- 2014年05月21日 07:00
裁判員制度スタートから5年――市民参加の視点から考える課題 ‐ 坂上暢幸
2/3市民の声を集める
筆者は裁判員制度を自分たちの問題として捉え、情報を社会で共有し、考えることができる機会と場をつくるべきだと考え、一般社団法人裁判員ネット(以下「裁判員ネット」)を2009年4月に設立し、活動を行ってきました。
裁判員ネットは、裁判員制度について情報発信し、裁判員制度に対して市民が主体的に考えることができるようにすることを目指す市民団体で、会社員、臨床心理士、学生、弁護士などの多様なメンバーが運営に携わっています。市民が裁判員として司法に参加する裁判員制度の趣旨からすれば、法律の専門家だけではなく、多様な市民による議論が活発に行われる必要があります。市民の視点から、刑事司法や裁判員制度についての議論の機会をつくり、あるべき姿を模索し、情報発信を行っていくことを目的にしています。
この裁判員ネットの主な活動のひとつが裁判員裁判市民モニター(以下「市民モニター」)です。これは、公募(インターネットやクチコミ)で集めた市民に裁判員裁判を傍聴してアンケートに答えてもらうというものです。さらに同じ裁判を数名で傍聴した場合は、その事件について、傍聴した人たちが「裁判員になったつもり」で議論して、自分たちの判決を考える「模擬評議」も実施しています。2009年8月に東京地裁で行われた全国初の裁判員裁判よりモニタリングを開始し、現在も随時行っており、2014年4月現在、市民モニターに参加した人は272人、モニタリングの件数は545件となっています。また模擬評議はこれまでに27回実施され、延べ231人が参加しました。
また私たちは裁判員経験者の交流会組織「裁判員経験者ネットワーク」の事務局としても活動してきました。これまでに経験者の交流会は17回開催されたほか、裁判員経験者からのヒアリングも行ってきました。
こうして集まった声をもとに、2011年と2012年に、そして今年の5月17日に、裁判員制度見直しに関して「提言」としてまとめ、公表してきました。これらの取り組みを通じて見えたこととして、現在の裁判員制度には見直すべき点がいくつかあるということです。それは裁判所の運用のレベルのものや、法的な仕組みレベルのものまで様々あります[*10]。ここでは、そもそも「市民参加」のシステムとして裁判員制度が社会に存在するためにという観点から、以下3つのテーマに関して述べたいと思います。
[*10]裁判員ネット「市民からの提言2012春」http://saibanin.net/updatearea/news/files/2012/05/teigen_20120519_1.pdf 参照
裁判員及び裁判員経験者の心のケアをより配慮すること
2013年5月、死刑判決を言い渡した裁判で裁判員を務め、証拠調べで殺害現場や遺体の傷口のカラー画像を見たことなどが原因で急性ストレス障害となった女性が、国に損害賠償を求める訴訟を起こしました。また、審理の途中で裁判員が気分の悪さを訴えたケースもありました。これらの事件に限らず、裁判員の心理的負担は大きいものがあります。重大な刑事事件を対象とする裁判員裁判に、市民が責任をもって参加するためには、裁判員及び裁判員経験者の心理的負担について十分に配慮する体制をつくる必要があります。判決に関与する裁判員の心のケアは、裁判員制度の重要な課題の一つです。
私たちは裁判員経験者の交流会を続ける中で、医療的な行為まで至らなくとも、裁判員経験者同士で経験を語り合い、交流することが心のケアに役立つということが、わかってきました。
そこで裁判員及び裁判員経験者の心のケアについては、裁判員になる前の段階、裁判員を務めている段階、裁判員を務め終わった後の段階で、それぞれ次のような見直しが必要だと考えます。
(1) 裁判員になる前の段階
まず裁判員になる前の段階では、裁判員なるための「心の準備」ができる環境をつくることが必要です。そのために以下2つの点における改善が必要です。
a. 裁判員裁判の情報提供を行い傍聴しやすい環境をつくること
裁判員経験者からは、「一度で良いから、裁判員になる前に裁判を傍聴しておけばよかった」という声をよく耳にします。いきなり「非日常的」な刑事裁判という空間で重大な判断を迫られることは、心理的に大きな負担です。したがって裁判員になる前に傍聴という「体験」を通して実際に裁判員裁判がどのようにして行われているのかを知ることは、「心の準備」として重要な効果があると言えます。例えば、裁判員候補者名簿記載通知や呼出状の中に、傍聴できる旨を記載し、裁判員候補者用の問い合わせ窓口を用意するだけで、事前に傍聴しやすい環境になるはずです。
b. 政令に定められた辞退事由として、精神的負担が重大な場合には辞退できる旨を周知徹底すること
精神的負担が重大な場合に辞退できる(裁判員法辞退政令第6号)可能性があることは、ほとんど知られていません。これまで裁判所は辞退を柔軟に認めてきていますが、そもそも裁判員候補者がそのことを知らなければ、辞退を申し出ることはできません。そのため、精神的負担が重大な場合には辞退できる旨を周知徹底することが必要でしょう。
(2) 裁判員を務めている段階
裁判員を務めている段階においては、裁判員を務めている間も臨床心理士等に相談できる機会をつくることが必要です。具体的には、全国8か所の高裁(または同所の地裁)に臨床心理士を配置し、電話または面談が随時できるようにすることが必要です。
(3) 裁判員を務め終わった後の段階
a. 守秘義務の範囲を限定し、心理的負担を一人で抱え込まないようにすること
裁判員経験者にとって、裁判員経験の核心部分である評議に関して広範な守秘義務が課され、それが生涯続くことは裁判員経験者にとって大きな負担になります。ですから、守秘義務の範囲を限定して、心理的な負担をひとりで抱え込まないようにすることが求められます。
b. 裁判所の「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」について見直しを行うこと
裁判員経験者にとって、メンタルヘルスサポート窓口が存在することは重要です。裁判員経験者が、心理的にも物理的にもこの窓口を利用しやすくするために、(i)裁判所の設置ではなく、裁判所で心理的負担を感じた裁判員経験者が相談しやすいように独立した第三者機関とすること。(ii)上限5回まで無料という相談回数の制限をなくすこと。(iii)相談に際しては、守秘義務が解除されることを明示することが重要です。



