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これから4年間、国会は憲法改正論議を凍結し、年齢問題の解決に集中を - 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

国民投票法の改正案が衆議院を通過

 この国会で、憲法改正の手続きを定める国民投票法の改正案が審議されています。改正案は5月9日に衆議院を通過しました。報道によれば、今後の審議は参議院で順調に進む見通しとのことで、6月中旬にも可決、成立するようです。
 今回なぜ、このタイミングで国民投票法の改正案が審議されているのでしょうか? 法改正の最大の意義を一言で申し上げれば、現在、解釈が確定しない状態にある国民投票年齢(憲法改正国民投票に参加できるようになる年齢)を、法律上、確定させることにあります。6月に改正法が施行され、国民投票年齢が確定すれば、いよいよ、現実に国民投票を行うことができるようになります。国民投票年齢の確定が、今後の憲法論議にどのような影響を与えるのか(このまま普通に、議論を加速させてもいいのか?)、法制上、他に検討すべき課題はないのか、いったん立ち止まって冷静に検証すべきタイミングであると思います。

国民投票年齢は、こう変わる

 まず、法改正によって、国民投票年齢が今後どのように推移していくのか。(図1)をご覧ください。

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 2014年5月14日現在、国民投票年齢は確定していません。この理由は、第20回「実は決まっていない、憲法改正国民投票の投票年齢」で一度、解説させていただきました。簡単に申し上げれば、国民投票年齢を18歳又は20歳と確定させる“前提条件としての法整備”(18歳選挙権法など)が行われていないことで、国民投票年齢に関する法律上の疑いが生じているということに尽きます。
 国民投票年齢が確定しない故、国会が憲法改正の発議をしても、その後の国民投票を正常に執行することができません。
 そこで改正法は、18歳か20歳か不明確となっている国民投票年齢について、これをいったん20歳に確定させることにします(期間限定の20歳投票権)。4年間は20歳投票権となり、その後、これを自動的に18歳に引き下げることとする内容になっています。(図1)で示しているように、4年間、国会が何もしなくても、20歳から18歳へと国民投票年齢がストンと落ちることになります。

 今回、国民投票法の改正法案を提案している与野党8党は、上記の4年間のうちに、18歳選挙権の法整備が実現した場合、これと同時に18歳投票権とすることも確認しています。4年間の経過を待たずして、同じ参政権の仲間として、18歳選挙権と18歳投票権が同時に実現されるという仕組みです。(図2)のとおりです。
 18歳選挙権を、2年後の参議院選挙(2016年7月)に間に合わせられるかどうか、政治にはある種の試練が待ち構えています。

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想定したくない、”最悪のケース”

 国民投票年齢は国民投票法が定めていますが、選挙年齢は公職選挙法という別の法律が定めています。
 18歳選挙権を実現する法整備は、国民投票法と睨めっこしているだけではだめで、公職選挙法を改正して、選挙年齢を18歳(以上)とする必要があります。国会のアクションが、別に必要なのです。
 問題は、公職選挙法の改正作業が、今回の法改正とは別スケジュールで行われるということです。あまり想定したくないのですが、今後4年間、国会が18歳選挙権のための法整備をサボってしまうということになると、(図3)のように、国民投票年齢(18歳)と選挙年齢(20歳)が食い違うという事態が起こり得ます。

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 国民投票年齢は自動的に18歳に落ちても、選挙年齢は必要な法改正が行われない限り、20歳のまま移行します。これが、議論をややこしくする原因でもあります。
 この点、選挙は数年に1回必ず行われる一方で、国民投票はめったに行われないのだから、対象年齢が食い違って何が悪いのか、支障はないのではないか、と思われるかもしれません。
 しかし、国民投票の後の国政選挙が重要な意味を持つことを看過できないのです。18歳、19歳の有権者は、国民投票に参加するだけでなく、憲法改正の発議に(賛成|反対)した国会議員を(支持|不支持)すること、憲法改正の後に実行される国政上の新たな重要政策の是非について、(選挙を通じて)賛否の態度を明確に示すことが認められて然るべきなのです。国民投票とは決して、憲法改正案の字面だけを以て承認するかしないかを判断する性格のものではないのです。

 もし、4年後、このような事態になってしまったら…。
 国民投票年齢だけがなぜ18歳なのか? という疑問が、若い世代を中心に蔓延することになります。諸外国の法定年齢にもほとんど例はなく、稀有な制度として不思議がられる(=笑われる)ことになるでしょう。
 これでは、国民投票年齢を確定させ、国民投票が正常に実施できるようにすることだけを目的に、今回の法改正が行われたとの誤解を拡げるだけです。

年齢問題解決のための集中改革期間として

 4年間のうちに見直しが必要となるのは、公職選挙法だけではありません。
 成年年齢を定める民法のほか、少年法の適用対象年齢、さらに地方自治法、児童福祉法、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律など、多数の法律が定める年齢条項も検討の対象となります。 
 それぞれの法律は立法目的(趣旨)が異なり、国民に対する影響の度合いにも差があるため、たとえ年齢を引き下げる法改正を行うにしても、必要な準備・周知期間(改正法が公布されてから、施行されるまでの期間)をそれぞれ適切に定めなければなりません(たとえば、裁判員制度の導入時には、5年間の周知期間が設けられました)。言うまでもなく、その精査と立法作業にはかなりの政治的エネルギーを要します。
 そこで、改正法が施行されてからの4年間(20歳投票権である間)は、憲法改正に向けた準備期間ではなく、「年齢問題の解決のための、集中改革期間」と位置づけるべきです。私の提案に法的な根拠はありませんが、少なくとも4年間は、国会における憲法改正論議を凍結すべきと考えます。
 仮に、与党を中心に、憲法改正発議に向けた動きを加速しようとしても、18歳投票権を必ず実現するという国民投票法の成り立ち(立法経緯)から考えれば、20歳投票権である間に、衆参両院で総議員の3分の2以上のコンセンサスが得られるとは、到底考えられないのです。国会発議を強引に進めても、国民から冷めて見られるだけ、と思います。憲法改正案を慌てて仕立てても、矛盾が様々生じえます。

 ちょうど今日(2014年5月14日)、国民投票法が成立して7年が経過しました。
 法が成立した当時を思い出せば、まさか2014年になっても年齢問題が解決できていないとは、想像もつきませんでした。私としては、やはり「嫌な予感」が脳裏をよぎります。悪夢が現実とならないよう、年齢問題の解決に集中するべく、国会に厳命を下したい思いです。

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