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  • kihamu
  • 2010年08月28日 00:00

リバタリアンな制度は児童虐待を解決するか

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最近、世間では児童虐待の問題が大きな注目を集めている。こうした時勢を受けて、リバタリアニズム・ジャパン・プロジェクト(LJP)のサイトに相次いで興味深いエントリが挙がっている*1。リバタリアン経済学者として知られる蔵研也氏は、「児童保護警察(NPO)が必要だ」と題する記事で、虐待被害を受けている児童を保護するための案として、親権者の住居に無断で踏み込むことも辞さないような過激な「児童保護NPO」の活動と、「警察の分割・民営化」の2つを挙げている。この提案に対してanacapさんは、「子供売買を合法化しよう」と応じている。いずれも相当に刺激的・挑発的な議論である。

これらの提案に対して、強い反発を覚える向きも少なくないだろう。だが私自身は、これらが検討にも値しないような類の暴論だとは思わない。かといって賛成するわけでもない。どれだけ、そしてどのように値するのか、順に検討しよう。

とはいえ、その前に。ここで採り上げる議論は児童虐待から子どもたちを救うことを目的として行われているわけであるから、まずは児童虐待の現状について最低限の事実を押さえておこう。以下は、2年ほど前に書かれた「現代日本社会研究のための覚え書き――5.親密圏/人権(第2版)」からの引用である。
まず、2000年5月に児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)が施行された。同法は、身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待を禁止対象とし、児童福祉に係る者の早期発見義務と一般的な通告義務を定めている。通告を受けた福祉事務所ないし児童相談所は、児童の安全を確認した上で必要に応じて一時保護などの措置を行うことができるものとされ、都道府県知事の許可を得た上で、虐待が疑われる家庭への立ち入り調査を行う権限が与えられる。その後、二度の改正(05年、07年)を経て、虐待が疑われる児童の保護者に出頭を要求する制度や、児童養護施設などに入所させられた保護児童に対して虐待を行った保護者の接近を禁止する命令を発することができる制度などが新設された。
児童虐待防止法の立法背景には、89年に国連で採択された子どもの権利条約を、日本が90年に署名、94年に批准したことに伴う国内法制整備が挙げられる。99年には児童買春・ポルノ防止法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)が成立している。虐待そのものの状況はどうかと、児童相談所で対応した相談件数の推移を見てみると(下図)、一貫した増加傾向にあり、特に90年代末からは飛躍的な伸びを見せ、2006年度現在では37,323件に上っている(厚生労働省〔2007〕)。また、2006年度の立ち入り調査件数は238件、一時保護件数は7,081件である。

児童虐待の相談件数はその後も続伸し、2009年度の相談件数は速報値で4万4210件である。児童虐待が引き起こされる要因は経済問題と育児環境の2種類に大別できるが、多くのケースではそれらが相互に絡み合っていると思われる。90年代末以降の相談件数激増をもたらしたのは、一方で長期の不況とそれに伴う雇用の流動化、他方で離婚率の上昇に代表される家庭内流動性の上昇であると言えるだろう(さらに背景として、子どもの権利と虐待問題に対する社会的認知および意識の向上が考えられる)。こうした認識が妥当だとするなら、短期的には経済状況を好転させることが、中長期的には、経済状況や家庭環境が悪化しても児童虐待が引き起こされにくいような仕組みを作り上げることが、問題の解決策として必要とされているはずである。

冒頭に挙げた幾つかのリバタリアンな提案も、こうしたマクロ的な問題状況認識に結び付けながら検討しなければ、目的を見失ってしまうことになるだろう。頭の体操をするだけなら別だが、未来の選択肢として真面目に検討するつもりなら、私たちが「採るに値する」案でなければならない。

まず、蔵氏の1つ目の提案である過激な児童保護NPOであるが、これは法に抵触することも厭わずに目的を達成しようとする点で、反捕鯨団体シー・シェパードのような組織をイメージすればいいのかもしれない。親権者の許諾を得ずに家に上がり込んだり、場合によっては無断で子どもを連れ去ったりすれば、確かに虐待から守られる子どもの絶対数は増えるかもしれない。だが、そのNPOは虐待が疑われる家庭の情報をどうやって収集するのだろうか。国家や企業が行う活動は比較的情報を集めやすいので、小さな組織でも監視したり妨害したりすることが可能だが、個々の家庭の情報を逐一収集することは容易でない。必要な情報を集めるためには日常的に非合法な活動にも手を染めなければならないだろうが、そこまでの逸脱行為を許容する出資者はいるだろうか。仮に出資者に困らなくても、そのような日常的な監視や情報収集が許されるなら、子どもを持つ家庭は絶えず盗聴・盗撮や他人の目に怯えなければならなくなるだろうし、収集された情報が目的外に不正使用される危険も高まることになる。

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