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大文字山が縮んで見えた

 年に一度、小学校の窓から見える山に登りました。標高466m。登山というほどの苦行ではなく、ミニ遠足です。山道の木漏れ日、枝の先にアケビの実をみつけたりしてはしゃぎつつ、ほどなく行くと、階段のような床木が続き始めます。

 それぞれの上には年に一度、ツクツクボウシが鳴き始め、夏休みの宿題が気になり始めたころの晩、薪が置かれ火がくべられる。

 大文字山といいます。
 二学年下にいた前原誠司さんも登ったことでしょう。
 そこから北を望むと、妙と法の字が見えます。そのふもとには5歳下の妹が通う保育園があり、ぼくはよく自転車で送り迎えをしていました。

 それらを含む五山の送り火、今年はいつになく、山が縮んで見えました。
 「申し訳ない。」

 そうつぶやいているように見えました。
 今年の送り火は大揺れでした。地元だけでなく、全国の耳目を集めました。被災地の薪を焚こうとしたらセシウムが検出され、判断が二転三転、残念ながら結局、焚かれず終いとなったものです。

 誰も悪いひとはいません。
 善意が善意と交錯し、善意どうしがもつれあい、その結果、被災地の薪が焚かれなかったのです。

 陸前高田の薪に家族への思いや復興への願いをつづって燃やそうと発案したひとも、400本の薪に字を書いたひとたちも、「放射性物質は大丈夫か」と保存会や京都市に不安を表明したひとも、それを受けて中止を決めた地元保存会も、悪くない。

 中止をめぐり京都市を非難したひとたちも、それを受け新たな薪500本を持ち込むことを打診した京都市長も、協議を重ね受け入れを決めた保存会も、そしてその薪の表皮から放射性セシウムが検出されたため結局、断念することにした京都市も、悪くはない。

 では問題は何か。
 検出された放射性セシウム1キロあたり1130ベクレルという数値は、「干し昆布は2000Bq/kgで、すでにこの薪の表皮よりも多量の放射性物質を含んでいる」(藤沢数希さん:http://news.livedoor.com/article/detail/5782382/)「仮に表皮を1キロ食べ、全て体に吸収されたとしても取るに足らない線量」(丹羽太貫・京都大名誉教授(放射線生物学):http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110813ddm001040109000c.html)とあるように、微量であるにもかかわらず、「検出された」ということで中止判断がなされました。「市が専門家に問い合わせたところ、「国の基準がない以上、安全という見解は出せない」との回答だった」といいます。

 科学的な基準や判断の物差しがないわけです。では国が「薪をどのくらい焚いたら安全か」なんて基準を作ればいいのか。いや、国はそんなにコト細かに作りますまい。いろんな事象でコト細かく規則など作られたら窮屈で困る。だけど国民には、いや京都市のような大きな自治体でさえ、それを判断する知識と覚悟がありません。

 それは、「こうだ」と言ってもらえる専門家の層が薄く、いてもきちんと配備されていない、ということでしょう。原発問題に限らず、ジェネラリストはごまんといます。キャリア官僚が典型です。ぼくも現役時代はいかに有能なジェネラリストになるか腕を磨いていました。でも、高度な知識を備えた専門家が少なく、しかるべく処遇されていない。Ph.Dホルダーがバイトで食いつないでいる。だから専門家に頼りたい側も、いざというとき頼れる相手にたどりつけない。

 なにも日本ですべてを調達する必要はありません。世界中から専門家を呼び寄せて頼る、その気構えが重要です。
 この「専門家不足」が第一の問題。
 そして、第二の、より大きな問題は、次回に話します。
 
 (つづく)

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