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消費増税実施直後にIMFが表明した110兆円規模の「需要不足社会」~ 蜜月関係に微妙な変化を感じさせる安倍政権と黒田日銀

◆ 日銀に対する政府からの警告

「先進国経済の潜在的な供給力に対して、実際の需要が依然として1.1兆ドル(約110兆円)規模で足りないことが国際通貨基金(IMF)の最新の推計でわかった。景気が回復しているのに、物価がなかなか上がらない世界的な低インフレの主因となっており、各国中央銀行による金融緩和の長期化は避けられない情勢だ」(10日付日本経済新聞 「先進国 需要不足110兆円」)
これまでギリシャ危機などの経済危機に対して「緊縮財政≒有効需要減少」で対応して来たIMFも、ようやく「需要不足経済」の恐ろしさを認識したようです。IMFの推計による1.1兆ドルという需要不足は、世界15位のメキシコ(約1.3兆ドル)と第16位のインドネシア(約1.03兆ドル)1国のGDPに相当するもので、世界全体のGDPの約1.4%に相当する大規模なものです。

こうした「需要不足社会」という認識は正しいものだと思いますが、ついこの間まで日本に対して有効需要を減少させる「消費税率引き上げが必要だ」と繰り返して来たIMFが、日本の消費増税実施直後のこのタイミングで先進国が「需要不足経済」に陥っているとの見解を示し、それを消費増税の旗振り役であった日本を代表する経済紙が1面で報じるというところに、何ともいえない胡散臭さを感じてしまいます。

日本はIMFへの出資比率第2位の国で、4人いる副専務理事のうちの一つは、財務省財務官の天下りポストとなっています。ですから、IMFの日本向け発言は、財務省の意向を反映したものだと理解されています。
「IMF推計では、日本も14年はGDP比で約1.3%となる685億ドルの需要不足。日銀の試算では13年10~12月期に需要不足はほぼ解消したが、需給ギャップの推計には様々な手法がある。内閣府の試算では10~12月期はGDP比で1.6%の需要不足で、IMF推計とほぼ合致する」(同 日本経済新聞)
この記事が、内閣府と日銀で需給ギャップの試算に大きな差があることを紹介した上で、IMFの推計値は内閣府の試算とほぼ合致すると丁寧な説明をしたのは、
「物価上昇率を規定する主たる要因について点検すると、第1に、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスは、雇用誘発効果の大きい国内需要が堅調に推移していることを反映して、労働面を中心に改善を続けており、最近は過去の長期平均並みであるゼロ近傍に達しているとみられる」(5月1日付 日銀「経済・物価情勢の展望(2014年4月)」)
という日銀の見解に、政府側が苛立ちを見せているからだと思われます。

なぜ需給ギャップの推計が重要なのかというと、日銀が、需給ギャップが「ゼロ近傍に達しているとみられる」ことを、追加金融緩和を見送った理由として挙げているからです。ですから、日銀に追加緩和をさせたい勢力からすると、まずは日銀の需給ギャップに対する認識を変えさせる必要があるのです。今回日本を代表する経済紙がIMFの需給ギャップ推計を一面で大きく報じたのは、政府側から日銀に対する警告だと見るのが自然のような気がします。

◆ 「中身の乏しい成長戦略」と「追加緩和」の揃い踏み

「景気が回復しているのに、物価がなかなか上がらない」、従って、「各国中央銀行による金融緩和の長期化は避けられない情勢だ」という論法も、消費者物価が前年比で1.3%しか上昇していない日本でも一段の金融緩和が必要なのは当然のことだということを強調するための論法だと思われます。

こうした主張をするのは、来年の消費増税を予定通り実施するためには、今年いっぱい「景気が回復している」ということを主張し続けられる状況、つまり、「円安・株高」を維持しておく必要があり、そのためには、早めに日銀に追加緩和に踏み切らせなければならないという論理です。

財務省としては、安倍内閣は6月に「中身の乏しい成長戦略」を発表する予定ですから、少なくともそれに合わせる形で、6月12、13日に予定されている日銀金融政策決定会合では追加金融緩和に踏み切れるように外堀を埋めておこうと画策しているのだと思います。これまで政府と日銀は蜜月関係にあるように思われて来ましたが、少なくとも政府側は若干の不満、不安を持ち始めたのかもしれません。

◆ 「アベノミクスの失敗」を隠すために都合の良い「需給ギャップ」

問題は、日銀が
「4 月入り後、個人消費を中心に駆け込み需要の反動がみられていますが、国内需要が総じて堅調に推移するもとで、雇用・所得環境の改善を伴いながら、景気の前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けています」(日銀「総裁記者会見要旨4月30日」)
と明言してしまっていることです。こうした発言を繰り返してきている以上、常識的には、日銀がさらなる追加緩和に踏み切るためには、「景気の前向きな循環メカニズム」が崩れる、あるいは誰もが崩れる可能性が高いと感じるような突発的なことが起こる必要があることになります。

地政学的リスク以外で「景気の前向きな循環メカニズム」が崩れたというためには、消費増税の悪影響が予想以上に大きかったことなどが経済指標で裏付けられる必要があります。しかし、それは同時に、「アベノミクスの失敗」を意味しますから、政府としては避けなければなりません。

「アベノミクスの失敗」を理由とせずに日銀に追加緩和を迫るためには、需給ギャップと金融緩和を結び付けるのが、政府と日銀双方にとって最も傷が付かないやり方なのだと思います。

需給ギャップを追加緩和の理由にすることによって、政府は「アベノミクスの失敗」を隠すことが出来ますし、日銀には、「様々な手法」で需給ギャップを推計し直した結果、過去の日銀の推計値よりも大きい可能性があるという「前向きの弁解」が出来る余地を与えることが出来ます。「推計方法の質的向上」を理由に、「量的・質的緩和の拡大」をするという詭弁です。

◆ 執念深い安倍総理

2006年3月、日銀は当時の小泉内閣の意向を無視し、独断で金融緩和を打ち切りました。この日銀の独断での金融緩和打ち切りが、その後の日本経済の低迷を招いたと信じた、当時長だった安倍総理は、総理就任直後の2013年1月22日に、当時の白川日銀と「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という共同声明を発表し、「物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す」ことを日銀に約束させ、日銀が独断で金融緩和を打ち切れないようにしました。

こうした執念深い安倍総理からすると、黒田日銀が、消費者物価指数(コア)上昇率が前年比で1.3%の段階で「金融緩和の推進」を止めるなど、もっての外のはずです。

10日付の日本を代表する経済紙の1面を飾った「先進国需要不足110兆円」という見出しの記事は、「日本経済の質」などとは関係なく、何が何でも「2%の物価安定目標」を達成するまで金融緩和を推進させるという安倍総理の強い意思を示したものではないかと思います。

もちろんその先にあるものは、「日本経済の質の改善」ではなく、消費増税の予定通り実施で霞が関に恩を売ることで長期政権の環境を整え、時間を要する憲法改正など自らの政治信条の実現を、自らの手で実現させることであることは想像に難くありません。安倍総理の金融緩和に対する執念は、結局は政治信条実現への執念に基づいたものだと言えそうです。

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