記事

「次の大地震」に備えたシステム構築はここまで進んでいる - 夏目 幸明(ジャーナリスト)

1/2

■震災対策・インフラを結ぶ「絆」■


高速道路のサービスエリアが防災拠点に

3月14日、東京と北関東を結ぶ常磐自動車道の守谷サービスエリア(以下SA、茨城県)で『Pasar守谷(上り線)』開業の内覧会が行なわれた。首都圏直下型地震などの大きな災害が起きたとき、ここが被災地に向かう自衛隊や消防などが使う“最前線”の基地になるのだ。

発災と同時に、フードコートにいた利用客は避難誘導される。そして陸上自衛隊、消防、警察、日本赤十字、DMAT(災害派遣医療チーム)、携帯電話キャリア各社などのブースが置かれ、即座に関係機関・企業の共同災害対策本部が立ち上がる。

NEXCO東日本の管理事業本部防災・危機管理チームサブリーダー・久保竜志氏が話す。

「守谷SAには、ヘリポート、自家発電機などが設置され、井戸も掘られています。井戸は、今後、飲料水としても使えるようにする予定です。駐車場は、自衛隊、消防、医療機関等の車両が駐車できるだけの広さを確保しており、各部隊の連結所、物資の集積所としても使えます」

災害が起きたとき、高速道路は緊急輸送道路として大きな役割を担う。東日本大震災のときには、東北自動車道の前沢SAなどが被災地へ向かう機関の前線基地として活用された実績もあった。

このとき、NEXCO東日本は場所を提供するだけでなく、貴重な教訓を得ていた。

「われわれは“一刻を争う人命救助や迅速な復旧のためには、組織の垣根を越えた情報共有が欠かせない”と学んだのです。たとえば弊社が震災直後に高速道路の被害状況を把握していても、情報が関係各機関に届かず、“行ってみたけれど道ががれきでふさがれていた”では意味がありません。

また、情報が共有されるまでに時間がかかったらタイムロスになります。そこで、弊社は自衛隊や消防、インフラ各社等に働きかけ、あらかじめSAを防災拠点として災害時に強いライフラインを整備し、情報を一元化できないかと考えたのです。守谷SAはそのモデル事業。今後は、各地の主要なSAにこの機能をもたせていこうと考えています」

地震が起きると、まずは東京ヘリポートから、通信装置が付いたカメラを載せたヘリが飛び立つ。同時に各管理事務所の人員が、高速道路を低速で走行し、写真を撮るなどして情報を集める。これら共有される空と陸からの情報は、一元的に集約される。

NEXCO東日本とパスコで共同研究した緊急ヘリ撮システムは、「撮影と同時に、撮影位置と方角が自動計測され、(グーグルマップのような)一枚の地図に結果が集約されます。いままでは各地点の写真を撮影すると、ズームして撮影したものは『これはどこの写真だ?』と照会するのに時間がかかりました。しかし今後は大きな地図上にアイコンが表示され、クリックすると詳細が表示されるようになるのです」。

写真は、空撮後、守谷SAのヘリポートに着陸してから、約60分以内には資料化され、即時各機関に配布されるという素早さだ。

内覧のあとの訓練に、自衛官らも参加していた。陸上自衛隊東部方面総監部の陸佐にインタビューすると、彼はこう答えた。

「被災地に部隊が進出する際、情報がないと、われわれは暗闇のなか、手探りで救援活動をするような状況に陥ります。しかし前線の司令部に道路、気象、通信など、専門的な機関からの情報があれば、われわれはより効率的、効果的に部隊を動かせます」

屈強そうな顔が、力強くほほ笑んだ。震災が起きるたび、貴重な人命が失われる。だがその一方で、復旧までの動きは素早くなっていく。

たとえば1995年の阪神・淡路大震災のとき、NEXCOの前身である日本道路公団をはじめとする道路管理者はまず、緊急車両(自衛隊の車両や物資を積んだ車など)を通す緊急復旧工事を行なう必要があった。

人命をどれだけ多く救助できるかは、初動の速さに左右される。震災の発生から72時間を超えると、生存者の命の多くが失われてしまうのだ。さらには、道路が通じていなければ電気も水道も工事ができない。そこで阪神・淡路大震災後、日本道路公団は、各種工事を請け負う企業と協定を結んだ。「災害が起きたら即時、復旧工事を進めてほしい。他の工事用の資材を使ってもいい」という思い切った内容だ。

これが東日本大震災で生きた。3月11日の夜、被災地では、NEXCO東日本のグループ会社だけではなく、街の土建屋さんまでもが、残った燃料を使い切る覚悟で工事を実施し、翌未明までに高速道路を一車線だけ開通させることに成功したのだ。その結果、東北道、常磐道を各種緊急車両が走り、高速道路はまさしく“幾多の命を救う道”となった。

施設の堅牢性も高めていた。橋梁などを続々と耐震化したのだ。たとえば、橋脚をコンクリートで巻いて太くすることやチェーン、移動制限装置などの落橋防止装置を設置するなどにより、倒壊などの致命的な被害は防げる。この結果、東日本大震災では橋脚の倒壊件数、高速道路上での死者、ともにゼロ。悲劇を乗り越え、われわれ日本人は、震災に果敢に立ち向かったといえるだろう。

では今回、彼らは何を学んだのか。久保氏が話す。

「やはり、情報を共有すること、あとは組織の垣根を越え、連携することでしょうね」

交通機関や電力など各社を取材すると、この言葉が、驚くほど別のインフラと符合していた。

地下鉄、空港の震災対策は万全か

たとえば、東日本大震災当日、首都圏の鉄道のなかで復旧が比較的早く、利用者から賞賛された東京メトロだ。彼らに3月11日の状況を聞くと、阪神・淡路大震災の教訓がしっかり活かされていた。東京メトロ鉄道本部安全・技術部課長の木暮敏昭氏が話す。

「弊社は、柱の耐震工事に着手していました(地下鉄のホームから見えるコンクリート製の柱と柱のあいだに、新たな金属製の柱が建てられているのをご覧になった方も多いだろう)。神戸高速鉄道の地下鉄部分の天井が崩れたことから国による安全基準が変わったのです。ほかにも、弊社は高架部分を支える約4700本の柱のうち3500本に補強工事をし、さらには、いったん安全とされた残りの1200本も補強し、震災時は99%以上の工事を終えていました。その結果、大きな被害はありませんでした。また今後、首都圏に直下型地震が来ても被害を軽微に抑えられれば、低速で列車を走らせるなど対応の幅が広がります」

筆者が独自に取材をした結果、耐震工事を施した構造物は、実験結果のとおり、倒壊などを免れていることがわかっている。さらに、東京メトロは新たな技術をシステムに組み込んでいた。

「じつは地震による揺れが到達する前に、列車はすべて停まっていました。弊社の地震警報システムは気象庁から送られてくる緊急地震速報のデータを活用し、大きな揺れを予測すると自動で緊急停止の列車無線の音声が流れ、乗務員が非常ブレーキをかけるのです」

首都圏直下型地震の場合は、地震発生から揺れ始めるまでのタイムラグがないため、今回のようにうまくいくとは限らない。だが、最善策がとられているのは間違いないだろう。

復旧はどうなのか。早かったと評価されているが、基本は「マニュアルどおりに進めた結果」だという。

「地震の揺れが収まると、まずはお客さまに避難していただきます。東京メトロのルールでは、緊急停止したあとは、時速5km以下――人が早歩きする程度の速度で、運転士が障害物の有無を目視しながら次の駅まで行き、全員に降車いただくことになっています。お客さまには改札の外に出場してお待ちいただきます。安全点検の際、お客さまが線路内に入って歩いてしまうと大きなタイムロスになるからです。ただし、コンコース内で復旧をお待ちになるお客さまも多いので、東日本大震災以降、ブランケットや水を各駅合計約10万人分用意してあります」

乗客が全員改札外に出場すると点検が始まる。

「地下鉄の路線にはレールのほか電線なども通っています。これらを管理する人間がチームを組んで、歩きながら路線を点検するのです。多数のチームに分かれて全区間を点検し、被害がなければ次に安全確認のための回送列車を走らせます。全列車が前の列車がいた駅まで走れば、全区間が確認できたことになりますよね。ここまでで問題なければ運転再開です」

復旧は早かったが、事後、同社内ではさらに議論が進められた。

情報を素早く収集し、集約しなければいけない。

「先ほど、係員が歩くといいましたが、必ずしもレール、電気系統など、チーム全員が揃うとは限りません。そこでたとえば電気系統の技術者がレールの安全確認も行なうなど、専門外の判断も下せるようマニュアルを作成しています」

あとは、企業の垣根を越えた連携に課題が残った。

「弊社は14時46分の地震のあと、20時40分には銀座線全線と半蔵門線一部区間の運行を再開しました。ところが、運転再開の連絡ができない路線があったのです」  渋谷と郊外をつなぐ京王井の頭線は、この段階でまだ復旧していなかった。そして当時は電話回線がパンク寸前だったため、東京メトロは京王電鉄に運転再開の連絡ができなかったのだ。

結果、井の頭線渋谷駅に人があふれてしまった。

「もちろん、東京メトロと直通運転をしている鉄道会社とのあいだには、指令所間を結ぶホットラインがあります。しかし、京王線は弊社と直通運転をしておらず、結果的に、ご迷惑をかけてしまったのですね。

そこで、震災後は国交省が中心になって会社間の連絡がスムーズになるよう鉄道各社専用の電話回線を準備しました。JRには国鉄の時代から専用回線があり『JR電話』と呼ばれていました。われわれ民鉄もこれを引き込ませていただいたのです。これで、運転の再開はよりスムーズになるはずです」

成田空港のオペレーションも、よく似ていた。成田国際空港・総合安全推進部(安全管理担当)の越川直樹氏が話す。

「この地域は震度5強だったのですが、弊社施設に深刻な影響はありませんでした。少なくとも建屋の構造部材については震度6強までは耐えると想定しています。当然ですが、空港内には非常用発電設備が装備されており、万一、停電しても航空機にすぐに指示が出せなくなることもありません。東日本大震災後の復旧も早く、地震発生後、19時以降、出発便は運航再開しております」

進化すべきは「顧客の誘導」「情報収集」「関係機関との連携」だった。同社保安警備部(警備調整グループ)の神崎健人氏が話す。

「空港の場合、避難活動の結果、すでに出国されたお客さまとそうでないお客さまが交じってしまうと、お客さまの航空保安検査をやり直すことになり、運用再開までに時間を要してしまいます。『3・11』の際は、現場の適切な対応でそのような事態は避けられましたが、震災後は、制限エリア(出国の場合は保安検査後、入国の場合は入国審査場前のエリアを指す)と一般エリア、それぞれに適した避難場所を定め、災害時の初期対応をまとめたハンドブックを作成し、警備会社だけでなく、空港で働かれている方々や関係機関へ配布し、周知徹底しました。また、空港で働かれている方々が、災害時に安全かつスムーズな避難誘導をできるようにするため、空港内をいくつかのエリアに区切り、それぞれのエリアの特性に応じた訓練を実施しています」

震災当日は1万7000人の利用客を避難誘導し、約8500人が成田空港内に滞留したまま夜を迎えた。水、軽食、毛布なども行き渡ったが、情報のやりとりはもっとスムーズにすべき、と判断した。

「空港内各所にはカメラが設置されており、監視センターにて状況を把握できる体制は整えてはいましたが、お客さまにケガがないか、施設に被害がないかなどの確認は、現地で目視確認する必要があり時間がかかりました。そこで、不通の可能性もある電話ではなく、無線機を配備するなど、各所間での情報共有の改善に努めています」

その後、訓練を重ねることで、被災後に立ち上がる緊急対策本部に、施設各部署からの情報がスムーズに集約できつつある。総合安全推進部(安全管理グループ)の宮崎智寿氏が話す。

「また、アクセス会社とのホットライン構築などで、電車やバスなどの運行情報が入ってくる体制を整えています。成田空港から各地への輸送路が確保できないと、空港内にお客さまが多数滞留する事態が予想され、到着機の受け入れ体制にまで影響が及びます。しかし、アクセス会社との連携を高めることで、空港からのアクセス状況をお客さまへ適時適切に案内できると考えます。今後は、こうした連絡をさらに緊密に取っていくことで、関係者の合意を得ています」

あわせて読みたい

「東日本大震災」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「ユニクロ=格好いい」ブランドに 英国ファッション業界で広がる人気

    小林恭子

    09月28日 11:51

  2. 2

    iPhone12 ProMaxからiPhone13 ProMaxに買い替えた結果

    永江一石

    09月27日 14:35

  3. 3

    まだゼロコロナを目指す?行動制限の緩和に消極的な知事らに医師が苦言

    中村ゆきつぐ

    09月28日 08:14

  4. 4

    麻生太郎氏が恐れる「河野家への大政奉還」 総裁選後に麻生派空中分解も

    NEWSポストセブン

    09月28日 09:09

  5. 5

    オンライン授業でレポートの精度が向上 大学准教授が推測する背景とは

    BLOGOS編集部

    09月28日 11:06

  6. 6

    米タイム誌が評価した隈研吾氏の新国立競技場が「負の遺産」に

    渡邉裕二

    09月27日 09:00

  7. 7

    スーパーシティって何だ?

    ヒロ

    09月27日 10:32

  8. 8

    またしても繰り返される新型コロナにまつわる様々な怪現象。

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

    09月28日 10:58

  9. 9

    小室圭さん 結婚決定で開き直り?会見拒否で眞子さま単独釈明の現実味

    女性自身

    09月28日 09:22

  10. 10

    SDG's がもたらす物価高 先進国でもエネルギー価格が高騰するリスク

    ヒロ

    09月28日 10:28

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。