- 2014年04月30日 09:56
GPIF改革、年金生活者にはプラス、マイナス?
このところ、厚生年金などの積立金運用を担当する「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」の運用方針の改革が話題になっている。これまでの国内債中心の運用から、株式などのリスク商品のウェイトを増やそうという方針が、すでにGPIFの運用方針について協議する「有識者会議」で提案されており、その有識者会議に参加していたメンバーの一部がGPIF運用委員会のメンバーにもなっている。
こうしたGPIFの運用方針の転換について、株式市場の関係者は大きな関心を示しているわけだが、年金制度の根幹にかかわる大きなニュースの割には、メディアではあまり注目されていない。周知のように、GPIFは128兆円(2013年末)もの資金を運用する世界最大の年金運用機関であり、国債などの国内債券を中心に運用してきた。
超低金利が続いている日本国債を中心とした運用は、当然ながら大きな成果を上げられず、128兆円もの運用資金をもちながら、これまでの運用成績は残念な結果に終わってきた。18年度から24年度の直近7年間の収益率(運用手数料控除前)は1.50%、13年度から24年度までの13年間でも2.02%にしかならない。
昨年こそ、アベノミクスの恩恵で10.23%の運用成績を残したが、これがなければおそらくマイナスだったかもしない。厚生労働省の試算では、年金財源を維持するためには年4%の運用収益が必要なのだが、2%程度の収益率しか達成できていないために、年金資金は慢性的な財源不足に陥りつつあった。こうした運用下手が、日本の年金制度危機説の背景にあったといえる。
海外の年金基金は7%程度の運用益を確保?
海外の著名な年金基金の多くは、年7~8%という高い運用成績を上げている。たとえば、米国カリフォルニア州職員退職年金基金「カルパース」の運用成績は、過去20年間の平均リターンで年7.8%に達する。その現実だけを見ても、GPIFが変わる必要があることは簡単に推測できる。
仮に、GPIFが年5%の平均リターンを上げていれば、128兆円の保有資産があることを考えると、6.4兆円程度の収益を毎年獲得することになり、20年間で現在の保有資産と同じ額の128兆円を稼ぎ出すことになる。年金の破たん懸念など簡単に吹き飛んでしまうわけだ。
とはいえ、GPIFがカルパースのような高い運用益を出せるかどうかは、かなり疑問だ。海外の年金基金は、日本の年金基金の運用方法と比べれば次元の違う投資戦略をとる。
たとえば、最近になってカナダのオンタリオ州教職員年金基金は、米国の通信衛星会社ローラル・スペース・アンド・コミュニケーションズ傘下のテレサット・ホールディングスの買収に動いているという報道があった。さらに、米国の教職員の退職年金の運用を手掛ける大手金融サービス会社「TIAA-CREF(米教職員保険年金連合会・大学退職武士危機金)」は、運用会社のヌビーン・インベストメントを6370億円で買収している。
こうした海外の年金基金の行動を見据えて、GPIFも積極的に動きはじめた。現在、国内債が6割を占めているポートフォリオを見直し、国内株や外国債券、外国株式などの比率を見直し始めた。実際、わずかではあるが昨年6月にはGPIFの設立(2006年)以降、初めてポートフォリオの比率を変更した。
ブルームバーグの報道によれば、昨年末には物価上昇に対応した物価連動国債を購入するアクティブファンドを設定し、今年の2月末には今後5年間で最大27億ドルの資金を海外インフラに投資すると発表。国内株式の運用委託先も大きく見直し、指数に連動するパッシブ運用もTPOIXだけでなく「JPX日経インデックス400」などを採用。GPIFの運用方針を大きく方向転換を図っている。http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N4DROA6TTDSR01.html
失敗は許されないGPIF運用改革!
さて、問題はGPIFの運用方針の転換が成功するのか、どうかだ。これまでほとんど運用らしい運用をやってこなかったのは明らかで、年金基金として運用のプロフェッショナルが、基金内に何人いのかははなはだ疑問だ。現在、盛んに基金内の人事制度の改定や報酬体系の見直しを実施しつつあるが、どこまで海外の年金基金に匹敵する組織を作ることができるのか。
たとえば、GPIFの理事はほとんどが厚生労働省や日銀からの天下りで、組織的にも厚生労働省の影響を大きく受けている。すでに、OECDがそのガバナンスについて懸念を示しており、「GPIFのガバナンス及び資産運用改善案(2010年11月)」という形で示しているが、OECDも心配するほど、GPIFには問題があるということだ。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xyc3-att/2r9852000000z6iv.pdf
さらに、心配なのはアベノミクスが始まってからGPIFの改革案が急浮上しており、ひょっとしたら安倍政権が日本の株式市場の株価維持のために、つまり長期的な視野に立った改革ではなく、単に128兆円もある資金の一部を株式市場に流したいだけで、抜本的、構造的な変革を遂げないままに、運用方針の見直しをしようとしているのではないか、という疑惑だ。
GPIFが、日本国債の保有額を減らすことでどんな影響があるのか。国内外の債券市場や金利の動向など、十分な検証が必要だ。十分な検証もないまま、国内外の株式投資額を増やし、不動産やインフラに直接投資するファンドの設立などを急げば、どんな結果がもたらされるのかわからない。
要するに、今後人口の3人に一人が高齢者となって、年金暮らしを余儀なくされる現状を考えると、GPIFの運用は失敗を許されない。7%の運用リターンを目指すのであれば、同時に7%程度のマイナスになるリスクも背負うことになる。リスクをきちんとヘッジ(回避)できる投資戦略を立てなければ、悲惨な日本の未来が待っている。



