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震災から一週間

■Buenos 震災から一週間

今日ぼくは50歳になりました。
若い頃、40台で死ぬと信じていたのに、半世紀生きました。友人たちが誕生会を準備してくれていましたが、それは震災で中止。あと10年生きていたら、その時に還暦会でも企画してくれれば幸いです。


○ネット後の震災というリアリティー
阪神淡路大震災は、ロンドンからドーバー海峡を渡ってカレーに着いた夜、ラジオで知りました。当時住んでいたパリの家に夜中たどりつき、最初の映像を見ました。日本のテレビ局が上空から撮影したもので、黒煙が上がり、高速道路が倒壊するなど衝撃的ではありましたが、どこかフィクションのようで、ある種冷静に眺められました。当時はネットもケータイも本格普及前であり、日本からの情報は放送や新聞に依存していました。
ところが2,3日たつと、地上の映像や現場の詳しい記事がパリにも届き始めました。地獄絵でした。想像を超えていました。自分の想像力の欠如に愕然とするとともに、視聴者、傍観者でしかなかった自分が遠く離れた地でできることはあるのか、途方にくれました。京都にいるたった一人の親にメッセージを送るのでさえ、国際電話が通じるまで数日かかりました。

今回の震災では、ネットもケータイもありました。しかしケータイの電話はつながらない。脆弱なメディアです。一方、核戦争を想定して構想されたインターネットはパケット通信の強みを発揮。それもメールやサイトの世代を経て、twitterやSNSが主役に就いていました。どの局も同じような東京発の情報を流し続けるテレビが批判の的になったのも、ソーシャルという別チャネルが成立していたから。そしてテレビはあんなに拒否していたUst中継やニコ動配信にも踏み切り、ラジオはradikoの区域制限が外れ、世界の人々がリアルタイムで日本の放送をネットで視聴できるようになりました。阪神淡路とは異なり、海外にいても当初からリアルがリアリティーとして共有されたことでしょう。そして世界からリアルタイムに大量のメッセージが寄せられるようになっていました。


○ソーシャルメディアが果たす機能
Twitterを含むソーシャルメディアは今回、以下の4点の役割を果たしたと思います。
1. 情報共有
中央発表だけでない多元的で多面的な情報の共有
2. 権力監視
政府、関係機関、放送局に対する国民監視のプレッシャー(#edano_nero という激励も)
3. 国際発信
世界に対するリアルタイムの情報発信
4. 気分の醸成
国難に立ち向かう国民全体の一体感の創出

特に4点目は、この歴史に残る大事件の後、復旧から復興を経て新しい国の形を作っていくうえで、ネットが貢献できる最大のファクターとなるでしょう。現にぼくは、これまで息子たちを将来どうやってこの国から脱出させてやればよいのかと考えていましたが、地震の当日から翌日にかけTLを眺めていて、助け合い、分け与え、前を向き、しとやかに生き抜こうとする日本人の姿、特に若い世代の姿勢に、この国で死ねるなら本望だと感激するに至りました。
阪神淡路の村山政権と同様、今時の大震災が困った政権のもとで起きたことは不幸中の不幸ですが、だからこそ国の一体化が強められたのかもしれません。もちろんネット上でもデマや流言飛語はあふれ、瞬く間に拡散しています。時が経つにつれ、そして原発の問題が深刻になっていくにつれ、ヒステリックな発言やいらだちもバッシングも目立ってきていて、全体の雰囲気が躁になってきてもいます。「一体」は間違えると取り返しがつかない危険をはらむ。


○クールジャパンの土台をなすもの
ただ、一週間を経た段階では、それでも日本のネット社会は総体として自浄作用を発揮し、多元的な正気を保っていると見ます。日本というコミュニティが案外このソーシャルなるものとの相性がよく、原発の危機が長引いても、利用層が広がってもメルトダウンせず、うまく乗りこなしていくのではと思います。
ぼくは9/11にニューヨークで遭遇し、当時住んでいたボストンに戻ってみても、街行く人々が無口で下を向き、手に手に星条旗を掲げ、祈り続ける、その姿に接し、もちろんボストン発の便がニューヨークでテロにあった眼前の事件に自分も傷ついてはいたけれど、異邦人からみれば過剰とも映る皆のあまりの沈痛ぶりに、アメリカという国の脆弱さを、そしてその反動からくる怒りの恐ろしさを感じたものです。
日本はこうした国難に際し、日の丸を掲げ、ひざまづいて天に祈ることはありませんが、その代わりひょっとすると、若い世代にとっては、ソーシャルメディアのつながりがアメリカにおける星条旗や神のはたらきのような機能を担いつつあるのかもしれません。

地震の前日、内閣官房知財本部で知財計画2011のコンテンツ部分のとりまとめ会議が開かれました。ぼくが会長を務めるコンテンツ調査会は、本年度の柱として「クールジャパン」を据え、日本のコンテンツやサービス、商品の海外展開策に勢力を注ぎました。日本はクールと評されながらも実体がハッキリしない。どう戦略を立てればよいか。頭を悩ませていました。
地震は日本の強烈なコンテンツを世界に発信しました。揺れる国ニッポンという姿ではありません。そんな災害を受け止め、跳ね返す日本の力です。中国の震災に比較して、日本の防災システムや建物の耐震設計を称賛する声。2次大戦から立ち直った日本の復興意識や規律の正しさを特筆する記事。阪神淡路後の対応を評価する論調。パニックも暴動も起こらず、略奪もなく、静かに2列で満員電車を待つ人々。われわれにとっては、当たり前の光景です。
マンガ、アニメ、ゲーム、ファッション、回転寿司。それら全ての土台となる、そしてそれら全てを上回る強さを持つ、日本の、静かで、快活で、まっすぐで、背筋が伸びている、大人の、豊かな精神。それが改めて洋の東西を問わず海外から評価されています。もともとクールジャパンは日本が自己規定したものではなく外から流入してきた見方ですが、今回も自分たちにとって当たり前のものが意外性をもって受け止められているわけです。


○復興策を急げ
さて、現時点では福島原発対策、不明者探索、電力供給、被災地燃料・食糧確保など緊迫した課題が山積みですが、IT分野でも緊急対策が求められます。携帯電話基地局の燃料確保などです。現場ではネット環境の構築より、ファックスと紙を確保するほうが情報の共有には有用という声もあります。また、情報共有のためのクラウド環境が用意されているにもかかわらず、タテ割り省庁の壁のせいでうまく使われていないという指摘も。現場で情報を入力するボランティアを確保することが重要との意見も聞きました。
ぼくが理事長を務めるデジタルサイネージコンソーシアムも対応に大わらわです。震災後、業界としては、単純な広告サイネージはできるだけ節電に協力しようということになり、事実、あちこちの大型サイネージの電源が切られています。関係者は断腸の思いで協力してくれているわけです。ただ、街中に存在するのがサイネージの強み、アウトドアの人々に災害情報を伝えるメディアとして役に立ちたい。これには多くのコンテンツ・プロバイダーが奮起、震災に関するさまざまな情報を著作権フリーで利用できるように協力の手が続々と挙がっています。

政府・関係者は危機対応に不眠不休です。頭が下がります。緊急対策を講じ、補正予算を成立させ、次々と実行に移さなければなりません。政治の機能不全をカバーして、財務省を中心に霞ヶ関の官僚が自主的にいくつかのフォーメーションを走らせているとも聞きます。
しかし、同時に、復興対策も必要です。ブログ「復興八策」に書いたように、緊急・短期の対策に続き、被災地や日本全体の中長期的な復興策が即座に必要となります。IT分野も同様。特にIT分野の場合、「復旧」ではなく、新しいものを造る観点からの復興が求められます。この震災後の設計は、それまでとは異なる思想が必須です。
例えば今回、放送とIP網が活躍しました。危機に強く柔軟な融合ネットワークを構築していくべきです。通信・放送をまたがる融合IP網への移行です。電力供給を自律調整するスマートグリッドも大事。この数年、脚光を浴びてきた政策の速度を増すことです。
エネルギー需要が少ない経済社会の実現を支援する措置も必要でしょう。都市の分散を促してコンパクトシティを形成していく。そのための有線・無線インフラやコミュニティメディアの整備支援。20年ほど前に重要課題とされた共同溝の整備も改めて進めるべきです。
街メディアとしてのデジタルサイネージにも公共的な役割が期待されます。整備促進策と、危機の際のコンテンツ管理を考える必要があります。デジタル教科書の配備に当たっても、危機の際に役立つ情報端末とクラウド環境の設計が求められるようになります。
政府が危機対応に手一杯のなか、復興対策は無任所の政治家と官僚有志の役割と考えますが、ここは産官学の知恵を結集すべき場面。IT分野については、ぼくもアクションを起こそうと思います。

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