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「デジタル教科書はいらない」か?

 田中真紀子・外山滋比古さんが「頭脳の散歩 デジタル教科書はいらない」という本を刊行されました。田原総一朗さんの「デジタル教育が日本を滅ぼす」と同じくポプラ社から。デジタル教科書反対!の第二弾です。

 田原さんの本については先にブログで論じました。↓
http://ichiyanakamura.blogspot.com/2010/08/blog-post_30.html

 デジタル技術を導入すると「画一的で、正解だけを求め、先生を排除し、生徒一人ひとりを孤立させる」という観念に縛られていて、「デジタル教科書=ドリル」と「情報端末=電卓」で自習、というイメージで全編が描かれているから、結論が間違っているという大意です。

 「教育は利便性の追求だけでよいのでしょうか」「中学や高校の教育がつまらない。ようするに「正解」と「間違い」を指摘することしかしなくなったからだ」。という田原さんの問題意識は正しい。だから改革が必要であり、その手段として、道具としてデジタル教科書や情報端末を使えばどうか、というのがわれわれの提案です。
 
「日本の子どもは学力も学習意欲も、落ちていた」というのも正しい。だから、学力を上げ、楽しんで学習し、学習意欲を高める手段としてデジタル技術を使えばよい、というのが提案です。

 要するに田原さんがデジタルに対し批判したいことは「デジタル教科書が自己完結のかたちで正解を追求するからよくない」の1点のようです。であれば、そうじゃない教科書・教材にすればいい。デジタルかアナログかの問題ではないと思います。

 そして今回の本です。論語の素読、寺田寅彦、ダンテの神曲などの対談に混ざって、ところどころデジタル批判めいたものが見られます。

 ぼくは「作る」ことが本領であり、他人が言ったり書いたりすることを分析したり批評したりすることは性に合わないのですが、地位のある社会的リーダーたちがこうも立て続けに論理に欠けるメッセージを発信するのは危険なので、これも論点を整理しておきます。

 まず田中さん。デジタル批判の第一は、「(デジタルはくりかえし検索ができるが、それより)書くことが大事」というもの。そのとおりですね。デジタル端末でも書かせるべきです。ペンで書くことができない情報端末はいけません。また、それより紙のノートが優れているなら紙を使えばいい。デジタル教科書の話ではありません。

 デジタル批判の第二は、「(デジタルは速さ・簡便を追うが、それより)活字で読ませるべき」というもの。そのとおりですね。デジタルで読ませればよい。紙もデジタルも活字は活字。デジタルなら圧倒的に安く大量に活字を配れます。デジタル教科書は、教科書と言うより「図書館」を子どもに与えるものなのです。
 
 外山さんのデジタル批判の第一も、「デジタルはわかりやすいが、高等なテクスト・文字が大事」というもの。そうですね。デジタルで高次のものを読ませればよい。デジタルで人は3倍も文字を読むようになったというカリフォルニア大学の研究データがあります。
 http://wiredvision.jp/news/201002/2010021022.html

 デジタル批判の第二は、「デジタルは生徒と先生を隔てる」というもの。これは論拠不明。教科書が生徒と先生の仲立ちをしている、それがデジタルになると「より」距離が遠ざかる、という。であればそもそも教科書がなくて、生徒と先生が直接対峙するのが理想なのでしょうか。高等なテクストを個々の生徒に導くのは誰が担えばよいのでしょう。

 いずれにしろ、生徒と先生の距離、コミュニケーションの在り方は、授業の設計によります。デジタル時代の授業をどう設計するかは大事な課題。紙の教科書も与えて放っておけば隔たります。アナログ・デジタルの問題ではありません。

 それから、本の中には「デジタル情報から本当の知性は生まれない」というタイトルの項があるのですが、読んでみるとそんなことヒトコトも書いてない。何なんでしょうね。

 この本にしろ、田原さんの本にしろ、「デジタル」なるものを、電卓のようなもので、読むこともできず書くこともできないものという決めつけからスタートしているようです。それならぼくもハンターイ!。でも、それなら、そんな機械が紙の本やノートを駆逐するはずがないし、先生がいらなくなるはずないじゃないですか。それで不要になる先生ってどんな先生なのでしょう。

 つまり、「デジタル」の定義やイメージが不明確なまま批判するから要領を得なくなっているんですね。いっそまだ紙にしかできないこと、たとえば、「めくれなきゃダメなんだ」「破れることが大切だ」「落としたり踏んだりしても大丈夫じゃなきゃダメだ」とでも主張してくれたほうが反論に詰まると思います。

 いまTBSでオンエアしている「塀の中の中学校」、授業の冒頭、みんなで教科書のニオイをかぐシーン、それはデジタルではできない。それなら、わかります。

 こうした批判は他にもまだまだあるのでしょう。もちろんデジタルはハードウェアもソフトウェアも発展途上。改良、改善の余地がうんとあります。先生方や保護者たちの意見を聞きながら、良いものを開発していかなければなりません。
 
 アナログの世界でも、理想の教科書や理想の授業が完成していないように、デジタルの世界でも、理想の教科書や授業はいつまでも夢として追い求められていくのでしょう。アナログとデジタルが二項対立するのは不幸なことで、子どもたちのために互いにメリットを活かしていくべきでしょう。

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