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「自然環境」のみが環境ではない――いまなぜ「都市の環境倫理」を問うのか ‐ 吉永明弘

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人間と文明を否定しない

都市環境について考えることは、人間の営みや文明を肯定することにつながる。これは、環境問題を論じたり、教えたり、学んだりするときには非常に重要なことである。

自分は環境問題を勉強したことで絶望に陥った、という話を何人かから聞いた。彼らがどのようにして絶望から立ち直ったのかは分からないが、確かに環境問題を熱心に調べれば調べるほど、もうどうにもならないのではないか、という気持ちになるというのはよく分かる。私もビル・マッキベン『自然の終焉』(河出書房新社)を読んだ時には暗澹たる気分になった。

また、環境問題は「人間嫌い」「文明嫌い」を引き起こすようなところもある。人間は地球や自然にとって害悪をもたらすだけの存在で(岩明均『寄生獣』(講談社)の市長もそんな感じだ)、文明の歴史は自然破壊の歴史であったとさえ解釈できる(ポンティング『緑の世界史』(朝日選書)などの環境史はそういうふうに歴史を描く)。

しかし人間が自然を豊かにしてきた面もあるし、自然の循環の一部を担ってきたのも確かである。問題は、産業革命以降、人間活動が地球の気候に不可逆的な変化を起こしていることや、人間活動が猛烈なスピードで種の絶滅を引き起こしたこと、それから自然の循環に収まらない人工物(廃棄物)をつくったことなどにあるが、逆に言えば気候変動を緩和し、種の絶滅スピードを遅らせ、人工物(廃棄物)を適切に処理できるのも人間だけなのである(できない廃棄物もあり、それが最も深刻な問題だ)。

時々聞くことがある「人間は絶滅したほうが地球にとってよいのではないか」という発言は、端的に無責任な発言だと思う。

従来の議論を否定しない

都市環境を射程に入れることによって、人間の営みや文明を肯定した上で、環境問題について前向きに取り組むための道が拓かれると思う。ただし、このことは、従来の環境問題研究や環境倫理学を否定するものではない。またそれらをシニカルに捉えているわけでもない。従来の環境問題研究や環境倫理学をふまえつつ、都市問題を射程に入れるべきという主張を端的に示すものとして、イーフー・トゥアンの本の一節を紹介したい。

「環境保護運動の盛り上がりは、われわれが、自分自身の愚かさや貪欲に対して完全に盲目というわけではないということを示している。われわれは、時には、賢明に行動する意志を示してきたのだ。しかしその運動に見られる正義の憤りには、盲点がある。もっとも顕著な盲点は、高度に人の手の加わった世界にも、独自の生態学的な豊かさと美しさがありうるということを認めたがらないという点である」

「私が悲しいのは、自然を保護しようとする情熱をもつと、われわれはどうも厭世的になりがちだからでもある。そして科学技術の進歩や、大規模な創造物、とりわけ都市を、ゆがんだまなざしで見るようになるからなのだ」(イーフー・トゥアン『トポフィリア』(ちくま学芸文庫)日本語版序文より)。

環境倫理のすそ野を広げる

「環境倫理」はまだまだ馴染みのない言葉である。また言葉は知っていても、その射程や目的が十分に理解されているとは限らない。自分には関係がないものとして、あるいは「環境倫理」を自然愛好家やアウトドア派によるお説教のようなものとして受け止めている人もいるかもしれない。しかし、環境および環境問題に関する人間社会の行動規範」である環境倫理は、自然愛好家やアウトドア派だけのものではなく、地球に暮らすもの全員に関わりのあるものである。

とりわけ現代は、地球の人口の半分以上が都市に住む時代である。多くの人にとって身近な環境は都市環境である。したがって、「都市に住んでいるから環境問題は縁遠い」と感じている人がいたら、その人は環境問題を狭く捉えているといえる。都市問題は環境問題である。都市に住んでいる人には、都市の環境に関心を持ち、都市環境の改善に尽力してもらいたい。それが他の地域の環境にとってプラスに作用することも多いのである。

「都市の環境倫理」をテーマ化したのは、環境倫理は人々の身近な環境から構築されるべきであると考えるからである。都市を舞台にすることによって、個々人の身近な環境とのかかわりを見つめ直すなかで、環境に対する規範を、自分に関わりのあるものとして、具体的かつ実現可能な形で議論することができるのではないか。


都市の環境倫理: 持続可能性、都市における自然、アメニティ

著者/訳者:吉永 明弘
出版社:勁草書房( 2014-01-31 )
定価:¥ 2,376
Amazon価格:¥ 2,376
単行本 ( 250 ページ )
ISBN-10 : 4326602600 ISBN-13 : 9784326602605

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吉永明弘(よしなが・あきひろ)

環境倫理学

1976年生まれ。2006年千葉大学大学院社会文化科学研究科修了。現在 江戸川大学社会学部講師。専門は、環境倫理学、公共哲学。著書『都市の環境倫理ーー持続可能性、都市における自然、アメニティ』(勁草書房、2014年)

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