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暗躍する「三池淵組」 金正恩の新しい側近達(2)

 前回のブログで、崔竜海(チェ・リョンヘ)をナンバー2と見るのは過大評価だと指摘した。執筆時(5月2日)において、既に彼は「朝鮮人民軍総政治局長」の任を解かれていたが、翌日(5月3日)の労働新聞ではスーツ姿で紹介される。

 この間、一貫して軍服姿で登場していた崔竜海が、いきなりスーツ姿で登場するというのはなんとも意味深だ。深読みしすぎかもしれないが、その裏には「崔竜海は軍人ではなくあくまでも党人である。今後は軍に影響力を及ぼすことはない」というメッセージにも受け取られる。この日、崔竜海は演説も行ったが、解任理由として囁かれていた「健康不安説」も一応は払拭された。

 今回から、総政治局長ではなく「朝鮮労働党書記」と紹介された崔竜海だが、「国防委員会副委員長」「労働党中央軍事委員会副委員長」まで外されたのかについては不明である。それ如何によっては「失脚」もしくは「降格」が明らかになる。

 いずれにせよ、血筋の良さや金正日や金慶喜と関係が近かったことから権力中枢にいた崔竜海だが、あくまでも「白頭の血統」を補佐する「お飾り」に過ぎず、そもそも張成沢に代わるナンバー2ではなかったというのが筆者なりの見立てである。

 その「崔竜海解任人事」の裏で、急浮上しているのが新しく総政治局長となった黄炳瑞(ファン・ビョンソ)である。一部の韓国メディアやアンテナの鋭い北朝鮮ウォッチャーの中で、この「黄炳瑞」は要注意人物としてマークされていた。なぜなら彼は金正恩の新たな側近グループと言われる「三池淵組」の一人だったからだ。

「三池淵組」とは一体どのような集団なのか?話は昨年11月までに遡る。

 張成沢が無慈悲な粛清をされる直前の11月、金正恩は聖地である白頭山地区三池革命戦跡地を訪れ、白頭山を眺めながら重大な決意、すなわち「張成沢の処刑」を決定したと言われている。

 この現地視察に同行したのは8人。まずはその面子を見てみよう。

(1)金元弘(キム・ウォノン国家安全保衛部長)

(2)金養建(キム・ヤンゴン統一戦線部長)

(3)韓光相(ハン・グァンサン労働党財政経理部)

(4)朴泰成(パク・テソン労働党組織指導部)

(5)黄炳瑞(ファン・ビョンソ労働党組織指導部)

(6)金炳鎬(キム・ビョンホ労働党宣伝扇動部)

(7)ホン・ヨンチル(労働党機械工業部)

(8)馬園春(マ・ウォンチュン労働党財政経理部)

 (1)の金元弘は、北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部」トップであり、張成沢の「処刑執行人」とも言うべき人物だ。
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※北朝鮮一の強面「金元弘」

(2)の金養建は統一戦線部長であり重鎮の一人だ。(3)の韓光相は、朝鮮労働党財政経理部長で、いわば労働党の「金庫番」。(4)〜(8)の5人は労働党副部長であり、実際の労働党業務を取り仕切ることから「三池淵五人組」と呼ばれ、金正恩体制を補佐する「新実勢グループ」と見られていた。

 注目すべきポイントは、この面子に「崔竜海は入っていない」ことだ。彼が張成沢に代わるほどの権力者だったとするなら、この会議に参加していないのはいかにも不自然である。崔竜海は張成沢の処刑に関わっておらず、また張成沢に代わる人物ではないことを三池淵会議は示唆している。

 案の定というべきか、崔竜海の同行回数は2014年に入って激減。それに反比例するかのように同行回数が増え、ついに朝鮮人民軍総政治局長という肩書きまで取って代わった人物こそ「黄炳瑞」である。

 先だって3月、黄炳瑞は党中央組織指導部“第一副部長”(トップは彼を含んで3人)へ昇格し、65才(韓国報道による)にして金慶玉(キム・ギョンオク)、趙然俊(チョ・ヨンジュン)などの元老グループと肩を並べた。さらに、4月26日に、元帥(元帥に次ぐ地位)称号を授与され、5月3日には総政治局長就任が判明するなど、急浮上したのである。

 張成沢処刑については、対立関係にあった朝鮮労働党組織指導部と国家安全保衛部(金元弘)が手を組み暗躍したという説が有力だが、「三池淵会議」から黄炳瑞の急浮上は、一本の線で繋がる。また、黄炳瑞以外では、建築家出身の馬元春の同行回数の多さも目立つ。さらに金元弘や金庫番の韓光相などの人物も、しきりに表舞台に登場している。

 登場回数が際立つ黄炳瑞は、今後、海外からナンバー2と評価されるかもしれないが、重ね重ね繰り返すが、金正恩はナンバー2という存在を認めない。むしろ、彼を含む8人の「三池淵組」が、金正恩を支え、手となり足となり、暗躍していくと思われる。

 三池淵組を軸に体制強化を図る北朝鮮で、当面、金正恩以外に突出した「個人の権力者」が出て来る兆候は見られない。しかし、特定集団が権勢を誇れば早かれ遅かれ反発が生じるのは世の常であり、北朝鮮の歴史は権力闘争の歴史だ。

 張成沢処刑と三池淵組の台頭は、金正恩時代における権力闘争の幕開けとして後世に記録されるかもしれない。

【お知らせ】
5月8日(木)TBS系列「ひるおび」で崔竜海解任の背景など、最新北朝鮮情勢についてスタジオ解説します。

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崔竜海はナンバー2なのか?金正恩の新しい側近達(1)

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