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非日常と寄り添ってみる

田んぼのあぜ道を、白いヘルメットにジャージ姿の子どもたちが歓声を上げて、自転車で駆け抜けていきます。学校の帰り道。帰る家があるんだな。うららかな晴天の相馬。地震から2ヶ月が経ち、すっかり日常を取り戻したのでしょうか。

いえ、そのすぐ脇の建物に、「遺体安置所」と急ごしらえで作られた看板。生々しい記憶と、耐乏生活がたちこめる、この一帯はまだ有事のさなか。
もう一歩、海に近づけば歴然です。

沼になってしまった地に半分沈んだ漁船。ひっくり返って腹をみせている大型船。横倒しで水に浸かったワゴン車。柱だけを残して陸に立つ漁民の家。あとかたもない浜辺。かすかに壁が残るため、かつて村だったとわかる地帯。暴力。暴力。暴力。がれきに鳶が群がっている。やつら、何を求めているのだろう。見渡す限りの田に水が張ってある、その水はみな海水だ。それを平穏に見下ろす高台の住宅地。

昨日、民主党の衆参議員15名とともに、福島と宮城の被災地を訪れました。「関東大震災では流言飛語から虐殺まで起こったが、阪神淡路も今回もそういうことがなかったのは、メディアの発達と情報の流通によるのではないか。」「だが海外への情報伝達よりも国内での共有が遅いのは問題だ。」「危機を乗り切るのに重要なのは教育だ、集団生活を身につけさせる必要がある。」直前までバスの中で賑やかに議論していた議員たちも、凄惨な現場に立ち入ると、言葉も失い、呼吸の音すらしません。

2ヶ月経っても、前が見えません。

これを、この見渡す限りの光景を、復旧するのだろうか。覆水を盆に返すのだろうか。圧倒的な光景を前に、その気力は湧くのか。国にとっての投資価値を、経済面でも、社会維持の面でも必須だと、この国会議員たちは評価するのだろうか。地元住民、避難民たちは、この非日常を生き抜いていく決意なのだろうか。しばし立ち止まるのみの人もいるだろう。土地を変えても旧来のように互いに寄り添いたい人もいるだろう。現実から逃避したい人もいるだろう。
ぼくの目の前には、とうに吹っ切れた風情で、被害状況を淡々と語る地元の人。「×印の書かれた車の中には遺体があったということです」と淡々と語る地元の人。

被災地の復旧が短期マターで、全国の復興が長期マターと考えられているところ、実は、被災地復旧のほうが覚悟に長期を要するのかもしれません。ぼくは日本全体の復興や建設には興味がありますが、被災地対策や復旧策には強い意見はありません。それは極めて地元マターだと考えるからです。そして改めて、この地の人々が現役と子々孫々に向く覚悟に委ねるほかあるまいと佇むのです。

大都会、仙台も同じ。信号が灯らずおまわりさんが交通整理をしている。道路脇にはセダンや軽トラが折り重なり、ビルのガラスは全壊したままだ。同じ地域なのに、やられている建物もあれば、壊滅したビルもある。閉店したボウリング場、営業中のラーメン屋、閉店したカローラ販売店、開いているびっくりドンキー、閉店したダイソー、賑やかなパチンコ屋。そのまだら模様は、どうして起きたのだろう。建物の質なのか、立地の運・不運なのか。

まだら模様の中で営まれている、日常。ぼくからみれば非日常だが、これが今ここでの日常。そこから、より日常に向かっていく、のでありましょう。

だが、津波に飲まれた地帯では、そんな模様はない。土色で一色。破壊。破壊。破壊。がれき置き場には、車、金属、家電、と区分された空間に、原型をとどめない車、金属、家電の断片が丘を作っている。木材や壁土などの大量のがれきは小山を築き、いく台ものクレーンやショベルカーが上に登ってせっせと作業をしているが、どうにも仕事が減りそうにない。海辺で2本の筒が天にそびえる下水処理場も、波に破壊されて仁王立ちのまま息を引き取っており、修理には数千億円が要るという。

降り立ってみる。リアルタイムのNHKで見た、波が田畑を、車を、家々を瞬く間に飲み込んでいった津波。いま目の前で起きているすさまじい事実に深く触れず、騒がず、冷静なナレーションで引きのアングルから見つめたあの映像。

降り立ってみる。360°、みたことのない、非日常。ここも、ここから、より日常に向かっていくのでありましょうか。

眺めていても、何も思い浮かびません。

マスクを取り、ニオイをかいでみました。思い切り、かいでみました。かいだことのないニオイがしました。でも、何も思い浮かびませんでした。

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