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家族構造と子供の教育・収入への帰結:米国・スウェーデンの比較

Anders Björklund, Donna Ginther and Marianne Sundström, 2007, "Family structure and child outcomes in the USA and Sweden," Journal of Population Economics, Vol.20 pp.183-201.
Sara McLanahan and Christine Percheski, 2008, "Family Structure and the Reproduction of Inequalities," Annual Review of Sociology, Vol.34 No.1, pp.257-276.
Björklund et. al (2007) は、米国とスウェーデンのパネル・データを使って、親の離死別がその後の子供の教育達成や年収に影響を及ぼすかどうかを分析した論文。McLanahan and Percheski (2008) は、離別家族と社会的不平等の関係に関するレビュー論文。Björklund et. al (2007) について主に紹介し、McLanahan and Percheski (2008) でそれを補完する。

親の離死別がその後の子供の地位達成にどう影響するかに関しては、かなりの論争がある。OLSによる単純な回帰分析をした場合、親の離死別は、子供の教育年数や年収、SESに負の影響を与えるとする結果が得られることが多いが、これには "selection bias" がかかっているとする批判がある。すなわち、親の離死別と子供の地位達成の両方に影響を及ぼす、モデルには投入されていない要因が存在し、それが疑似相関を引き起こしているというのである(なぜこれを "selection" bias というのかはよく知らない)。例えば、親のコミュニケーション能力や知的な水準であったり、親以外の生育環境のような要因である。だとすれば、離死別そのものは、子供の地位達成の低さの真の原因ではなく、親の知的水準や親以外の生育環境こそが問題を引き起こしているということになる。

このような推定上の問題をクリアするために、Björklund et. al (2007) は、きょうだい差モデル (sibling difference model) を使った推定を行っている。これは家族・固定効果モデルで、きょうだいのいる子供にサンプルを限定して、きょうだい間の教育年数/収入の差を、きょうだい間の説明変数の値の差で予測するモデルである。一定の仮定が満たされれば、きょうだいに共通する要因の効果による推定値の偏りは排除できるので、上で挙げたような親の知的水準などの効果はコントロールできると考えられる。

重要な説明変数は、子ども期のうちどれくらいの年数母子家庭で育てられたか、子ども期のうちどれくらいの年数実母と継父のもとで育てられたか(そのほかにも似たような変数が3つ)、というものである。この種の分析では、しばしば 1-year ‘window’ measurements という方法が用いられるそうで、例えば10歳のときに父親と一緒に暮らしていたかどうかが調べられる。しかし、10数年間におよぶ子ども期のうち、ずっと母子家庭で育つ子供もいれば、ごくわずかのあいだだけ母子家庭を経験する子供もいる。1-year ‘window’ measurements では、特定の年に父親・母親と一緒に暮らしていたかしかわからないため、その他の時期についての情報が欠落してしまっている。Björklund et. al (2007) はこのような問題をクリアするために、上記のような母子家庭で育てられた年数、数実母と継父のもとで育てられた年数といった変数を使っている。これらの変数が線形の効果を持つのか、疑わしいのだが、記述統計レベルでは、実母・実夫と暮らした年数が短いほど、子供の教育年数、年収は短くなっており、線形とまではいかないが、単調増加ぐらいの関係にはなっている。通常の推定では、米国でもスウェーデンでも、やはり母子家庭や実母・継父の家庭で暮らした年数が長いと、子供の教育年数、収入は短くなる傾向がある。しかし、きょうだい差モデルでは、米国でもスウェーデンでも、母子家庭や実母・継父の家庭で暮らした年数の効果はずっと小さく、有意ではなくなる。

米国とスウェーデンのあいだにはそれほど明確な違いは見られず、むしろ類似性のほうが顕著である。確かに記述統計レベルでは、米国のほうが、収入や教育年数の家族構造によるバラツキは大きいのであるが、その他の要因をコントロールしたり、年収を対数変換したりすると、結果に有意差はないか、むしろスウェーデンのほうが、母子家庭や実母・継父の家庭で暮らした年数の効果は大きい傾向が見られる。これは、理論上予測される結果とは大きく異なっている。理論上は、スウェーデンのほうが福祉が充実しているので、母子家庭や実母・継父の家庭で暮らすことの不利益は小さくなると予測された。しかし、実際にはそのような結果は得られていない。Björklund らは、結果をまったく解釈していないが、これらの結果から考えられる一つの解釈は、母子家庭の出身者が教育年数・収入の面で不利益をこうむるのは、経済的な問題よりも心理・社会的な問題が主要な原因になっているということである。例えば、親が情緒不安定だと離別しやすいと同時に、子供の学力にも悪影響を及ぼすとか、離別が当たり前の地域共同体に暮らしていることが、親の離別と、子供の地位達成の両方に悪影響を及ぼす、といった可能性がある。

ただし、McLanahan and Percheski によれば、類似の分析で、まったく逆の結果が得られている場合もあり、結果は錯綜している。また、とうぜんきょうだいのいないサンプルはきょうだい差モデルでは使えないし、きょうだい間で母子家庭や継父・継母との同居年数に違いがなければ、やはりきょうだい差モデルの役に立たない。きょうだい差モデルに投入されているサンプルの規模は、通常の推定の場合の 2〜4割程度であるから、残りのサンプルは除外されていることになる。これは、推定に歪みを及ぼす、とは考えられないのだろうか。固定効果モデルのことはよく知らないのだが、McLanahan and Percheski はきょうだい差モデルの妥当性に対してかなり懐疑的なコメントをしている。政治的にセンシティブな問題なだけに、論争も激しく分析結果も錯綜するということだろうか。

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