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モバイルを駆使して、アメリカンコミックを窮地から解放したECサイト「ComiXology」

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出版不況の中にあっても、「若者の活字離れ」現象に影響されない漫画は強いと思われてきた。しかし近年、その漫画にも、危機説が浮上している。この記事によれば、コミックと漫画雑誌を合わせた全体の売上は、1995年の5864億円をピークに、その後は減少傾向に転じ、2011年には3903億円まで落ち込んだ。

漫画市場の縮小の原因としてよく指摘されるのはスマートフォンなどの普及による娯楽の多様化である。確かに最近は、電車の中で漫画雑誌に読みふけっている大学生やサラリーマンの姿をめっきり見かけなくなった。みんな携帯電話をいじっている。

一方、『バットマン』や『スパイダーマン』に代表されるアメリカンコミック(アメコミ)は、スマートフォン登場以前に衰退していた。米国のコンビニエンスストアやドラッグストアでも、ゴシップ雑誌は置いていても、コミックブックを置く店はない。扱っているのは、アメリカとカナダ合わせて約2500軒の専門店だけという状況だ。

米国のコミックブックは一部のオタクと将来に価値が出ることを当て込んで蒐集する投機目的のコレクターのためのニッチなアイテムへと変質し、一般の子供や大人が楽しむ読み物ではとっくになくなっていたのだ。

そんなアメコミ市場であれば、スマートフォンの登場でとどめを刺されたかと思いきや、『Crain's』の記事によれば、2012年に、コミックブック専門店の市場規模は6%拡大して680万ドル(約680億円)となり、2013年の売上も8月までで9%の増加を示していた。

この人気復活を牽引しているのは、「ComiXology」というECサイトである。同サイトはコミックをモバイル機器で楽しむためのアプリをリリースすることで、コミックの読者層を拡大してきた。その結果、デジタル版で作品に触れた読者がファンになり、印刷媒体のコミックブックも購入するという現象が起きているのだ。日本の漫画とは逆に、アメコミはモバイルと円満な関係にあるらしい。

この4月、同サイトがAmazonの傘下に入ったことが発表され、ファンに衝撃を与えたが、Amazonの介入を受けることなく、独立した子会社としてこれまでどおり運営を続けるという方針が発表されて、ひとまず衝撃も落ち着いた。

では、何かと注目されるこのサイトを覗いてみよう。

コレクションを手放そうと決意したことから見つけたニッチ

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ComiXologyの創設者David Steinberger(上写真、以下スタインバーガー)氏は、ケンタッキー州で過ごした高校時代、コミックブックの蒐集に熱中した。

しかし、声楽家になることを志して音楽の名門ジュリアード大学に入学した後、その趣味からほぼ完全に足を洗う。実家から出たので経済的に余裕がなくなったことに加え、1990年代に入ってからのアメコミの方向性を見ていて、興味を失ったためだ。

当時のアメコミの出版業界は、1991年に発表された『X-Men』が空前の大ヒットを記録し、好況に浮かれていた。この頃から、表紙にエンボス加工やホログラムを施したコミックブックが数多く出版されるようになる。

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消費者の関心を引くと同時に値段を吊り上げることを目論んだ、バブル期にありがちな短絡思考によるギミックである。気に入った作品のシリーズは全冊そろえないと気がすまないオタクを狙って、人気キャラクターをいくつものシリーズに登場させることも流行し、内容は水増しされ、薄くなっていった。

スタインバーガー氏と同様、この方向についていけなくなったファンが離れていき、売上は徐々に減少。2000年代半ばになると、アメコミ市場はジリ貧となる。

その間、スタインバーガー氏はジュリアード大を好成績で卒業したものの、練習嫌いだったため、声楽家は自分には向かないとあっさり方向転換。ニューヨーク大学のスターンビジネススクールに入学しなおして、経営学を学ぶ。

ビジネススクールに通いながら、投資銀行で働き、結婚もしたある日、両親から実家に置き去りにしてあったアメコミのコレクションを引き取るようにと通告され、ケンタッキーまで取りに出かけた。しかし持ち帰ったダンボール箱に妻の冷ややかな視線を感じ、処分することを約束する。2006年後半のことだ。

売れば、いくらかの収入になると思い、カタログを作成するためのソフトウェアを探してみた。ところがいくら探しても見つからない。あらゆるマスメディアがデジタル化している時代だ。その種のソフトウェアはとっくにあるものと思っていただけに驚きが大きかった。しかも印刷されたコミックブックが入手しづらくなっているのに、Amazonを見ても、デジタル版のコミックは出回っていない。

「コミックブックの世界はテクノロジーの進化から完全に取り残されているんだ」

これはビジネスチャンス! スティーブ・ジョブズがiTunesで音楽の世界に革命を起こしたのと同じように、コミックブックをどこにいても簡単に楽しめるようにできれば、読者層も広がるだろう......

こう考えた彼はビジネススクールの同級生2人を誘い、翌2007年にComiXologyを創設。同年7月にサイトをロンチした。

「コミックブック版iTunes」

開設後、最初の2年間、ComiXologyは新作の発売を予告し、専門店で購入予約できるようにするコミュニティサイトとして運営され、アメコミファン、専門店ならびにコミックブックの出版社と良好な関係を築いた。

2009年7月、インディ系出版社からの協力を得て、当初からの計画であったアメコミを読むためのiPhone用アプリをリリースすると、これがたちまちのうちに大ヒットとなる。1年間でダウンロードされた回数は5000万回にも到達し、「コミックブック版iTunes」というニックネームが付いた。

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このアプリの最大の特長は原画を尊重しながら、iPhoneの画面で読みやすくなるように工夫を施したことにある。1ページ全体を表示する代わりに、下の画像の右のように、1コマずつ表示するように切り替えられるのだ。小さな画面でも読みやすく、ストーリーも追いやすい。

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(David Gallaher、Steve Ellis作『Box 13』)

次いで2010年4月にリリースされたiPadのアプリでも、読みはじめのコマを指定すると、そのコマから1コマずつ読み進められる。どのように表示されるか興味がある方は、次の動画を再生してご覧いただきたい。

現在では、AmazonのKindleをはじめ、アンドロイド端末にも対応し、表示機能も増強された。ほとんどの作品は0.99ドル~4.99ドル(約100円~500円)で販売されている。ダウンロードした作品はクラウドで保管されるため、1つの機器で購入すれば、そのユーザーのもつ他の機器でもその作品を楽しめる。

アプリをリリースした当初はインディの出版社の作品だけを扱っていたが、翌年には、DC Comics社やMarvel社などの大手出版社とも提携し、有名タイトルが続々と加わった。現在では、同サイトでダウンロードできるコミックとグラフィックノベルは合計4万タイトルを超えている。

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ComiXologyの顧客には、このアプリをきっかけにコミックに興味をもった人たちも多いため、ECサイトでもモバイルサイトでも、「新作」「人気作」「セール中」「ジャンル別」「作家別」「出版社別」など、さまざまな基準で検索できるようにしてあり、作品ごとに簡単な説明や読者によるレビューも付けて、初心者でも作品を選びやすいよう配慮している。

シリーズ物の場合、「Subscribe to Series(このシリーズを購読)」を申し込んでおくと、そのシリーズの新しい号がリリースされるたびにメールで通知される。アメコミのヒーローはサザエさん一家と同じく、永遠に生き続けるので、このオプションを申し込むと、同サイトとはとても長い付き合いになるだろう。

また、「FREE COMICS」のページに掲載されている作品は無料でダウンロードできる。

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ここで提供されている作品の多くは人気シリーズの1作目なので、無料に引かれて読んだら最後、ずっと購読するというパターンにハメようという魂胆なのは見え見えだが、それが分かっていてもつい引っかかりそうだ。

テレビ化された『The Walking Dead(ウォーキング・デッド)』も1作目が無料で提供されている。最初にテレビドラマを見た後、その原作がコミックだと知って、コミックに初めて興味をもった読者も多く、アメコミのファン層を広げるのに貢献している作品だ。

投資家のGus Lubin氏は、「昨夜、生まれて初めてコミックの大人買いをした。『ウォーキング・デッド』シリーズの103号から120号までをまとめて買ったよ。このシリーズは面白いし、ComiXologyのアプリを使うと購入も読むのも簡単なので、買うのを止められない」と告白している

印刷版のコレクションをするのと比べ、場所を取らないことも、購買意欲をそそるポイントになっている。

作家による自己出版もサポート

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同サイトでは、昨年3月に「SUBMIT」というページを設け、作家個人からの作品の投稿を受け付けはじめた。内容を審査した上、合格と判定した作品をデジタル化し、同サイトで販売する。売上が発生した場合に限り、作家から売上の50%を徴収するシステムだ。

出版社を介さずに、自力で作品を出版している作家の多くは、「どうすれば自分の作品の販路を広げられるか」という問題に悩んでいる。ComiXologyがはじめたこのシステムは、その悩みの解決策になり得るものだ。

これまでは作家自身のウェブサイトを通じて販売する以外では、コミックのコンベンションで販売するか、地元の専門店の店主とコネをつくって置いてもらうぐらいしか自作を配布する手段がなかった。

しかし作品がデジタル化されて、ComiXologyのサイトで扱われることによって、その潜在顧客層が作家自身が移動できる限られた地域から、国境を越えて広がる可能性が出てきたのだ。

また、これまでの紙媒体での販売では、たまたま批評家の目に留まり、絶賛されても、印刷部数が少なく、すぐに在庫切れになることもあったが、デジタル版ならば、その心配も印刷費用の負担も要らない。

こうした点も作家にとって好ましいため、ComiXologyには、このページを通じて膨大な数の作品が寄せられ、この1年間で、出版された作品は1000冊を超えた。

ComiXologyでは、この中から100冊をまとめて10ドル(約1000円)で販売する記念企画も実施して、作家を応援している。

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コンテンツを盛る器にも工夫の余地がある

ComiXologyの登場は新しい読者層を開拓したが、それと並行して、作家側の意識や作風にも変化を及ぼしている。ComiXologyのアプリを使うと、画像の特定部分を拡大表示することもできるため、以前より、どのコマも細部まで丁寧に描くように心がける作家が増えたのだそうだ。

プラットフォーム側の工夫次第で、コンテンツ作成者の作品づくりにも良い影響を及ぼすことができる。これは双方の関係を強化し、競合するプラットフォームと差別化できる「見えにくい強み」だろう。

強みが見えにくいというのはそのものだけでは評価されにくいが、競争優位性を維持しやすく、競合を出し抜ける力を持つ。Amazonも、類似サービスを作らずに買収に踏み切ったのはこういった部分が影響しているのではないだろうか。

ちなみに、昨年10月の報道によれば、日本の漫画作品についても、ComiXologyは版権を取得したと発表している。記事を読む限り、同サイトを通じて販売される漫画はフランス語版に限られるようだが、これからどう展開していくのかも興味を誘われる。

一方、日本においても当然同様のサービスがある。マンガボックスはその代表格だろう。同サービスは提供元DeNAのお家芸でもあるゲームを絡めた戦略を打ち出しており、ユーザーとの親和性も高そうだ。健全でゲーム性の高い作品がリリースするなら、成功の確率は相当高い。世界一の漫画大国として、この分野のトップは譲れない。期待せずにはいられない。

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