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【読書感想】角川映画 1976‐1986 日本を変えた10年

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 1978年に公開された『野性の証明』のエピソード。

『人間の証明』同様に大量のテレビコマーシャルが流され、薬師丸の台詞、「お父さん、こわいよ、なにか来るよ。大勢がお父さんを殺しに来るよ」、「男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」、「ネバー・ギブアップ」、などが流行語となっていく。「男はタフで……」は森村誠一の原作にも映画にも出てこない、レイモンド・チャンドラーの小説の名セリフだが、角川春樹のアイデアで映画のキャッチフレーズとなり、広く知られるようになった。

 公開時までには角川文庫の森村誠一作品は40点、3000万部を突破した。

 映画『野性の証明』は森村の原作をなぞるように社会派ミステリとして展開していくが、ミステリとしての要素は途中でどこかに消えてしまい、アクション映画と化す。そうかと思うと、主題歌《戦士の休息》が流れ、薬師丸のプロモーションフィルムのような映像となり、物語としては完全に破綻して映画は終わる。理屈を超えた破天荒さは評価のしようがない。

 ちなみにこの『野性の証明』、『キネマ旬報』の評論家が選んだベストテンでは40位、読者投票では7位となったそうです。

 そして、角川映画としては初の、年間興行ランキング1位。

 ある意味、「もっとも角川映画らしい作品のひとつ」だと言えるのではないでしょうか。

 それにしても、「物語としては完全に破綻して映画は終わる」って、すごいよね本当に。

 この本を読んでみると、僕が記憶している「流行語」のなかに、角川映画絡みのものがすごく多いことにも驚かされます。

 

 角川映画は、1980年代からは、「本を売るための映画づくり」「超大作主義」から、薬師丸ひろ子、渡辺典子、原田知世らの「アイドル女優とファンのための映画作り」にシフトしていきました。

 1982年暮に公開の『汚れた英雄』『伊賀忍法帖』は興行成績の集計では1983年度に含まれるのだが、これを含め、『探偵物語』『時をかける少女』、『幻魔大戦』と三番組が83年の興行ベストテン入りし、さらに83年暮に公開の『里見八犬伝』は翌年の興行成績第一位となる。

 しかし『探偵物語』『時をかける少女』は角川映画としては最高の28億円の配給収入を挙げながらも、83年の一位にはなれなかった。フジテレビが製作した『南極物語』がその倍の56億円の配給収入となったのだ。

 メディア・ミックスで映画をヒットさせる手法を確立した角川映画は、テレビ・ラジオ・新聞・出版を持つフジ・産経グループが総力を挙げて自社媒体で宣伝した『南極物語』に完敗したのである。角川は媒体に金を払って宣伝するが、フジテレビは媒体そのものだ。勝てるはずがなかった。

 あらためて考えてみると、「自社の本を原作として映画化し、映画の興行収入とともに本も売る」という「角川商法」というのは、まさにいまの「メディアミックス」のはしりとも言うべきものです。

 角川映画が目立たなくなったのは、自己神格化というか、よくわからないことになってしまった角川春樹さん自身の迷走もあったのでしょうが、「みんな角川映画的なプロモーションをやるようになったこと」で、埋没してしまったのが大きかったような気がします。

 角川映画がつくられはじめた当時、映画界にとってテレビは「映画の客を奪う、にっくきライバル」であり、テレビで映画の宣伝をしようと考える者はいなかったそうです。

 ところが、角川春樹という人は、「テレビを利用して、映画をヒットさせ、角川書店の本も売る」というシステムをつくりあげた。

 いまでは、テレビ局そのものが、自社のコンテンツや宣伝力を利用して、映画をプロモーションするようになりました。

「広告費を払って宣伝してもらう角川が、自ら宣伝することができるテレビ局と勝負するのは厳しい」

 たしかに、そうですよね。

 最近はバラエティ番組などに、新作映画の主要キャストがどんどん出演していますし。

 いまから思い返すと「角川映画の時代」って、「次にどんな映画が出てくるんだ?どうせ宣伝ばっかりなんだろうけど」とか言いながらも、その「仕掛け」を、けっこう愉しみにしていたのですよね。

 この本を読んでいると、なんだか、当時の自分のことを、すごく思い出してしまうのです。

 当時、角川映画が好きだった人も、嫌いだった人も、「忘れられない映画の記憶」が、ここにある。

 あの時代の空気を封じ込めた、貴重な一冊だと思います。

 読んでから見るか、見てから読むか。

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