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「経済学と社会学における新制度派」『経済社会学ハンドブック』


Victor Nee, 2005, "New Institutionalism in Economics and Sociology," Neil J. Smelser and Richard Swedberg (eds.) Handbook of Economic Sociology 2nd ed., Princeton University Press, 49-74.
新制度派の解説。経済学における制度派(Veblen, Mitchell, Commons が代表的)が、限界効用理論のような新古典派の理論を攻撃したのはよく知られている。それに対して、新制度派経済学は、新古典派の経済理論を制度の分析に応用した点で、古い制度派とは異なると Nee はいう。新制度派経済学は、Coase の理論のリバイバルであり、ウィリアムソンとノースが代表的な理論家である。ウィリアムソンの議論で最も有名なのは、組織と市場の使い分け(境界)にかんするものである。企業家は必要なサービスや財を市場で調達するか、それとも労働者を雇って組織内で生産するかという二択にしばしば直面する。どちらが合理的かは様々な要因に左右されるが、そのうちの一つが取引費用である。取引費用が高い場合、市場よりも組織のほうが合理的となりやすい。なぜなら市場での取引相手よりも雇用している労働者のほうが監視が容易であるし、命令への服従が調達しやすいからである。それゆえ、市場の状況が組織のサイズに影響を及ぼすと予測できるが、どの程度経験的に検証されているのかは触れられていなかった。

一方、ノースは所有権に注目する。所有権が十分に確立しておらず、恣意的な為政者によって財産が徴収されてしまったり、ルールが恣意的に変更されてしまうような社会では、企業家にはリスクを冒して大きな投資を行うインセンティブがあまりない。なぜなら、仮に大きな利益を得ても、為政者に接収されてしまうかもしれないから。また、ルールが破られても、政府による公正な裁判や懲罰が期待できないので、商取引は本当に信用できるうちわの相手に限られ、市場の規模はごく限られたものになりがちである。

このような問題は知的所有権に関しても同様に成り立つ。こういった社会では、為政者と結託し、リスクをとらず、ほどほどに儲けて財産隠しをするのが合理的である。誰もリスクをとらないので、イノベーションが起きにくく、市場も発展しにくい。言い換えれば、取引費用の低減こそ市場が発展するための重要な基礎の一つなのであるが、為政者は少なくとも短期的には恣意的に権力をふるって特定の企業家と結託するほうが利益を得られるので、しばしば形式合理性の高い(予測可能性の高い)市場が歴史の中で誕生することはまれであったという。

このように、新制度派経済学の特徴は、制度(上の例では組織と所有権)が取引費用を低減するという点に注目するところにある。これに対して、社会学の新制度派は、Meyer and Rowan (1977) と DiMaggio and Powell (1983) に代表されるように、組織活動の非合理的側面を強調する。組織は合理的に行為するとしばしば考えられるが、実際には、ほとんどの組織は非常に不確実な状況で意思決定を行う必要があり、何が最良の選択かはわからないことが多い。それゆえ、実際には行為の正当性や象徴的意味、儀礼、模倣といった要因が決定に大きな影響を及ぼす。

また、組織は単体として存在するのではなく、組織場 (organizational field) の中で活動するので、実際には組織場の中の様々な力学の影響を受ける。業界団体の自己規制や関係省庁の指導などは日本人になじみのある組織場の働きの例であろう。グラノベッターの「埋め込み」概念は、こういった議論を行為論に翻訳する際のキーワードであったが、なぜあれほど高く評価されたのか、私にはよくわからなかった。おそらくこの当時のアメリカではヴェーバーの経済社会学や主意主義的行為理論の意味が理解されていなかったのではないだろうか。

このように同じ新制度派を名乗ってはいるものの、新制度派経済学と新制度派社会学ではかなり異なる。前者は基本的に合理的選択理論であるのに対し、後者はデュルケミアンであり、水と油とまではいかないものの、かなり異質である。Nee によれば両者は相補的であり、両者を統一するようなフレームワークを考えることも可能であるし、統合的な研究も存在する。 Nee のいう統一的なフレーム・ワークとは結局パーソンズの言う主意主義的行為理論とほとんど同じなのだが、 Nee はそのことを知らないようである。類似のフレームワークは Boudon によっても提案されているが、あまりに常識的で演繹力/予測力に欠ける点が難点である。Nee もいうように、どういう文脈で短期的な自己利益の追及がなされたり、差し控えられたりするのか、そのあたりの規定要因を明らかにするというのが、新制度派社会学の課題ということになるのかもしれない。

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