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『雇用不安』あるいは家族従業者とパートの代替性

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リンク先を見る雇用不安 (岩波新書)
野村正実
岩波書店
¥ 735

(1998-07)
日本における「全部雇用」崩壊を論じた書。この本に目を通すのは2回目で、以前にこのブログでもとりあげているので、本書のあらすじは2006年9月22日のエントリーを参照。私は経済学者ではないので以下の記述には誤りがあるかも。

以前読んだときも気になっていてけっきょく未消化だったのが、全部雇用と完全雇用の関係である。完全雇用 (full employment) とは経済学でよく使われている概念で、Wikipedia を見ると、何種類かの定義があるようであるが、よく使われるのは、「循環的な失業がない状態」というもののようである。循環的な失業とは、景気後退期に仕事が減って、求職者に比していちじるしく求人が少なくなっているような状態のようである。ただし、いわゆる自発的失業者(つまり、えり好みしなければ仕事はあるのだが、留保賃金が現行の賃金よりも高すぎたりして、失業を続けているような人)や、摩擦的失業、構造的失業は循環的な失業には含まれないので、これらに起因する失業があっても完全雇用は成り立つ。古典派経済学では非自発的失業は基本的には存在しえないはずなので、大きな景気変動や社会変動が起きない限り、理想的な労働市場では、つねに完全雇用に近い状態が実現されているはずである。もちろん、実際には賃金の下方硬直性が存在しているため、非自発的失業は常に存在しうると考えるほうが現実的であるように思える。

次に全部雇用であるが、野村によれば「「全部雇用」では仕事を求めている人は全員何らかの仕事に就いているが、完全雇用とは違って各人が最大限の生産性をあげているわけではないし、賃金に満足しているわけでもない」(p.38) という。しかし、経済学ではふつう合理的個人が仮定されているので、現行の賃金に不満ならば、その労働者は仕事を辞めて自発的に失業するはずである。それにもかかわらず働いているということは、失業よりは働くことを選好していると考えられる(奴隷制や強制労働があれば別だが)。それゆえ、全部雇用といってもけっきょく完全雇用の一種ではないのか、と私には思える。

しかし、野村は明らかに完全雇用と全部雇用を排反事象だと考えているので、どうも、、暗黙のうちに一般的な定義よりも完全雇用の定義をせまく考えているように私には思える。

すなわち、野村の議論の大前提は、完全雇用は「各人が最大限の生産性をあげている」のが完全雇用だということで、「最大限の生産性」という概念にかなり特殊な意味合いが含まれているのかもしれない。例えば、最新の装置さえあればもっと優れた製品を低コストで作れる労働者がたくさんいるにもかかわらず、資金調達が難しいため実際にはそのような製品を作れていないような場合、「最大限の生産性」を労働者が発揮していないから完全雇用ではなく全部雇用だということになるのかもしれない。しかし、そんなことをいいだしたら、「最大限の生産性」をすべての労働者が発揮するなど不可能であり、完全雇用など絶対に実現できないと私は思う。

さらに自営は伝統的セクターで大企業は近代的セクターだという議論もよくわからない。この伝統と近代に関しては定義がはっきりなされていない。経済の二重構造という話があり、以下のような1957年の経済白書の文章が引用されている。
我が国雇用構造においては一方に近代的大企業、他方に前近代的な労使関係に立つ小企業および家族経営による零細企業と農業が両極に対立し、中間の比重が少ない。……いわば一国のうちに、先進国と後進国の二重構造が存在するのに等しい(p.33 より孫引き)。

ということは、やはり労使関係が伝統的か近代的かという点が特に重要だということになる。このような伝統的労使関係を保護することで失業者を減らすほうが社会的に望ましいと野村は言っていることになる。しかし、野村も認めるように、このような伝統的労使関係が女性をはじめとしたさまざまなマイノリティを抑圧する場として機能してきたという側面も看過できない。また、近代化に伴う経済発展を経験したほとんどの国で自営業の比率は右肩下がりに減少している。日本でだけ自営を保護することが可能だとは私には思えないし、野村もそのための処方箋を持っているとは思えない。大規模小売店舗立地法に代表されるような規制緩和をやめ、規制を強めろと言っているのだが、仮にそれが可能であったとしても、自営の縮小は小売業だけではなく、さまざまな業種に及んでいるはずだから、それらの産業でもすべて規制を強めなければならないが、ほんとうにそれが現実的な政策なのだろうか。

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