目指すのは宝飾店との共存共栄
画像を見るロンチした時点で、Ritaniは米国人口の半分以上がこの店舗でのプレビューサービスを利用できる状態になっていると発表した。昨年9月の記事によれば、Ritaniが提携を結んでいる宝飾店は全米で125を超え、カナダでも12の宝飾店と提携が成立した。今後も提携店舗のネットワークをどんどん拡大させていく予定だ。
Ritaniと提携を結んだ宝飾店は、自分の店ではなく、RitaniのECサイトで商品を注文した顧客が、商品の確認に訪れることを、新規顧客の獲得につながるとして歓迎している。婚約指輪の購入は人生で特別な出来事であるため、顧客はそのときに利用した宝飾店をその後も贔屓にすることが多いからだ。
また、Ritaniの側も、指輪のサイズ直しなどの必要が生じた場合、顧客を地域の提携店に積極的に誘導する方針を取っている。
金銭面では、Ritaniと提携店では次のような取り決めがなされている。
提携した宝飾店には、その店の一定の距離内でRitaniのECサイトを通じて商品が購入された場合、その店自体が販売に関与しなかった場合でも、その売上の一定の割合が配分される。
一方、その顧客が将来その宝飾店を訪れて、商品やサービスを購入した場合、宝飾店側はその売上の一定の割合をRitaniに配分する。具体的な数字は明らかにされていないが、Ritaniによれば、ショッピングモールがテナントに要求する歩合より少ない、リーズナブルな額だという。
宝飾店側にとって、Ritaniと提携を結ぶメリットの1つは、Ritaniが提携店のECサイトの開設を支援することだ。提携店はRitaniが製品を卸しているので、提携店がeコマースに本格的に乗り出しても、Ritaniの製品も売れるのならば、Ritaniにとってもプラスになる。
また、RitaniのECサイトを通じて、次のように店舗の存在を宣伝してもらえることも、宝飾店にとっては有難い。
画像を見るこのSteve Padis Jewelryは約30年前にカリフォルニアのベイエリアにオープンした。オーナーのスティーブ・パディス氏が開いた4店舗のうちの1つだ。現在はZyngaやAirbnbなどハイテク企業のオフィスが近所にあり、パディス氏はそれらの企業で働く20代のエンジニアたちと通りでしょっちゅうすれ違う。しかし彼らのほとんどは、パディス氏の店に1度も足を踏み入れたことがない。
「あの若者たちの購買行動の大半はオンラインではじまるんだよ。モノを購入するのに、実店舗に入ろうという発想がそもそもないのだ」
そう観察して、店舗経営の将来に危機感を抱いていたパディス氏にとって、Ritaniからの提携のオファーはまさに渡りに舟だった。
「宝飾店の多くはeコマースに参入してうまくやれるだけの資金力もノウハウも足りない。だがただ傍観していたら、その結果、どうなるかは目に見えている。インターネットを味方につけなければ、インターネットにやられる」
Ritaniと提携を結んだ後、その効果は数字にはっきりと現れ、減収が続いていた同氏の店の収益は、2013年はピークだった2006~2007年のレベルに戻ったという。
提携店の中には、Ritaniから提携のオファーを受ける前に、ウェブサイトやECサイトを開いていた店もあるが、それらの店もRitaniのように規模もトラフィックも大きいサイトに提携サイトとして掲載されると、宣伝効果がまるで違うと、提携を結んだことを喜んでいる。
オンラインのみで運営するBlue Nileが町の宝飾店とはシェアを争う競合関係であるのに対し、Ritaniは町の宝飾店と協力しあうことで、共存共栄の道を探っているのだ。
将来の小売業が必然的にたどり着く戦略と予測されている「オムニチャネル化」
現在Ritaniの指揮をとっているBrian Watkins(以下ワトキンス)氏は、2000年から2008年までBlue Nileに幹部として勤めた後、カスタマーサービスで数々の伝説を生んだシアトルに本店をもつ老舗百貨店チェーン「Nordstrom(ノードストローム)」で、オフラインとオンラインをよりシームレスに融合させるプロジェクトに関わった。
「ノードストロームが解決しようと努力していた問題は、宝飾業界で欠けているものが何かを僕に教えてくれました。宝飾業界は『今どき宝飾店で買物するほどあなたは馬鹿ではないでしょう』と教えるBlue Nileと、ウェブサイトさえ開いていない宝飾店とに二極化しているのです。我々はそのギャップを埋める存在になれると思います」(ワトキンス氏)
ワトキンス氏は、純粋にオンラインのみで活動する小売のECサイトではリーチできる範囲が限られるため、小売業はどこも最終的には「オンラインとオフラインとをシームレスに統合したオムニチャネル戦略」に向かうと考えている。
この「オムニチャネル」という言葉は、日本の小売業界でも昨年末あたりから頻繁に耳にするようになった。実店舗とECサイトの垣根を取り払って、顧客との接点を増やし、顧客がいつでもどこでも買物できる環境を作り出すというものだ。
Internet Retailerに掲載された「Why an omnichannel strategy matters」という記事は、305の企業を対象に実施した調査の結果、強力なオムニチャネル戦略をもつ企業は、顧客保持率が平均89%であったのに対し、そうでない企業は平均33%に過ぎなかったと報告し、顧客と複数の経路でコミュニケーションを取ることがビジネスにとってプラスになると示唆している。
現時点で、Blue NileとRitaniのfacebookの「いいね!」の数を比べると、Blue Nileが766,327に対し、Ritaniは715,558と、その差は約5万だ。eコマースに参入してからの年数の違いを考えると、Ritaniは大健闘しており、オムニチャネル戦略が効果を発揮していると言えそうだ。
画像を見るBlue Nileはこれまで婚約指輪を扱うECサイトとしては、圧倒的に強い位置に君臨してきたが、Ritaniの登場で、初めて守勢に立たされたことになる。
両者の競争は小売業の将来を占う象徴的な事例になるだろう。両者の動向に、今後も注目していきたい。