(笑)。

原田:全体的に車内はほんとうにシンプルになってきている。ヤンキーの服装がバッドセンスからおしゃれに変わってきているのと一緒で。

斉藤:ヤンキーのヤンキーらしさが徐々に希薄になっている。

原田:いまのマイルドヤンキー世代を象徴しているのが、若い男女6人が一軒の家で共同生活する姿を描いた『テラスハウス』というTV番組です。この番組はTV視聴率以上に、ネット視聴などで凄まじく見られている。もちろんマイルドヤンキー層にも見られているし、高学歴の子に対する訴求力も強い。

TVといえば最近、印象的なCMがありました。自分に合った職場を地元で探して、みんなで仲良く働こうよ、というメッセージで、コックさんや花屋さんの恰好をした人たちが並んで、ひたすら「地元」と歌うCMです。マイルドヤンキーはとにかく地元好きなので、この地元というフレーズの連呼が強く印象に残ったようです。

斉藤:ベタですね(笑)。CMコピー全盛期といわれていた80年代の広告はとっくに色褪せてしまって、むしろポエムらしさをアピールする広告が多い。たとえば「上質な生活」うんぬんといった、やたらと仰々しい美辞麗句を並べたマンションのCMなどが増えている印象があります。

原田:たしかにひねりがなくなって、わかりやすい広告が多くなっている実感があります。マイルドヤンキーにはわかりやすい訴求が効くのは確かですね。

もう1つ、いまの若者の行動原理を示す例として、伊東園という熱海を中心に展開しているホテルグループがあります。「365日同一料金」というコピーが、マイルドヤンキーの若い家族に刺さっているんですよ。休日でも変わらず1泊2食付きで6800円、と打ち出されると、たしかにちょっと得した気分になりますよね。ぜひ一度、行かれてみてください。ミニバン、軽自動車に乗ったヤンキー系の家族が多く泊まられています。

斉藤:行ってみます(笑)。徹底した実利志向と、一方ではポエム志向が同居している、ということでしょうね。

北陸に加賀屋という宿があって、たまたま泊まりに行ったら、なぜか宝塚風の出し物をやっているんですよ。ところが、和風旅館の空間にこれが絶妙なマッチングなんです。スターが一列に横並びで登場するような絢爛豪華さが日本人のヤンキー魂をくすぐるのだろう、と解釈しました。あの平板性、ファサード性(建築における正面)。そして奥行きのなさ(笑)。

原田:たしかにそうですね、単純明快。

(『Voice』2014年6月号より/〔2〕につづく)
・〔2〕はこちらから→ヤンキー化する日本経済〔2〕

■斎藤環(筑波大学教授・精神科医)
1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程修了。爽風会代々木病院などを経て、現在、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙。近著に、『ヤンキー化する日本』(角川oneテーマ21)がある。

■原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)
1977年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所などを経て現職。日本およびアジア各国で若者へのマーケティングや若者向け商品開発を行なっている。近著に、『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)がある

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■『Voice』2014年6月号
【総力特集:しのびよる中国・台湾韓国の命運】 今月号の総力特集は、「しのびよる中国・台湾、韓国の運命」と題し、中国の脅威を論じた。武貞秀士氏は、中韓による「反日・歴史共闘路線」で中国が朝鮮半島を呑み込もうとしていると警鐘を鳴らす。一方、宮崎正弘氏は、台湾の学生運動の意義を説き、中国経済の悪化でサービス貿易協定の妙味は薄れたという。また、上念司氏と倉山満氏は、中国の地方都市で不動産の値崩れが始まっており、経済崩壊が目前で、日本は干渉しないことが最善の策だと進言する。李登輝元台湾総統の特別寄稿『日台の絆は永遠に』も掲載。ぜひご一読いただきたい。

第二特集は、日清戦争から120年、日露戦争から110年という節目の今年に、「甦る戦争の記憶」との企画を組んだ。また、硫黄島での日米合同の戦没者慰霊式に弊誌が招待され、取材を許された。遺骨収集の現状を含め、報告したい。 さらに、世界的に著名なフランスの経済学者ジャック・アタリ氏とベストセラー『帝国以後』の作者エマニュエル・トッド氏へのインタビューが実現。単なる「右」「左」の思想分類ではおさまらない両者のオピニオンに、世界情勢を読む鋭い視点を感じる。一読をお薦めしたいインタビューである。

・〔2〕はこちらから→ヤンキー化する日本経済〔2〕

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