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「イギリスにおける国家機密と報道の自由について」(最終回) メディア周辺のことを考えてみよう

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 昨年末、「マスコミ倫理懇談会」全国協議会の「メディアと法」研究会で、「イギリスにおける国家機密と報道の自由について」という題で講演をしました。以下は講演内容の記録に若干補足したものです。

質疑応答

質問=(新聞)報道を規制する委員会に関する法案も通っているのになかなかできず、進んでいないというお話でしたが、その中でガーディアンの事件(NSA報道)が発生した。ガーディアンの事件とこれと絡んでくるのではないかと思います。ガーディアンに対して世論の反発が非常に強く、他のメディアもガーディアンには賛成していないということになれば、すんなり委員会も実現しそうな感じがしますが、いかがでしょうか。また、今回の件でガーディアンの部数は減らなかったのでしょうか。

小林=今回のガーディアンの報道を通じて、規制機関の立ち上げがより容易になるかというと、そういう感じでもありません。

 この新しい規制・監督組織は自主監督規制組織ですので、各新聞社がそこに入れば形としてなす感じになりますが、相変わらず各新聞社がばらばらで意見がまとまらない状態です。規制組織が立ち上がらない一番大きな理由は、各新聞社の間に大きな溝があるからです。

 携帯電話の盗聴を行った新聞を発行していたのが、メディア王と言われるルパート・マードックが所有しているNewsUKという会社です。NewsUKは、イギリスで最も売れている日刊紙の1つ、サンを発行しており、ガーディアンやファイナンシャル・タイムズなどと全然違うスタンスをとっています。相変わらず、一般人や著名人のプライバシーを侵害するような報道を続けています。新聞社間が敵対関係であるために、みんなで頑張ってこの組織に入って、報道被害をつくらないようにしようということにはなりにくい。

 本音としては、国会にしろ、国民にしろ、ガーディアンにしろ、多くの人が新しい新聞の規制組織は新聞業界とは独立してあるべきだと感じていると思います。ところが、大手のNewsUKの人やまた別の大衆紙デイリー・メールを発行する新聞社は自分たちの息がかかった、自分たちの意見が通る組織にしたい。PCCを少し変えたような団体を来年の5月までにつくろうとしているのですけれども、そこには、例えば委員会のメンバーに新聞社にいた人を入れることを望んでいる。ところが、政府が成立させたがっている規制組織や国民が望んでいるのは、本当に新聞業界から独立した組織を期待していますので、意見が合わないような感じです。

 部数は、ガーディアンだけでなくてほかの新聞も全部減っています。その減り方がかなり大きい。1年前と比べると、大抵10%は減っています。毎月、日本のABC協会に相当する組織が数字を出すのですが、前年比で数%から10%ぐらい減っており、非常に危機的な状態です。ただ、その一方で、ウェブサイトの訪問数やユニークユーザー数は毎月増えております。

 ガーディアンに関しては、いまのところ、ウェブサイト上の記事を全部無料で出していますので、それを有料にしたほうが良いのではないかという声もたくさんあります。

 ガーディアンについては、確かにイギリスの中では社説でNSA報道を支持する新聞は少ないですが、質の高いジャーナリズムを提供している新聞として尊敬されている感じはあります。特にアメリカで高い評価を受けていると聞いています。ガーディアンのアメリカ版というウェブサイトもつくっていますが、そこに読みに来る人が非常に多いのです。

 ただ、NSA報道の結果、部数が増えている可能性もあります。1面にスノーデンさんの顔写真が大きく載ったりすると買う人が多くなる。イギリスでは店頭売りが多いので、紙の部数が伸びている可能性はあると思います。

質問=イギリスの諜報組織、特に通信傍受専門組織のGCHQの話が出ましたが、これはアメリカのNSAと緊密な連携をとって、英語圏の5か国のネットワークの中で、相互に情報をやりとりしているのではないかということはわかります。TPPについても、環太平洋ではアメリカ、カナダ、それからシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドという、いわゆる英語圏の中における情報のやりとりがかなり密に行われているとすれば、日本が置かれている状況について教えていただけますでしょうか。

小林=ファイブアイズの5カ国の中で互いにスパイ行為を行わないという取り決めがあるそうです。

 メルケル独首相の携帯電話からNSAが情報収集していましたが、5か国の間ではそういうことをしていない。アメリカの広報官が、メルケルさんの携帯電話のNSAによる盗聴について聞かれたときに、「現在はしていないし、これからもしない」というふうに答えたというのが報道されていましたけれども、結局、過去にしていたということは否定していない。ところが、イギリスのキャメロン首相については、携帯電話については過去も現在もこれからも盗聴することはないというふうに言っていました。

 GCHQがどれほどNSAに協力しているかですが、ガーディアンによりますと、NSAがGCHQに資金を出して、諜報活動などをやってもらっているそうです。

 03年に、日曜紙のオブザーバー紙も具体例を報道しています。この年、イラク戦争がありましたね。アメリカやイギリスは、国連でイラクへの武力行使を可能にする決議案が採択されるよう、奔走していました。このとき、NSAの高官がGCHQに指令を出したメールがあったそうです。そのメールには、GCHQに対して、当時常任理事国であった複数の国の事務所から情報収集をしたり、盗聴をするよう依頼していました。これをオブザーバー紙にリークしたのがGCHQに勤めていたイギリス人女性でした。女性は辞任を余儀なくされました。

 実はメルケルさんの携帯電話のNSAによる盗聴が発覚したときに、欧州の首脳陣とアメリカとの間で自由貿易、いわゆるTPPのような交渉があったのですけれども、その中に、互いに対する諜報活動はしないようにするという項目を入れようという動きがあったようです。シュピーゲルというドイツの雑誌が書いているのですが、キャメロン首相の賛同が得られなかったようです。

 いざというときにイギリスはアメリカの肩を持つ。EUといいましても、イギリスはドイツ、フランスとは隔たりがあるわけです。

 ただ、もちろんドイツとかフランスとか、そういう主要国、あるいはブラジルもそうですけれども、ほかの国の諜報機関がNSAから情報をもらっていないわけではなくて、いろんな諜報情報の交換があるわけです。

 特に、メルケルさんの携帯電話の盗聴行為が発覚したとき、同時にニューヨーク・タイムズやガーディアンが、実はNSAは、フランス、イタリア、スペインの数百万人単位の市民からいろいろな情報を収集していると報じました。それに対して2、3日後にNSAのアレクサンダー長官は、NSAが実際にフランスやイタリアの国民から直接情報を収集しているわけではなく、それぞれの国の諜報機関が集めた情報をもらっているだけであるというような発言もしていました。

 ブラジルでもどこでも表向きは最初怒っていました。でも、実際には互いに情報をもらっていて、ドイツもそうだった。

 シュピーゲルの記事によりますと、ドイツもかなり怒ったものの、実際は、ドイツにも諜報機関があるわけで、自分たち自身ももっと諜報の範囲を広げたいと思っている。NSA報道があったのは6月の上旬でしたが、6月の末ぐらいにはオバマさんがドイツに来ることになっていました。

 ドイツ市民の中では、反オバマの運動や抗議があったようですけれども、政府はそれをなだめるかのような行動をとってきた。そして「オバマ氏はドイツ市民には諜報活動をしていないと言っている」と発表することで、ドイツ市民の中に沸き起こったアメリカ政府あるいはアメリカのNSAに対する不満感、不安感をおさめるような、なだめるようなことをしてきました。

 ですので、10月にメルケルさんの携帯電話が盗聴されていたということが発覚したとき、ドイツ市民としては非常に裏切られたような形になってしまった。メルケルさんは携帯電話の事件発覚、お互いスパイ行為をしないといったことを交渉しに高官をアメリカに派遣しました。でも、いまのところそれは形にはなっておらず、シュピーゲルによりますと、落胆して帰ってきたとのことでした。

質問=ありがとうございました。私は第2次世界大戦に関する取材のためにナショナルアーカイブスにずっと通ったことがあるのですが、イギリスの諜報機関は日本の大島大使が日本に打電した内容をキャッチしていました。日本の南部仏印進駐が始まったときにも、情報をアメリカに流した。当時、アメリカのコーデル・ハルという長官が対日戦線の引き締めをやっていましたが、イギリスがアメリカに対して解読した暗号の内容を提供していたこともかなり大きい。結局は真珠湾も解読されていたのではないかと思い、調べてみましたが、遅くともミッドウェーの前にはもう確実に全部解読したものが渡っていて、日本は大敗した。その流れが戦後にも続いているということが少しわかったと思います。

小林=そうですね。戦時中の協力体制があって、46年から正式な関係になったというふうに聞いていますので、ずうっと続いているということですね。

司会=イギリスの階級社会についてですが、いわゆる情報の質というのは、地位や身分によって差があるということだと思いますが、日本人など有色人種やゲルマンに対しては、いまだに警戒感があり、インナーサークルには入れないということでしょうか

小林=そういう面もあるのかも分かりません。

 ですけれども、英米人の知識層の考え方というのは、あくまでもイギリスやアメリカの国の中で培った一定の価値観でしかなく、何か自分たちより劣っている人種や国があるというような考え方より、自分たちの考えの枠の外で考えることができないのだと思います。

 ただ最近、ここ数十年のイギリスの歴史だけを見ますと、人種や性別、社会的立場で差別してはいけないという意識が強くなっており、法律でも差別が禁止されていますので、非常に皆さん敏感です。

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