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裁判員制度スタートから5年――市民参加の視点から考える課題 ‐ 坂上暢幸

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裁判員の体験を市民が共有できるようにすること

市民が主体的に、裁判員として刑事司法に参加できる、社会的な土壌をつくるためには、裁判員の貴重な経験を社会に共有することが不可欠です。しかし現在の制度では、裁判員候補者には候補者であることの公表禁止義務があり、公にすることができません。

そして、裁判が終わった後は、裁判員経験者には評議について広範な守秘義務が課されます。これらの規定は、候補者及び経験者にとって、「どこまで話せるか」を吟味する前に「とにかく言わない」ことを選択させる可能性があります。制度開始から5年経ちますが、裁判員の貴重な経験が社会で共有されているとはいえません。この状況を変えるためには、これらの規定の見直しが必要だと考えます。

裁判員候補者の場合、裁判所から具体的な日時が指定された呼出状を受け取ったことを公にしてしまうと事件が特定されるおそれがあります。しかし、呼出状を受け取る前の段階は、裁判員候補者は年間約25~30万人にいることから、「裁判員候補者になった」ということがわかるだけでは、不当な働きかけがされる可能性はほとんどありません。したがって、呼出状を受け取ったことは公表禁止とすべきですが、本人の同意があれば「裁判員候補者であること」自体は公表しても、裁判員候補者のプライバシーや生活の平穏を保護するという公表禁止規定の趣旨には反しないと考えます。

また、裁判員経験者の場合、経験の核心部分である評議に関して広範な守秘義務が課されていることで、その経験を市民の間で共有することが難しくなっています。勿論裁判員の自由な討論を保障し、事件関係者のプライバシー等を保護する必要はあります。しかし、評議の経過や発言者を特定しない形での意見の内容、評議の際の多数決の数といった部分は、守秘義務の対象から外すべきだと考えます。現在の「評議の秘密」の範囲を限定して、発言者を特定して意見の内容を漏らす場合だけを守秘義務の対象とすべきです。

このように守秘義務の範囲を限定することは、市民が主体的に裁判員として参加できる社会的土壌をつくるとともに、評議のブラックボックス化を防いで、公正な裁判が実現されるための第一歩となります。

市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置すること

裁判員制度は、市民が司法に直接参加する制度です。裁判員制度のあり方について、法律の専門家だけではなく、司法の新しい「担い手」となった市民の声を反映させることが大切です。

裁判所は裁判員経験者を招いての意見交換会を開いたり、裁判員経験者へのアンケート調査を行ったりしています。このような形で市民の声を集める試みは、専門家にとっては有意義な機会かもしれません。しかし、アンケートや意見交換会の枠組みでは、市民が制度を検証する立場に置かれているわけではありません。また現在裁判員へのアンケートは、判決日、判決を出した後すぐのタイミングで、裁判所の中で記載しているというのが実情です。一種の「高揚感」を感じているタイミングでの調査だけではなく、裁判員が冷静にふりかえりながら書くことが出来る時期に調査を行うことも必要だと思われます。こうしたことも含めて裁判員制度の検証は、専門家が主導する場だけではなく、市民が主体的に裁判員制度の検証を行う機会もあるべきではないでしょうか。

裁判員法では制度施行から3年経過後に制度の見直しを検討する旨が定められ[*11]、法務省に「裁判員制度に関する検討会」が設置[*12]されていましたが、2013年6月21日にこの検討会は閉会となりました。しかし、裁判員制度が今後も存在していく以上、継続的に検証や見直しをするための仕組みが必要です。裁判員制度は常に市民が関与しながら動き続けるものです。その動きを継続的に観察してチェックすることが不可欠です。

[*11]裁判員法附則第9条

[*12]なお、これとは別に最高裁判所には有識者による「裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会」が設置されています。

そこで、裁判員経験者を含めた「裁判員制度市民検証委員会」(仮称)を設置し、不断に裁判員制度を検証する体制をつくるべきだと考えます。この委員会は、裁判員経験者など一般市民を中心とした組織で、裁判員裁判のモニタリングや、裁判官との模擬評議を行うなどして、継続的に裁判員裁判の運営状況を観察し、改善点については助言や勧告を裁判所や法務省に対して行うことができる組織です。

裁判員制度が市民参加の制度として社会に存在していくためには、このような検証を行うしくみが、制度とセットになって初めて、冤罪を防ぎ、より公正な裁判への「市民参加」に近づくことができるのではないでしょうか。

おわりに――市民の声が裁判員制度の価値と未来を決める

刑事司法において、専門家だけに全てを任せていた状況は大きく変わりつつあります。裁判員制度のあり方について、私たちは「他人事」ではなく「自分たちの問題」として主体的に考えていくことが必要です。

市民が刑事司法の新しい担い手として、裁判員制度の実状を知り、意義を考え、この制度が本当に必要なのかどうかも含めて議論することによって、初めて市民の主体的な参加が実現するのです。そのためには専門家だけではなく、市民の声を集め、制度に反映させていくことが重要です。

どのように多くの市民の声を集めて制度に活かすことができるのか。ここに、裁判員制度の価値と未来を決める最大の要素があるのです。

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坂上暢幸(さかがみ・のぶゆき)

一般社団法人裁判員ネット理事

一般社団法人裁判員ネット理事。東京都生まれ。中央大学大学院修士課程修了(社会学修士)。裁判員経験者交流組織(裁判員経験者ネットワーク)世話人。裁判員制度開始当初から裁判傍聴を続け、制度改善について市民の立場から提言を行う。また法教育の分野でも活動し、市民講座や出張授業、教員向け研修の講師も行っている。

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