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10年前のプレゼン -10 「日本の官僚は弱い」

「Digital Punk 21 in東京大学 2001年1月 MITメディアラボ客員教授 中村伊知哉」の問題提起21点、No.21。

8. 私より公
・クリントンはITを政治化したが日本だけ元首マターでない
・日本の官僚は弱いが、政治とマスコミがもっと弱い
・日本は産官学が癒着しておらず、そこが弱み

 クリントン政権は情報スーパーハイウェイというインフラ政策を打ち出しました。'93年には、全米のインフラだとして、NII構想(National Information Infrastructure)を唱えました。'94年には、グローバルなインフラだ、GII(Global Information Infrastructure:世界情報基盤)だと言いだしました。

 何ことかよくわかってなかったけど、とりあえず各国とも飛びついて、インフラ政策ブームとなりました。それからインターネットが普及して、'96年には、情報スーパーハイウェイって実はインターネットのことなんだよね、とアメリカが言いました。世界のマルチメディアはインターネットというアメリカの市場と化しました。

 先進各国がインターネット政策にのめりこんだ90年代後半、こんどはアメリカは教育と電子商取引だと言いだしました。EducationとeCommerce。IIからEEへ。インフラをどう作るか、から、どう使うか、に移りました。ハードからソフトへの見事な転進。ああ、そうか。プライバシーとかセキュリティーとか認証とか税金とかか。日本も欧州もその政策に乗りました。

 そしてこのプレゼンのころ、2000年、アメリカはデジタルデバイドだと言いだしました。DD。II、EEからDDへ。ハードとソフトを合わせた格差是正です。当面は国内の格差、たとえば所得や人種による格差に焦点が当てられます。NDD。でもすぐに国際間の格差を問題にしはじめるでしょう。GDDですね。GDD、すなわちアメリカによる途上国囲い込み作戦。囲い込む相手? 中国、インド、中南米。

 格差是正といえば、日本もそれなりの試みをしてきました。ぼくが役人時代に担当しただけでも、たとえば'90年、地域格差を是正するための予算を獲得しました。メディア分野で初の公共事業でした。'91年、高速インフラなどを全国展開するための電気通信基盤充実臨時措置法を作りました。'93年には、障害者の情報アクセス格差を是正するための法律も作りました。日本政府は仕事をしてきています。10年前(今からみれば20年前)からやっています。でもそれらは単発で、国全体の戦略になっていません。

 問題は次の一手。アメリカに先にGDDと言われてしまうのか? また後追いするのか?
 
 これがプレゼン当時のぼくの問題意識でした。それから十年、かなり心配は的中してしまいました。

 では国の戦略は誰が描けばいいのか。当時、官僚バッシングが激しく、霞ヶ関はヘコんでいました。もちろん不祥事が相次ぎ、ボコられるだけのことはあったのですが、同時に、官僚の力が強すぎることも問題視されていました。

 でもね、ぼくは日本の官僚は「弱すぎる」と思っていたんです。国際会議に出かけても、アメリカにしろフランスにしろ役人はバンバン主張する、それは主張し決定できる権限が与えられているからなんです。日本の役人が大人しいのは語学だけの問題じゃなくて、本国の関係業界や政治などと調整しないと決められないという事情もあるんです。

 なのに官僚は国内的には強すぎるとされる。なぜか。それは、もっと強くあるべきセクターが弱いからです。「政治」と「マスコミ」です。政治が取るべきリーダーシップを発揮せず、マスコミが国際的な情報発信力を欠き、国内でのバランスを失っていたんです。
 
 そして当時、公務員倫理法ってのができて、役人は民間人とメシ食ったりしたらイカンなんてことになりました。ぼくはこれはアメリカの陰謀だと思っていました。今もそう思っています。日本の国力を弱めるには、官と民のパイプを断つのが効率的ですからね。当時のぼくの書き物からちょっと引っ張ってきます。

「無論、癒着はいけません。許認可の権限をカサにきて私腹を肥やすような役人は処刑してよろしい。しかし、役人には、民間の意を汲んで国際舞台で情報戦を繰り広げてもらわんといかんのです。民との接点は、そのための兵糧なのです。

 クリーンにはなる。でも、官を干上がらせれば対外的な攻撃力はガクッと落ちます。官が強いからっちゅうて叩くのは簡単。しかし先にやんなきゃいけないのは、弱いセクターを強める算段。たとえば政治とマスコミ。弱いとこ強めず強いとこ殺せば丸ごと轟沈。

 強いとこを強めることもやっていい。いまこそグローバル経済に対処できる良質の国家システムを整えないといけない。そのためには、役人のムダな仕事をバサッと減らして、少数精鋭にして、どんどん外の風に当たらせること。それは夜の風でもかまわない。

 国際交渉の場面では、どの国も、自国の民間のナマの声をぶつけてくる。アメリカなんかいつも企業べったりだ。その絆が弱いのは日本だけ。クリーンすぎる。その絆を絶ち切って、官が勝手に交渉したりすると、よけい困る。」

 んで、どうなったか。政治は2009年に政権交代が起こり、官僚打破が唱えられ、政治リーダーシップが発揮されるということになりました。そうしたら迷走、なんだか余計ヘンテコなことになってます。落ち着くにはもう少し時間がかかりますね。

 マスコミの方はもっと大きく変化しました。ネットジャーナリズムが広がりました。2010年11月には尖閣諸島の中国漁船衝突事件の映像がYouTubeに流出、テレビ各局はその映像を後追いで使うようになりました。同月、民主党の小沢一郎氏はテレビには出ないけどニコニコ生放送には出演するなど、政治とメディアの関係も変わってきました。

 さて、振り返ってみれば、クリントン大統領はインターネットを生んだ国家元首として歴史に刻まれるのでしょう。為政者として、国民に、世界に、何を遺すのか。ドゴールはシャルルドゴール空港を遺し、ポンピドーは現代美術のポンピドーセンターを遺し、ミッテランはミッテラン図書館を遺しました。日本の為政者は何かを遺そうとしてくれるでしょうか。
 ということで、おつきあいいただきました「デジタルパンク21」、このへんでお開きに。

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