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算数くらいできろよ

生活保護 不正受給は許さない! 福岡市が“たれ込み”ダイヤル開設(産経新聞)

 生活保護の不正受給を防ごうと福岡市は4月下旬、専用ダイヤル「生活保護ホットライン」(仮称)を開設する。不正受給に関する“たれ込み”を受け付けるほか、ギャンブルやアルコールなどに過度に依存する受給者の生活立て直しに向けた支援に生かす。高島宗一郎市長は8日の記者会見で「行政だけではつかめない情報をすくい上げる。生活保護の公平性を担保し、守るべき人をしっかり守りたい」と語った。(大森貴弘)
 この種の密告受付窓口を設ける動きは既に他の自治体でも例が見られるところですが、「結果」はどうなのでしょう。自治体の思惑通りに生活保護申請を抑え込むことに成功しているのかどうかも報道機関には合わせて伝えて貰いたいものです。ともあれ生活保護受給者を容疑者と見なす運動は広がる一方で、その監視を市民にも呼びかけるのは自治体だけに限らず無関係な民間人にもしょっぱいブロガーにも少なからず見受けられます。

 今回の福岡市の決定を受けて、生活保護受給者の取り締まりを訴えてきたレイシスト――彼らの頭の中では生活保護受給者とは不当に利益を受けている在日外国人ということになっているようで――からの「犯行声明」みたいなものも見かけましたが、実際の影響の程はどうなのでしょうね。何か重大事件が起こると「我々の仕業である」と犯行声明を出して自身の影響力を大きく見せかけようとするテロリスト集団とかもいるわけですが、それと似たものを感じないでもありません。ただ、浦和レッズやはだしのゲン問題でも分かるように、レイシストの要求に対して「気遣い」を見せるのが日本では一般的とも言えます。レイシスト集団からの訴えかけとは無関係に生活保護受給者を締め上げようとする動きは存在しているのですが、決定打はどの辺にあったのやら。
 福岡市では、生活保護の受給世帯数が急速に膨らんでいる。

 平成26年2月現在は3万2268世帯となり、20年度(年間平均2万96世帯)に比べ、5年間で1万2千世帯以上増えた。増加率は60%となり、同期間の全世帯増加率7・6%を大きく上回った。全人口に対する受給者の割合を示す保護率は2・86%(全国平均1・68%)に達した。

 この結果、25年度に市が支出した生活保護費(当初予算ベース)は803億円に上った。市の一般会計7500億円の1割を占め、市の財政を圧迫する要因となっている。
 さて慣例と言いますか、本来なら比較として適切でない手法でも普通に受け入れられるようになっているパターンがありまして、典型的なものとしては官民の給与比較などが挙げられます。「非現業(≒ホワイトカラー)の正規職員」の給与平均と、「パートなど非正規を含めた」民間企業で働く全労働者の給与平均を並べて、「公務員の給料は高い!」などと訴えるのは、比較の仕方を思えばお笑いも良いところですが、新聞やテレビに限らず政治家の間にも広く受け入れられているわけです。

 これに続くものとして、上記引用元にあるような自治体財政に占める生活保護費の扱いが挙げられるでしょうか。周知の通り生活保護費は「国庫負担分」と「自治体負担分」に分かれるもので、国が4分の3、自治体が4分の1を出すことになっています。福岡市の場合は総額が803億円ですから、自治体負担分は約200億円ですね。ところが上記では「生活保護費の総額(国庫負担分+自治体負担分)÷市の一般会計」という計算式に基づき、「(生活保護費が自治体財政の)1割を占め、市の財政を圧迫する要因となっている」と伝えられています。常識的に考えれば、妥当な比率の求め方は「生活保護費の自治体負担分÷市の一般会計」ですよね。

 ただしこれは引用元の産経新聞に限ったことではなく、基本的に国内のメディアには全て共通した求め方です。生活保護費が自治体の財政を圧迫している重荷であるように見せかけようというのは朝日も読売も毎日も東京新聞も同じで、「生活保護費の総額(国庫負担分+自治体負担分)÷市の一般会計」という式がどこでも当たり前のように用いられています。より先鋭的なのは神奈川新聞で、「生活保護費の総額(国庫負担分+自治体負担分)÷市の個人市民税」という仰天の計算式を使っていたりしまして(参考:神奈川新聞の印象操作が酷い)、まぁ酷い話です。
 さらに、不正受給が大きな問題として浮上している。

(中略)

 24年度に福岡市が不正受給と認定し、返還を求めたのは1521件(4億5900万円)に上った。受給総数3万1154件(784億円)の5%弱にあたる。
 加えてメディアによっては、計算式云々に止まらない印象操作に励むケースが散見されます。例えば昨年9月の中日新聞報道では「空間線量は毎時約0・24マイクロシーベルト。一日8時間で1年間積算すると許容線量の1ミリシーベルトを超える数値となる」と伝えられていました(参考:中日新聞社のカレンダーの1年は何日あるんだろう?)。0.24×8×365=700.8ですので、我々が知っている算数の仕組みに沿って計算すれば、許容線量の1ミリシーベルト(なお正しくは、自然放射線量+1ミリシーベルト)を超えることはありません。しかし中日新聞としては初めに結論ありきで、放射線量が許容値を超えているのだと力説せずにはいられなかったのでしょう。

 そして上記引用元も然り、不正受給額が「4億5900万円」で受給総額は「784億円」です。

459,000,000÷78,400,000,000=0.005854...

 これを一般的な算数の取り決めに沿って%表記になおしますと、生活保護費に占める不正な受給額の比率は「約0.5%」ということになります。産経新聞の報道(もしくは福岡市の発表)とは、10倍の開きがありますね。その辺の小学生でも間違いに気づきそうなものですが、ただ日本の報道機関として生活保護受給における不正を大きく見せなければと言う使命感が記者にはあったのでしょう。これは福岡市の意図にも合致するところですし。(4/16追記、財政を圧迫云々という文脈からは当然、金額が問題視されているはずですが、どうも産経報道では「件数」で計算して比率を求めているようです。この場合は計算間違いではないものの、今度は「不適切な比較」の方に該当すると言えます。件数ベースで計算した方が「不正」の比率を大きく見せかけることができる、との観点から金額ではなく件数ベースでの計算が選択されたものと推測されますけれど……)

 なお一般的に不正受給額は総額の0.4%弱程度――各地の自治体で密告が奨励された結果としても実態はこの程度――ですので、福岡市の場合は「やや多い」とは言えます。ただ僅か0.5%程度の不正が密告によって減少したところで全体に影響があるかと言えば、そんなものはあるはずがないことは、やはり小学生にだって理解できそうなものです(むしろ密告への対応に忙しくて本業に手が回らなくなる事態すら懸念されます。かのドイツのゲシュタポですら、殺到する密告に振り回されて苦労したとか)。日本の貧困補足率は15~20%程度と言われます。そこから0.5%の「不正」額が摘発され、その分が「本当に困っている人」に「そっくりそのまま」回されたとして、貧困補足率はどう変化するでしょうか? 算数ができるならば、貧困補足率を増減させるにはあまりにも微々たる額、何ら意味のない誤差の範囲であることが分かると思います。

 ちなみにこの「不正」の最大は、所得を隠したケースです。生活保護受給者が収入を得れば、それに応じて生活保護費が減額される仕組みで、この辺を残念に思って収入を隠すという「不正」が大半を占めます(「例外」を強調したがる人も多いですが、それは大勢に影響を与えるものではありません)。将来的な生活保護からの脱却のために有益と、アルバイトで貯金するのを部分的かつ条件付で認める動きも厚労省レベルではあるとはいえ、それでも生活保護費の削減が至上命題になっている自治体も多いわけです。そのためには何がもっとも有効か――最も簡単なのは生活保護「受給者」へのネガティヴキャンペーンであり、生活保護受給者を不当な受益者として容疑者扱いすること、生活保護申請から貧困者を遠ざけ、生活保護の不備の責任を「悪しき受給者」のせいであると言い募ること、これが日本全国で実践されてきたと言えます。

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