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「次の大地震」に備えたシステム構築はここまで進んでいる - 夏目 幸明(ジャーナリスト)

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進む「官民の連携」が被害を軽減する

最後に、われわれは東北電力に取材をした。同社は震災時、世界の業界関係者が驚くほどの早期復旧に成功している。この復旧劇には何が役立ったのか。

配電業務を担当する阿部克彦氏(東北電力お客さま本部・配電部課長 現・米沢営業所長)に話を聞いた。

「弊社は震災前に、通常のナビゲーションシステムに配電地図を重ね合わせた『配電ナビ』を配備していました。電柱の場所は『○○町○番地』のような通常の住所では示されず『仙台線』などの路線名と『1号』などの電柱番号で管理されます。他社にも同様のシステムがあるため、たとえば中部電力、北陸電力などの応援隊が来ても、路線名と電柱番号を伝えればすぐ現地へ向かえます」

また、災害時に現地へ向かう「DRサポートカー」も配備した。無線、ファクス、インターネットなどの通信機能からトイレ、洗面施設までをもつ災害復旧専用車だ。簡易型の衛星通信システムも導入した。これにより、現地で画像を撮影し、本部にメールを送ると、本部から復旧の優先順位や具体的な方法などが時間のロスなく指示される。

「重要なことは、過去の災害経験を振り返って次に活かすこと。人事を尽くして天命を待つ、ではありませんが、これまでの経験を基にできる限りの備えはできていたと考えています。とくに宮城県は、震災前、今後30年以内に大地震が起こる確率が99%、今後10年以内でも70%といわれていたため、詳細な被害予測も行ない、年間2回の訓練も行なっていました」

震災当時、被災地の石巻営業所で指揮を執った山本浩則氏(現・宮城支店お客さま本部配電G主査)が話す。

「社内では『訓練でうまくいかないものが、現場でうまくいくはずがない!』というのが共通認識になっていますから」

防災意識は高まっていた。そして、実際に地震が来た。石巻の営業所も一階には津波が押し寄せ、山本氏もさすがに一日目は従業員やその家族の安否確認をし、手近な場所の復旧をするなどしかできなかったという。二日目以降は営業所の復旧をし、救命ボートで社員たちを内陸部へ届けた。

そこに「仲間」がやって来た。中部、北陸、関西……全国の電力会社から、配電業務に携わる人間が応援に来たのだ。

彼らは「自律分散型復旧体制」を整えていた。冒頭で紹介したNEXCO東日本のように、中央が細かい指示を出すのでなく、エキスパートが自分自身で最適な方法を判断し、復旧していくのだ。ここから、被災地の社員は別の役割をこなすことになる。

「作業は応援に来てくれた人たちに任せ、われわれは応援部隊の受け入れと、さばきに専念するのです」

詳しくいうなら、駐車場や寝る場所を割り当て、どんな仕事を割り振るかに専念するのだ。ただし被災しているのは、普段、自分が住んでいる街だ。自分たちも作業したいのではないか?

「もちろん気持ちでは、みんな『自分も作業したい』と思っていたかもしれません。でも、思いはグッと抑えなければいけないのです。われわれが絶えず現場から送られてくる情報を集約し、割り振ることに徹しなければ、応援隊が効率的に動けません」

配電設備の復旧に携わった人数は、全社合計で最大一日5400人。「自律分散型復旧体制」だけに、食料や寝袋は持ってきていたが、それでも絶え間なく「工事用資材はどこにあるのか」「このがれきをどけるのはわれわれの力だけでは無理だ」といった連絡が入る。これをさばく人間が必要なのだ。

被災地での対応は、すべて緊急。しかもインフラは寸断されており、頼ることができない。だから応援隊は「自律分散型」の行動を取って、水や食料も確保した上で被災地入りする。一方、情報はシームレスに共有されなければいけない。情報だけは「自律分散」というわけにいかないのだ。だから事前に情報共有できる環境を整え、各担当に的確な指令を伝える必要がある。結局、山本氏の部下たちは「“いったん仮眠しなよ”といわれても、みんな寝ようとしないんです」(山本氏)という情熱で、情報の集約と的確な指示という仕事を全うした。

その過程で、彼らは重要なパートナーを見つけた。

「自衛隊さんです。それまでは電力会社と自衛隊さんのあいだに包括的な協定はなかったのですが、たとえばがれきの処理、道路の確保には自衛隊さんの力が必要です。ほか、人員、機材の輸送も協力し合えたほうが効率的です。一方、電力会社は自衛隊に電力を供給し、集合場所やヘリポートを貸し出し、電力会社がもっている地図や地形図もお渡しします」

考え方は、守谷SAの共同災害対策本部と同じ、要するに、情報を1カ所に集中させ、連携によって共有しようという試みが各インフラによって行なわれていたのだ。

その根底には、こんな思いがあった。最後に、東京メトロ・木暮氏の言葉を借りたい。

「災害対策は経験工学の側面が大きい。われわれは災害の記録を詳細にとって、未経験の災害にも備え、一歩一歩、進んでいくしかないのです」

われわれは、前回震災時、多くの「絆」を目にした。

筆者も取材でさまざまな話を聞いた。たとえば普段は競合関係にある企業が「お宅の工場は大丈夫か!」と違法にもかかわらず燃料を運んで来てくれた例もあれば、NEXCO東日本の緊急工事のヤードを確保するため、道路脇の農家が「うちの畑をつぶしてくれてかまわない」といってくれたという逸話もある。普段だったら、少し気恥ずかしい言葉でもある「絆」。だが「非常時には、組織の垣根を越え、情報や資材を共有しなければならない」と多くの人間が意識したからこそ、「絆」の文字が復興の象徴のように使われるようになったのだろう。

 そしていま、インフラは「絆」を制度とし、訓練や設備に組み入れようとしていた。

(『Voice』2014年5月号より)

■夏目 幸明(ジャーナリスト)
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店に入社。その後、雑誌記者に。『週刊現代』に「社長の風景」を連載中。 著書に、『ニッポン「もの物語」』(講談社)、『大停電(ブラックアウト)を回避せよ!』(PHP研究所)などがある。

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■Voice 2014年5月号
<総力特集>中露の暴走を止めよ 総力特集は、「ウクライナ危機後」の世界を睨んで「中露の暴走を止めよ」。中西輝政氏は、歴史の必然として「多極化」しつつあると説き、日高義樹氏は、オバマ大統領の事なかれ外交がプーチン大統領のクリミアへの侵略を招いたとした。ほかに、佐藤正久氏、矢板明夫氏、渡邊啓貴氏らの論考を掲載している。渡部昇一氏と呉善花氏の対談では、いずれ中国は韓国を味方に置きつつ、北朝鮮を編入するのではないかと読む。拡張主義を貫く中露は、国際社会の反応を見ながら虎視眈々と次の一手を考えている。

第二特集は「論争・安倍景気の行方」。「新・アベノミクス」を説く若田部昌澄氏は、「国としての誇り」を取り戻すために経済成長の必要性を強調。内閣官房参与の藤井聡氏は、「財政政策の効果は小さい」というエコノミストに対して名指しで論争をしかけた。 自民党の野田聖子総務会長と高市早苗政調会長に、篠原文也氏が斬り込んだ特別鼎談、歴史マンガ『テルマエ・ロマエ』でブレイクしたヤマザキマリさんの巻頭インタビューなど、今月号も読みどころ満載。ぜひ、ご一読を。

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