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本を読むよりも重んじられることが、日本にはある

読書時間ゼロ、大学生の4割 「暇ならスマホ」(朝日新聞)

 1日の読書時間が「ゼロ」という大学生が4割を超えた。全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)の調査で明らかになった。1カ月の本の平均購入費も過去最低だった。読書よりも、インターネットやゲームに熱中する学生が多いという。

 独協大学経済学部2年の男子学生(19)は「本は月に1冊読むかどうか」と話す。「大学生になって好きなことができるようになった。その中で読書の優先順位は高くない」

 暇があれば、スマートフォンを使うという。通学時間や授業の空き時間に、スマホでニュースサイトをみたり、友達と情報交換したりする。「ライン」「ツイッター」「フェイスブック」「インスタグラム」……。常に複数の交流サイト(SNS)で知人らの最新情報をチェックしている。

 この手のニュースは定期的に出てくるわけですが、率直に言って「だからどうなの?」と思います。私が子供の頃は、本なんか読まずに外に出て遊びなさいと教えられたものです。ゆとり世代だの何だのと、下らないレッテル作りに勤しむ人も多いですけれど、敢えて言葉を作るなら昨今の学生は「下放世代」とかどうでしょうかね。部屋にこもって読書に励むより、外に出て友達を作りコミュニケーションを深める、そういう志向が強いわけですし、そういう人を企業だって好んで採用しているはずです。

 読書よりも、インターネットやゲームに熱中する学生が多い――そう伝えられる一方で、その後に「実例」として出てくる人が語るのはニュースサイトの他に「ライン」「ツイッター」「フェイスブック」「インスタグラム」と交流サイトばかりでゲームの影は窺えません。ソーシャル系の伸長とは裏腹に従来のゲーム市場は衰退傾向にあるのですが、朝日新聞の記者はその辺をご存じないのでしょうか。むしろ私には、読者はおろかインターネットやゲーム「よりも」交流サイトに張り付いてコミュニケーションに励む学生が増えているように見えます。

参考、算数ができなくても就職はできますし

 新入社員の算数の能力が低いと嘆いてみせる記事もあれば、そんな中ですら「企業が採用の際に重視する能力は『コミュニケーション』がトップの87%。一方、学生に低下を感じるのもコミュニケーションが59%と最も多かった。」などと記されています。端的に言えば、日本で就職するなら勉強なんてできなくても良いのです。もちろんネームバリューのある大学を卒業することは重要ですが、そこで何を学ぶか、いかに学ぶかは問われません。日本の会社では、必要とされないことなのです。

 どこの国でも、純粋に勉強がしたくて大学に進む人は、そう多くないと思います。大学に進んだ方が将来的な就業機会など可能性が広まるからと曖昧な気持ちで、あるいは明確な目的意識を持つ人でも少なからぬ人は「○○になるため」と就職を視野に入れているのではないでしょうか。そこで大学で何を学んだかを採用側(企業)が問うような文化圏では、当然ながら学生は己の目的を果たすために行動します。一方で評価するのは大学の名前とコミュニケーション能力である場合――就職のためという目的意識を高く持ち将来設計も確かな人物がどのような学生生活を送るか、それは考えるまでもないことです。

 趣味は読書です、というのはあんまりウケがよろしくないと昔から言われます。京都大学総長の松本紘は「受験勉強ばかりでなく、高校時代にやっておくべきこと、例えば音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤とか、幅広い経験をしてきた人に入試のバリアを少し下げる」との構想を語りましたが、要するに日本社会では勉強することよりも高く評価されるものがあるわけです。勉強したくて大学に来るような一部の好き者は別として、社会に出た後のことまで視野に入れた意識の高い学生ほど、勉強以上に日本社会で求められるものに合わせようとするのではないでしょうかね。

 ヨソの国はともかく日本では統計上、年齢が上がるにつれ読書量が減っていくものです。普通の日本人は、勉強も読書も年を取って「卒業」してしまうものなのでしょう。ある意味で、本を読まない大学生ってのは、昔の夢見がちな大学生よりもずっと「大人」で現実志向が強いのではないかという気もします。若者が夢を見ないのは寂しい話かも知れませんが、何せ福島なり外国人なりへの偏見を煽り立てるのに熱心な妄想家ほど読書量が多くて、そういう人を「優良顧客」としてトンデモ本を目立つところに平積みする本屋も大いに目立つくらいですし。

 本好きの自分にしてみれば、読書とは良いものだと言いたいところですけれど、ただ本を読みさえすれば何かがどうにかなるというものでもないと思います。何の価値もない本もあれば、誤解や風説を広めるばかりの本もある、本を読めば読むほどおかしくなっていく人だっていくらでもいることでしょう。結局は本人の心掛け次第です。そもそも読書から得られた「何か」が評価される世の中なら話は違うのかも知れませんが、そうでない以上は学生が本を読まなくなった云々と嘆いても詮無いことです。

追記、

 例えば先の東京都知事選では、若年層の田母神支持率が高かった――より正しく言えば「選挙に足を運んだ若者の」田母神支持率が高かった――わけです。しかし、若年層の投票率は相変わらず低いままでした。果たして選挙に行かない若者には、田母神支持者は多かったのでしょうか? むしろ若年層でも投票しなかった人は、他の世代とあまり違いがなかったのではという気もします。選挙には必ず行くのが正しいと信じられがちですけれど、投票に積極的な若者は、そうでない若者よりも良心的であると言えるでしょうか。読書にしても然り、本屋で売れている本を鑑みれば尚更のこと、よく本を読む人よりもむしろ本を読まない人の方がマトモなのかも知れないと感じないでもありません。

 自分は概ね読書家の部類に入りますが、読書家でいられたのは自分の趣味を第一優先で生きてきたからです。大学の同期が就職活動に全力で取り組む中、自分は趣味の読書や趣味の勉強に励んできましたが、たぶん人生を真面目に考えていたのは、学業を捨てて就職を第一優先にした人達の方であって、趣味に走った私の方ではないでしょう。推測するに、本をよく読む学生よりも本を読まない学生の方が就職実績は芳しいのではないか、大学卒業後のキャリアでも成功を収めているのは――少なくとも国内ので就職である限り――本を読まない学生の方ではないかと、そんな気がします。本は、趣味で読むものです。

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