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人口減に対する移民受け入れの難しさ【デモクラシーのゆくえ:欧州編】

総務省の人口推計(2013 年10月1日現在)が15日発表されました。総人口は1億2729万8千人で、前年に比べ21万7千人(0.17%)の減少。3年連続で大きく減少しています。生産年齢人口(15~64歳)は7901万人で、32年ぶりに8千万人を下回りました。

総務省の人口推移によるとこんな感じで人口はどんどん減っていきます。2050年の生産年齢人口割合は51.5%と世界最低です。国連の世界人口見通しではアメリカ60%、中国61%、インド67.6%。筆者が暮らすイギリスは59.2%です。

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日本の人口推移(筆者作成)

フランスの生産年齢人口割合は57.5%、ドイツ54.6%、イタリア53%、お隣の韓国は54%です。総務省は、日本の合計特殊出生率も1.35あたりで収束していくと予測しています。これでは「成長」どころか「持続可能」な社会を実現することも難しそうです。

ロンドンに来られている日本の官僚の方々とお話する機会があると、イギリスと比べて日本人の方が勤勉だし、生産性も高いのに、どうしてイギリス経済はこんなに上手く行っているのかと議論になることがあります。

確かに日本は長時間労働を厭わず、会社への忠誠心も非常に高いという長所があります。

イギリスは超金融緩和策で不動産バブルを起こしているだけという批判も聞こえてきます。実際、小売店が店仕舞いし、新しい不動産業者が雨後の筍のように開店する有り様を見ると、他国のことながら心配になります。

しかし、人口政策、不動産政策を上手に回せば、経済はこんなに元気になるんだと痛感します。

日本の長時間労働や単身赴任の長期化が家庭不在と出生率の低下の大きな原因になっていると考えるのは筆者だけでしょうか。イギリスで友人カップルの赤ちゃんの洗礼式に招かれると、あまりにたくさんの子供たちが走り回っているのでびっくりしました。

3世帯が暮らす筆者のフラット棟には5人も子供がいます。

イギリスの2011年国勢調査で総人口は6300万人。これが2037年には7300万人に増えると予想されています。国民1人当たりの国内総生産(GDP)がそのままでも今後25年間に合計で16%近い成長が期待できます。

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イギリスの人口推移(筆者作成)

イギリスの人口増の原因は何でしょうか。国家統計局(ONS)によると、2037年までの25年間で約960万人の人口が増えます。540万人(57%)は自然増。43%は移民増と分析されています。自然増のうち29%は移民家族の出生によるものだそうです。

人口政策の柱は(1)移民(2)女性の社会進出(3)子育て支援です。

同質性が極めて高い日本では移民アレルギーがかなり強いですが、安倍晋三首相も2月の衆議院予算委員会で、移民の受け入れについて「国民的議論を経たうえで多様な角度から検討していく必要がある」との認識を示しました。

黒田東彦日銀総裁の「異次元の金融緩和」で経済成長を演出できたとしても、生産年齢人口が減少しているため、建設現場などで人手不足が拡大しています。安倍首相は「人口減少は、労働力人口の減少や消費者の減少を通じ、日本の成長力に影を落とす」と指摘しましたが、少々、泥縄式ではないでしょうか。

イギリスの歴史を見てみましょう。かつて大英帝国は7つの海を支配していました。第二次大戦で多くの若者が亡くなり、労働力不足を補うため、第一陣として15万7千人のポーランド人がイギリスに移住しました。西インド諸島からも多くの移民がやって来ました。

1948年に制定された国籍法では、なんと英連邦市民約8億人に、イギリス市民として居住し、働く権利が認められました。戦後復興を支えるため、1950年代になっても大量の移民流入が続きます。しかし、その反動で移民が多いバッキンガムやノッティンガム、西ロンドンで暴動が起き、偏見が広がります。

日本でも「在日特権を許さない市民の会」のヘイトスピーチや「特定アジア」などの言葉が象徴する近隣諸国への嫌悪が目立ってきています。人間の心の奥底には偏見、侮辱、憎悪が渦巻いているのかもしれません。第二次大戦戦後、移民の大量流入はイギリス社会を変容させ、人種暴動が起きます。

西ロンドンのノッティング・ヒルを舞台に、冴えない書店主とハリウッド女優の恋愛を描いた1999年のアメリカ映画『ノッティングヒルの恋人』はご覧になられたでしょうか。女優アナ役はジュリア・ロバーツでした。このトレンディーな街で昔、人種暴動が吹き荒れたのです。

参考に『ノッティングヒルの恋人』のビデオクリップのリンクをはっておきます。
ow.ly/vNVcJ

時は1958年8月にさかのぼります。白人の若者9人がノッティング・ヒルを徘徊し、そのうちの1人が「黒人狩りの冒険だ」と叫んでいます。通りは薄汚れていて、老朽化し、混み合っていました。彼らは鉄の棒や角材、空気銃やナイフで「武装」していました。 

彼らが恐ろしい「冒険」を終えた時、5人の黒人が病院送りになっていました。うち3人は重体でした。ヘイトクライム(嫌悪犯罪)に対する黒人移民のフラストレーションはもう爆発寸前でした。

そんな時、若いスウェーデン人の妻と、ジャマイカ人の夫が地下鉄駅の外で口げんかを始めました。

白人の群衆が集まってきて、白人の妻の肩を持ちます。そして、ジャマイカ人の夫の友人ともみ合いになりました。ささいな夫婦げんかが導火線となり、棒や肉切り包丁を手にした白人200人が集まり、口々に「ニガー(黒人の蔑称)をやっつけろ」「黒人野郎は自分の国に帰れ」と叫び始めます。

「テディ・ボーイズ」を名乗る白人暴徒は「イギリスを白人の国に保とう」というスローガンを掲げていました。ノッティング・ヒルで暮らす西インド諸島の黒人移民も反撃します。暴動は数夜続き、警察は140人以上を逮捕、108人を起訴しました。白人72人、黒人36人でした。

イギリスの保守系大衆紙デーリー・メールは当時、「イギリスは移民をこのまま受け入れ続けるべきなのか」という見出しを掲げました。デーリー・メール紙の「移民嫌い」は筋金入りで、21世紀も反移民報道を続けています。

大戦前「イギリス・ファシスト同盟」をつくったオズワルド・モズレー率いる極右政党「ユニオン・ムーブメント」や、「白人防衛同盟」が活動を活発化させていました。外国人労働者への反発が広がり、保守党政権下の1962年に制定された英連邦移民法で、ついに英連邦からの移民も制限されることになりました。

労働力が不足するから移民を受け入れると言ったって一筋縄ではいきません。移民問題の難しさは、イギリスの例を見るまでもなく、日本の在日韓国・朝鮮人の歴史を振り返ればわかることです。

今年5月の欧州議会選では、移民問題をはじめ、人・モノ・サービス・資本の自由異動を認めた欧州統合が大きなテーマになります。イギリスでも、欧州連合(EU)脱退を唱える英国独立党(UKIP)が人気を博しています。

しばらく、欧州のデモクラシーがどこに向かうのか、ロンドンから報告していきたいと思います。

(つづく)

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