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漫画『美味しんぼ』鼻血騒動に見る健康被害より恐ろしい原発最大の問題点

漫画『美味しんぼ』で、福島を訪れた主人公らが鼻血を出す場面があり、双葉町の前町長の井戸川克隆氏が登場し、「私も鼻血が出ます」、「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と発言した描写が問題となっているという。

これについて風評被害だと抗議が殺到。環境省までもが「多発は考えられません」と見解発表。抗議はエスカレートし、ジャーナリストの石井孝明氏がツイッター上で、作者への「リンチ」を呼びかけ、石井氏に非難が殺到するなど、大変な騒ぎとなっている。

もう、これだから原発はダメなんだよ。原発の最大の問題点というのは、誤解を恐れずにいえば、健康被害なんかではなく、国民が賛成・反対真っ二つに分かれて、感情的な論争を繰り返し、いがみあうことだ。

鼻血が出たとか出ないとか、風評被害とかそんなことないとか、国民同士が対立することで、事故を起こしたずさん管理の電力会社や国は高笑い。勝手に国民同士でいがみあってくれれば、自分たちの責任追及は薄れるから、どんどんやれ、バカどもと思っているだろう。

私は反原発映画「シロウオ~原発立地を断念させた町」に監督として携わった。かつて原発計画が持ち上がりながら、住民の反対運動によって阻止した町の人たちにインタビューした。

そこで多くの人から出てきた言葉。それは今まで仲が良かった住民が、原発のせいで賛否真っ二つに分かれ、ああでもないこうでもないといがみあうことで、地域コミュニティがズタズタになり、地域行事や祭りもできないほどの事態にまでなってしまったことだ。

反対派が「いつか必ず事故が起きる。事故が起きたら人が住めなくなる」といえば、賛成派は「日本で事故なんか起きるわけがない。万が一、起きたとしても人が住めなくなるわけなんかない」と反論し、言い争いになる。

でもこの時点でいくら言い争いをしても決着はつかない。なぜならこの当時はまだ福島原発事故が起きていないからだ。こうして実際に福島で事故が起きるまでは、ある意味どちらが正しいかはわからない言い争いを延々することになる。もう泥沼だ。

映画の中で、福島の原発を視察したこともある、和歌山県日高町の役場職員だった志賀政憲さんは、「福島を見て、原発に依存する行政は素晴らしいと思いましたよ。使いきれないぐらい金がもらえるんですから!」と意気揚々と町に帰ってきて、原発計画を推進する立場だった。

しかしその後、住民同士の争いが激化し、賛成派と反対派に分かれて、家族であろうと兄弟でろうと親戚であろうと、原発に対する意見が違えば、結婚式すら行かないという事態を何度も見るにつれて、「このまま原発がきたら、町は二分され、地域コミュニティは崩壊してしまう」と危惧。「もともと原発はなくても仲良くやっていたのだから、原発の話はなかったこととして、町づくりを進める方がよいのではないか」と考え、原発反対を公約に掲げて町長選に立候補し、当選。日高町から原発計画を追い出すことに成功した。

私は反原発映画を作っているような、ゴリゴリの原発反対派だけど、鼻血話が出る度に正直うんざりしている。私が取材した範囲の限りにおいて、福島で鼻血がいっぱい出ている人がいるなんてことを、見たこともないし、聞いたこともない。

いや、何人かからは「福島では鼻血の人が多いらしいよ」という話を聞くことはあるんだけど、「それは自分で見たんですか?」と聞くと「見ていない」と答え、「誰から聞いたんですか?」と聞いても、「いやあちこちでそんな話が出回ってますよ」というだけで、情報源が極めていい加減なのだ。

また私は2012年3月に福島原発20キロ圏内に、ボランティアのスタッフ3人とともに数時間滞在した。
放射線量は低いところでは1マイクロシーベルト/毎時以下のところもあったが、5~10マイクロシーベルト/毎時はざら。さらに福島原発の敷地そばに近づいた時には、40マイクロシーベルト/毎時まで上昇した。

でも私含めて20キロ圏内に数時間いた4人の、誰一人として鼻血なんか出なかったし、倦怠感も疲労感も感じなかったし、頭が痛くなることもなかった。もちろんこの話は私が体験したことであって、他の人が同じようにそうであったかはわからない。でもこれは私が直接経験した間違いのない事実だ。

だから原発そばでも安全だとか、放射線量が高くても安全だというつもりはまったくないが、あまりにも情報源がはっきりしない、というかあまり聞いたことも見たこともない、鼻血話だけがことあるごとに一人歩きしていることは、かえって問題の本質を見誤る。
鼻血が出ようが出まいが、原発事故が起きる前まで、0.05マイクロシーベルト/時しかなかった場所が、0.5とか0.8とか1とか2とかになっているのは、明らかに異常事態であることは変わりない。大気の放射線量に限った話ではなく、土壌だって汚染されている。

また未だに福島原発事故は何の収束もしておらず、汚染水問題など、様々な問題が山積みになっているわけで、鼻血が出ているとか出ていないとか、そんなことで言い争っていることより、間違いなく福島原発では危険な状態のままであり、今度、大きな地震でも起きれば、貴重な税金で除染なんてイカサマをしていることは無駄になり、人が住めなくなる地域は拡大する可能性もある。鼻血論争より重大な問題が間違いなく原発にはある。

低線量被ばくだけを取り上げて、危険だとか危険でないとかいう論争にも、私は正直あまり興味がない。結局これも結果がわかるまでは、どちらが正しかったかはわからないことと、健康が悪化するのは何も原発由来の放射能汚染だけではないからだ。

西日本が安全?中国からのPM2.5は大丈夫なんですか?低線量被ばくで30年後にガンの確率が何%か上がるかもっていうけど、そんなことより、歩きタバコしている人間のクズの副流煙の方が、はるかに危険なんですけどって問題はいいんですか?

そもそも生まれ育った田舎から出たこともない人間が、急に違う場所に移住すれば、ストレスを抱えて、違う病気になってしまうだろう。現に長引く避難生活で「震災関連死」している人は大勢いる。

私が取材した中で、福島から県外に移住できている人の多くは、大学時代に東京にいたことがあるとか、会社員時代、大阪で働いたことがあるとか、別の場所で住むことを経験した人ばかり。ずっと生まれ育った場所しか知らない人間に、放射能汚染だけで移住を迫ったところで、他の場所に移り住んで違う病気にかかるなら本末転倒だ。

移住うんぬんはともかく、鼻血話は、反原発ゴリゴリの私でも正直うんざりする。ただなぜこのような話がことあるごとに出てくるのか。それは放射能が見えない恐怖であり、またわからない危険が多いからだ。だから鼻血話のようなトンデモ話や極端な原発危険論が流布したり、逆にまったく危険性を無視する安全神話がゴリ押しされてしまったりして、賛成派も反対派もホントかウソかもわからない情報に振り回され、感情的な対立が根深くなり、結果、社会に実害を与える。これが原発最大の問題なのだ。

ただ申し訳ないが、原発マネーを優先し、原発を誘致した自治体は、実害だけでなく、風評被害も間違いなく起きることは認識すべきだ。原発誘致してあぶく銭を得る代償と引き換えに、あらゆる風評被害を受ける可能性があることは想定内の事実のはずだ。

映画の中で原発計画を阻止した徳島の漁師の人は、「事故が起きなくても原発そばで採った魚というだけで、いくら検査して安全だったとしても、風評被害で値段が半値になってしまう恐れがある」と、こうした風評被害まで折り込んで原発に反対していた。だから今さら原発のせいで風評被害が~なんていっても手遅れだ。

原発を誘致すれば間違いなく風評被害も伴う。これは原発を誘致した自治体や住民には宿命だ。いくら安全だとか客観的データを出しても意味がない。原発マネーにすがった代償は大きい。

こうして原発というのは、実際に健康被害があるかどうかではなく、国民同士がいがみあうことが最大の弊害。こうした社会的損失は数字には含まれないが、かなり大きな悪影響を及ぼしているように思う。

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