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「主義主張」ではなく「論理構成」の問題 ~ コストパフォーマンスの悪い「集団的自衛権」

◆ 論理が脆弱な総理記者会見

相手の主張を否定する方法としては、「自分の主張の方が優れていることを周囲に認めさせる」方法と、「相手の主張のロジックを崩すことで、主張全体の正当性を失わせる」という方法があります。

集団的自衛権の憲法解釈変更問題。安倍総理が容認する方向で検討することを表明した記者会見をきっかけに、テレビやマスコミでいろいろな議論が始まっています。しかし、こうした議論をみていて感じることは、「憲法解釈」の問題であるせいか、賛成、反対の立場からの「主義主張」をぶつけ合うだけで終わってしまうことが多いということです。もちろん、こうした議論を通して、様々な見方を知ることが出来ますから、それはそれで参考にはなるものです。

しかし、問題が「憲法解釈」という、主観性の強いものですから、最終的にはお互いの主観をぶつけ合うだけで終わってしまい、反対の立場の人達にとっては「言いたいことを言う」だけの場になり、賛成の立場の人達にとっては「ガス抜きをさせる場を設けた」だけで終わってしまっています。

また、例えその主張が正しいものであったとしても、「護憲」「平和憲法を守れ」と叫ぶだけでは、イデオロギー論争には関わりたくない国民にとっては胡散臭いだけで、あまり参考にはなりません。

個人的には、安倍総理の記者会見の内容は、集団的自衛権の憲法解釈変更をする必要性を主張するものとしては、論理的にかなり脆弱な内容であったと思います。

◆ 「密接な関係にない国の艦船」に救助、輸送されている日本人は見捨てるの?

「紛争国から逃れようとしている日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。このような場合でも日本自身が攻撃を受けていなければ、日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない」

例えば、「安倍首相は周囲に、『会見の中ではパネルが命だ』と言って、人々の心に訴えるような、女性や子どもたちを描くようなパネルにしてほしいという、細かい指示まで出していた」という報道がなされている、総理のパネルを使ったこの発言。総理は、お得意の「女性を活用」することで、「憲法解釈論」を「感情論」にすり替えています。

議論を「感情論」にすり替えることで、「紛争国から逃れようとしている日本人を救助、輸送していた」のが、「(日本にとって)同盟国でない国」だった場合の議論を封印することに成功しました。そのやり方は、マジシャンが種がばれないように、観客の視線を別のところに逸らせるのと同じ手法です。

米国が加盟している北大西洋条約機構(NATO)は、各国が集団的自衛権の発動義務を負っています。したがって、米国からの要請があれば、朝鮮半島など東アジアで紛争が起きた際にイギリス軍やフランス軍、さらにはポルトガル軍、アイスランド軍など、NATOに属している国の艦船が「紛争国から逃れようとしている日本人を救助、輸送」する可能性は否定出来ません。

安保法制懇では「集団的自衛権」を「国際法上、一般に、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていない場合にも、実力をもって阻止する権利」と定義しています。

日本は米国以外の国とは同盟関係にありませんから、NATO加盟国を全て「密接な関係のある国」と定義するのは無理があるように思います。もし、「紛争国から逃れようとしている日本人を救助、輸送していた」のが、日本の同盟国米国でなく、必ずしも「密接な関係のある国」と定義し難い国だった場合、日本の自衛隊はその国の船を守ることをせずに見捨てるのでしょうか。

「国民の命と暮らしを守る」というのが安倍総理の本心であり、「紛争国から逃れようとしている日本人」を守ることが目的ならば、「紛争国から逃れようとしている日本人を救助、輸送」している艦船がどこの国の艦船であったとしても、それを守るのが当然です。しかし、こうしたケースで自衛隊が「実力をもって阻止する権利」を行使するということは、「密接な関係にあるとは言えない国」が武力攻撃を受けた場合のものですから、集団的自衛権の定義から外れ、個別的自衛権の範疇での実力行使になるような気がします。

もし、「密接な関係にあるとは言えない国」に対して、個別的自衛権の範囲で「実力をもって阻止する権利」を行使することが出来るのであれば、当然のごとく「密接な関係にある国」に対しても個別的自衛権の範囲内で対応できるということになるはずですから、「紛争国から逃れようとしている日本人を救助」するためという理由で、集団的自衛権が必要であるという主張は、論理的にかなり無理があるように思えてなりません。

◆ 「感情論」によって隠される「日本が負うべきリスク」

安倍総理が、「紛争国から逃れようとしている日本人を救助、輸送していた米艦が攻撃を受けた場合」という「特異な具体例」を挙げて「感情論」に訴えたのは、多くの国民に対して、得られるリターンは「紛争国から逃れようとしている日本人の救助」であり、リスクは「「紛争国から逃れようとしている日本人が生命の危機に晒される」ことであるという印象を与えるためだったように思います。

リスクとリターンの関係が、このような単純な図式であれば、「紛争国から逃れようとしている日本人を救助、輸送していた米艦が攻撃を受けた場合」、「実力をもって阻止する権利」である集団的自衛権を行使出来るようにすることは賢明な選択だと言えます。

しかし、15日に総理に提出された安保法制懇の報告書では、「我が国が具体的な行動を採ることを可能とするべき」事例として、「米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援」が挙げられています。これは米国に対して、日本が集団的自衛権発動義務を負う可能性を検討すべきだというものです。

こうした事例を含めて、今後与党や国会で検討することになるのだとは思います。しかし、安保法制懇の報告書にしたがって、集団的自衛権を憲法解釈変更によって「紛争国から逃れようとしている日本人を救助、輸送していた米艦が攻撃を受けた場合に、実力をもって阻止する権利」を行使出来るようになれば、得られるリターンは「紛争国から逃れようとしている日本人の救助」であり、背負い込むリスクは「米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援」ということになる可能性があることを見落としてはいけません。

日本は徴兵制がありませんから、直ちにそうなる訳ではありませんが、日本が米国に対して「米国が武力行使を受けた場合の対米支援」という集団的自衛権発動義務を負うことになれば、日本の若者が、米国が世界中で関る戦争に狩り出される可能性が出て来るということです。

個人的には、「紛争国から逃れようとしている日本人の救助」というリターンを得るために、集団的自衛権を持ち出して、集団的自衛権発動義務という形で「日本の若者が、米国が世界中で関る戦争に狩り出される」というリスクを背負い込むのは、「国民の命と暮らしを守る」と力説する総理の主張にそぐわない判断であり、コストパフォーマンス的に合わないものではないかと思います。

こうした過大なリスクを負わずに「紛争国から逃れようとしている日本人の救助」というリターンを得るためには、「個別的自衛権」の拡大解釈をした方が、コストパフォーマンス上、ずっと効率的だと言えるはずです。安倍総理は、「感情論」に訴えることで、集団的自衛権による国民が負う真のリスクを隠したように思えてなりません。

「個別的自衛権の拡大解釈」と「集団的自衛権の憲法解釈変更」。社会が負うコストとリターンを比較した場合、どちらが「国民の命と暮らしを守る」ために適したものなのか、慎重に検討すべきであると思います。

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