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外資参入規制

今日のエントリーも導入にフランス・ネタを使っていますが、最後は日本の話ですのでご容赦ください。

 フランスの重電メーカー(エネルギー、交通インフラ等)、アルストムの外資買収の話がこの数ヵ月出ていました。分野毎にエネルギーであればGE、交通部門であればシーメンスが手を挙げていました。

 そんな中、フランスのモントブール経済相主導で「経済的愛国主義に関する政令」が署名されました。何の事はない、かなり広範な分野への外資による投資を政府の許可制にするという政令です。これは新しい政令ではなくて、元々は2005年のド・ヴィルパン政権時代に防衛や治安については外資参入を許可制にするとしていた政令が定められていたのを、対象拡大したということです。

 現在のヴァルス政権で最左派に位置するモントブール経済相の面目躍如です。感覚的には、フランスの左派っぽい政策だよなと思わせます。ヴァルス首相自体は社会党最右派でして、本当はこういう政策は嫌いだと思います。よくこんな政令に署名したものだとも思います。どの国でも閣内バランスを尊重するのに苦労しているよな、ということを窺わせます。

 報道によれば、今回の政令でエネルギー供給、交通網・サービス、水供給、通信、公衆衛生と相当に広範になります。外務省で通商関係に携わっていた者からすると、こんなに広げて大丈夫かと思います。

 この政令がアルストム社買収にストップを掛けようとしているのは明らかです。あまりに露骨すぎて分かりやすいです。モントブール経済相は「放任主義(レッセフェール)の終わりだ」と威勢がいいです。

 この政策は相当に10日後に迫った欧州議会選挙を意識しています。EUやグローバリズムを否定する極右国民戦線が、世論調査では相当に伸びてきています。欧州議会でフランスに割り当てられた72議席の内、20議席を伺う勢いです。野党UMPを追い越して、第一党すら噂されています。「フランスにウィ、ブリュッセル(EUの本部)にノンを突き付けよう」といった分かりやすいフレーズが受けています。そんな中、第3位に甘んじている与党社会党が何とか国民向けにポーズを取ろうとしていると見ていいでしょう。

 実際、この「経済的愛国主義に関する政令」は、フランス人の70%が好意的に受け止めています。しかし、65%が有効だとは思わないという世論調査が出ていました。経済が低迷する中、外資による買収には心情的にガツンと言いたいが、効果については懐疑的ということです。これが選挙にどう影響するかですが、どう見ても大勢をひっくり返すところまでは行かないでしょう。

 多分、これは「適用次第では」フランスやEUの国際的な法的コミットメントに反してくる可能性が高いです(投資協定、WTOサービス貿易協定等)。実際、EUはかなり慎重なコメントをしています。誰が見ても、アルストム社の外資買収を狙い撃ちにしているわけでして、そもそもフランスやEUの予測可能性を著しく下げる政策です。

 この手の外資参入に制限を掛ける政策というのが、他国にないわけではありません。治安、防衛等は典型でして、そういうのは国際協定で除外されていることが多いです。ただ、その除外規定も非常に制限的に規定されていることが多くて、何でもかんでも治安、防衛といったキーワードに引っ掛けることが出来ないようになっています。

 さて、ここからが日本の話ですが、水源地、防衛施設の周辺といった場所の不動産への参入を制限しようとする動きが(最近ちょっと下火ですが)あります。私もかつて相当に研究しましたが、日本が締結している投資協定やWTOサービス貿易協定では、こういった投資を除外していないので直接に制限を掛けることが難しいです。

 こういうふうに言うと、「除外すればいいではないか」ということになりますが、これは上記の投資協定、WTOサービス貿易協定における日本の約束表をすべて条約改正交渉をしなくてはなりません。20以上の国際条約改正交渉は相当に大変ですし、自由化に逆行する措置とみなされますから、相手国からは「対価」を求められます。そして、それを全部国会に上げて審議しなくてはなりません。そこの意識がないまま、威勢よく「外資参入を制限せよ」というのは無責任な発言でしかありません。

 そういう観点から見ると、今回の「経済的愛国主義に関する政令」について、フランス政府とEUの今後のやり取りがどうなるかをよく研究してみるといいでしょう。EUはホンネでは「そんなものは認められない」と思っているでしょうが、EUの大株主であるフランスにそういうゼロ回答はしないでしょう。EUなりに少しフランスに花を持たせるはずです。その理屈付けに、私はとても興味があります。直感的には「参入に全部ノーを突きつけるのはダメだが、参入の条件付けの仕方次第ではOK。」という言い方をすると思います(が、間違っているかもしれません。)。

 どういう(屁)理屈であれば、こういう一見無理筋の政策と国際条約やWTOサービス貿易協定との関係を整理できるのか、何処までならやれるとEUは判断するのか、それは今後、日本において「外資参入規制」を考える際の一つの参考材料になると思うのです。

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