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尖閣諸島:「日米安保第5条適用対象」と「日米安保第5条発動」のスキマ

来日中のオバマ大統領が、尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用対象であることを明言しました。
「尖閣に安保適用」大統領明言=集団自衛権容認も支持-日米首脳会談(2014/4/24 時事通信)
安倍晋三首相は24日午前、オバマ米大統領と東京・元赤坂の迎賓館で約1時間40分会談した。アジア太平洋の平和と繁栄に貢献するため、日米同盟が主導的役割を果たすことを確認。この後に発表される共同声明に、中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島について明記されることになり、大統領は記者会見で「日米安保条約第5条の適用対象となる」と、米国が対日防衛義務を負うことを表明した。大統領が尖閣への安保条約適用を明言したのは初めて。
これまでにも米政府閣僚級から同様の発言は繰り返されてきましたし、2012年末には米国防権限法で尖閣諸島が日米安保条約第5条に基づく責任を再確認すると宣言する条項が明記されており、すでに尖閣諸島における日米安保不機能論は一蹴されてはいました。

今回のオバマ大統領も従来の米政府の方針を踏まえたものではありますが、現役大統領による尖閣諸島の日本の施政権確認と日米安保第5条適用が明言され、日米両首脳による共同声明にこれらが盛り込まれることの意味は大変重いものです。

と同時に、「尖閣諸島は日米安保第5条適用対象」という言葉と「尖閣有事で日米安保第5条が発動する」という言葉の間に、若干のスキマがある点には注意しておきたいところです。


不正規侵攻のシナリオ

条約が発動されるためには条件があります。その条件次第で米国は動かない(or 動けない)事態も当然ありえます。この点を佐瀬昌盛防衛大学校名誉教授が警告しておられます。
【正論】防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛 「5条適用」明言を誤解するな (2010/9/30 産経新聞一部抜粋)
…ゆえに尖閣諸島と周辺領海は第5条適用の対象領域たり得る。が、第5条発動要件は、この領域での日米いずれかに対する外部からの「武力攻撃」(アームド・アタック)の存在である。それがない限り、この領域でのわが国の統治がいかに危殆(きたい)に瀕(ひん)しようと、第5条は発動されない。

外部勢力としては、直接に「武力攻撃」に訴えず、この領域を事実上、非日本領域化してしまうシナリオが描けないわけではないのだ。わけても尖閣領域が現状の無防備状態を続けている以上は。過般の尖閣での事件はこのシナリオの試行である可能性が高い。

米国が第5条を発動する事態では、日本が自国領防衛の対処行動を取っていなければならない。尖閣の場合には、生じ得る「武力攻撃」は局地的だから、侵略排除の反撃も、均衡性の原則から局地的である。必要なのは局地的対処能力なのだ。

だが、尖閣にはそれがない。一般にわが国の離島防衛態勢は貧弱、劣悪である。その点に頬被(ほおかぶ)りして尖閣有事の際、米国に第5条発動を期待するのは虫が良すぎる。忌憚(きたん)なく言うと、米国の「尖閣は第5条の適用対象」という保証と実際の「第5条発動」とは必ずしも同じではない。間にかなりの隙間(すきま)がある可能性がある。
では、日米安全保障条約第5条を見てみましょう。
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約 第5条 (外務省)
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない(注:強調は筆者)。
佐瀬名誉教授も指摘されているとおり、尖閣諸島への侵攻に対して日米安保条約が発動し、米軍が自衛隊とともに行動するためには、「武力攻撃」があることが前提条件となります。この前提条件を満たす限りおいては、米国が日本を支援することは間違いないのですが、尖閣諸島を奪うべく来襲する中国人民解放軍が白昼堂々と五星紅旗を掲げてやってくるわけではありません。むしろ、非武力による不正規侵攻という形をとるのではないか、と佐瀬名誉教授は危惧されています。

尖閣諸島への不正規侵攻に関し、元陸上自衛隊教官・研究員の高井三郎氏も中国による尖閣諸島への不正規侵攻の可能性とそのシナリオについて考察されています。
中共軍による尖閣侵攻要領の一例
現在、(軍事的に)ほとんど無防備状態の尖閣諸島に対しては季節風など、東シナ海特有の気象条件が防げない限り、北京当局の政治判断一つで随意侵攻可能である。侵攻要領は不正規戦型上陸作戦及び正規戦型上陸作戦の2案に大別される。

不正規戦型上陸作戦は浙江省沿岸部の漁民から成る海上武装民兵(海上民兵)の漁船、貨物船等の集団による各島への強行上陸であり、1978年4月に起きたシナ漁船100隻による魚釣島接近事件の拡大版となる。

今度、尖閣の占領を企画する場合は1978年の規模を遥かに上回るウンカの大群さながらの民兵の船団が僅かな巡視船を鎧袖一触して島々を取り囲み、連続的に大部隊を上陸させるに違いない。

民兵に続行する南京軍区の正規軍がヘリとし艦船で来着してミサイルを含む火力とレーダー類の配備及び陣地構築により防御態勢を固める。その後、民兵の主力は大陸に帰るが、一部は魚釣島に残留して漁業活動を営み、実行支配を確実にする。

『軍事研究』 2006年 09月号画像を見る
中国は米軍と正面衝突する気なんてさらさらありませんから、尖閣諸島を侵略する際には大規模な軍事力を使わず、軍民いずれとも定かでない集団を尖閣諸島へ送り込んでくることが考えられる、というのが佐瀬、高井両氏の主張です。その場合、日本の施政下にある領域はまったく「武力攻撃」を受けないまま侵略され、日米安保条約は発動する条件を得られないかもしれません。離島防衛の基本は「取らせてから取る」ですが、武力を用いずに実効支配された島を取り返すのは政治的に難しいものとなります。施政権の在り処が不明になった尖閣諸島問題に対して、米国が中立を守る可能性はあります。


自衛隊が動けなければ米軍も動かない

日本の施政下にある領域(尖閣諸島)が武力攻撃されてはじめて日米安保条約は機能し始めるのですが、一義的には日本の領域における問題であり、日本が主権国家である以上、自衛隊が米軍よりも先に出動していることは言うまでもないことです。自衛隊の出動は侵略者の排除を目的とするだけでなく、「侵略されつつある領域は日本の領域であり、それを保全するための意思を日本政府が持っている」という国際社会に向けての意思表明となります。日本が自ら「あそこの土地はいらないや」と、自衛隊も送らずにほったらかしておく領域を米軍が命がけで守る義務も理由もありませんし、占領された後でいくら相手の不当性を主張したところで国際社会からは相手にされません。ですから、これは尖閣諸島に限った話ではありませんが、日本の施政下にある領域へ「外部からの攻撃」が行われた際には、速やかに自衛隊を出動させることが国際社会の理解、ならびに日米安保条約の効果的な運用へとつながるのです。

ところが、この「外部からの攻撃」というのがやっかいなのです。というのは、「外部からの武力攻撃」事態が発生したという事態認識がなければ、防衛出動が発令されないからです。

「外部からの武力攻撃」とは、国連憲章第51条の自衛権発動の要件としている「武力攻撃」の概念を受けたものですが、日本では、わざわざ「外部からの武力攻撃」について定義を絞り込み、その適用を難しくしてしまっています※。
自衛隊法の武力攻撃と間接侵略
外部からの武力攻撃というのは、…他国のわが国に対する計画的、組織的な武力による攻撃をいうものであります。

昭和36年4月21日 衆議院内閣委員会 加藤防衛庁官房長答弁
「他国の…」ということは、尖閣諸島へ侵攻してきた者の服装、記章、軍旗が明確でなく、国籍不明であった場合はどうするのでしょうか? また、「計画的、組織的…」かどうかをどのように認定するのでしょうか? 「外部からの攻撃」なのかどうかで日本政府が協議している間、自衛隊は出動できず、米軍は成り行きを見守り、かくして尖閣諸島は何者かによって占拠される、というシナリオもあり得ないものではないかもしれません(参考過去記事)。


日本の政治の決断力が問われる

繰り返しますが、今回の日米共同声明は大変強いメッセージとなります。このメッセージの宛先は中国ですから、我々日本人がどう受け止めるかは問題ではありません。少なくとも、「尖閣に手を出したところで米国は出てこない」と中国はタカをくくることができなくなりました。尖閣へ軍事行動を起こす場合、米軍が介入することを想定して準備をしなければならず、軍事的にも政治的にもハードルが高くなったことは間違いありません。

ただし、本稿で紹介したように侵攻勢力のアプローチの仕方次第によっては、日米安保条約は発動できないかもしれません。日本政府としては当然単独で事態を処理しなければなりませんが、中国に明確な意思と計画がある場合、まごまごしているうちに尖閣諸島の実効支配は奪われてしまいます。非武力によって奪われた領域を日本が武力で奪い返すことの政治的ハードルは相当高いものとなるでしょう。それ以前に、不法占拠された尖閣諸島を自衛隊を用いた実力によって奪還するという政治決断を日本政府ができるかどうか、という点が最も懸念されるところです。

米国が尖閣問題において日米安保第5条を発動しさせることにやぶさかではないとはいえ、条件が満たされなければ、むやみに日中関係に容喙するわけにもいきません。米国は日本の同盟国ではありますが、単なるボディガードや傭兵の類ではないのです。

尖閣諸島への日米安保第5条適用がオバマ大統領によって明言されたこのタイミングだからこそ、領土問題は日本が主体的に対処すべきことである、という当たり前のことをもう一度見つめ直しておきたいかな、と思います。



注※ 「外部からの武力攻撃」の適用対象は不必要に制限してしまった日本政府ですが、非武力攻撃に対しての見解は比較的明解で、「非武力攻撃に対して自衛権の行使が禁じられているわけではない」、という立場をとっています。

1954 年の第19回国会参議院外務委員会において、高橋通敏外務省条約局長(当時)が「武力攻撃以外の自衛権が必ずしも禁じられてはいない」とした上で、「国連 憲章第51条は自衛権行使の要件を必ずしも武力攻撃に限定していない」と答弁しています。また、1998年第43回国会衆議院日米安全保障条約特別委員会 における新ガイドライン策定をめぐる国会審議の中で、橋本龍太郎首相(当時)が「国連憲章第51条は武力攻撃以外の侵害に対して自衛権の行使を排除すると いう趣旨であるとは解しておりません」と答弁しています。同じく高村正彦外相(当時)も「政府は従来より、国連憲章第51条は、自衛権の発動が認められる のは武力攻撃が発生した場合である旨、規定しているが、武力攻撃に至らない武力の行使に対し、自衛権の行使として必要最小限の範囲内で武力を行使すること は認められており、このことを国連憲章が排除しているものではない」と答弁しています。

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