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ミラノ・サローネに出展してみて

先週は、インテリアデザインにおける世界最大規模の国際見本市ミラノ・サローネに参加するためにイタリアに行っていた。とはいえ4月の上旬は何かと行事の多いシーズン。なので、いろいろ工夫を凝らした。

たとえば、僕が校長を務める佐賀県立有田窯業大学校の入学式。日本時間4月8日の午前10時開式だが、その5時間ほど前に、僕はミラノのホテルに着いたばかりだった。で、ミラノの現地時間8日午前3時に有田とミラノをスカイプでつなぎ、ライブで校長としての挨拶を届けた。また、僕が学長を務める高齢者のための学びの場「ゆめさが大学」の入学式も4月10日にあった。こちらは8日にミラノ・サローネの会場でメッセージを録画して日本に送り、当日はその映像を入学式の会場で流していただいた。

こうしたことがローコスト、さらにいえばほぼノーコストに近い形でできるようになっているのが今の時代だな、とあらためて思った。

佐賀県では、2016年の有田焼創業400年に向けて、有田焼の欧州での認知度向上を目指している。その手段として、ミラノ・サローネで既に出展の実績のある高級家具ブランド「ステラワークス」とコラボレーションして、出展することにした。つまり、ステラワークスの会場を借りてそこに有田焼をいくつか展示し、彼らの持つハイエンドでスタイリッシュな家具のラインナップと有田の既存のやきものが調和するのかどうか試してみることにしたのだ。出展を正式に決めたのは2月の中旬だった。有田焼創業400年事業は、ぎりぎりのスタッフでたくさんの事業が並行して進められている。これ以上できるのか、担当としては不安だったに違いない。

いろいろ悩んだ末に「やりましょう」と決めた。

これですっきりした、はずだった。ところがステラワークスの堀CEOから要望が出された。彼自身、有田焼に惚れ込み、今回も窯元や商社を回って出展アイテムを決めていた。その彼がこう言った。「ついては、ぜひ有田焼の創作の実演をお願いしたい。有田焼の技術がいかに優れているものなのか、バイヤーたちに見せたいんです。」

またここから悩まないといけないのだった。結局、担当があちこち探してまわって、ようやく伊万里の伝統工芸士の山﨑さんに絵付けの実演のためミラノに行っていただくことになった。オープニングの3週間前のことだった。

さあ、「これでだいたい準備ができつつある」と思ったら、また難題が湧いてきた。今度は今回のプロモーションを担当している英国の広告代理店から「集客のために茶の湯をやってくれないか」という、とんでもないオファーが来たのだ。担当は「いい加減にしてくれ」という気持ちだったと思う。だが、せっかくのお話だし、「中途半端なことをして、うまく行かなかずに後悔することになるのは困る」と最終的にその話にも応じることにした。それがオープニング15日前。

もう時間がないから、一般の方にお願いして行ってもらうのは難しい。お茶の心得のある県職員に声をかけ、理解が得られた者を派遣することにした。

このように、次から次に降ってくる難題に応えながらの出展だった。

有田焼そのものに対しての反応は、すこぶる良かったと言っていい。
もちろん、山﨑さんのデモンストレーション効果もある。(彼はミラノで大人気だった。とにかく彼の前には人だかりが絶えないのだ。多くの人がじっと彼の筆さばきを見つめている。はじめは不安げだった山﨑さんも次第に余裕が出てきて、英語もときどき交えながら話をするようになられた。)

それだけでなく、有田焼は昨年(2013年)のミラノ・サローネでデザーナーの柳原照弘氏とオランダの「ショルテン&バーイグス」と有田の事業者とがコラボして出展した「1616/arita japan」という器が「エル・デコ・インターナショナル・デザイン・アワード・2013」のテーブルウェア部門で世界一に輝いた。加えて、今回のこのような催しもあって、デザイナーの間では有田焼に対する認知度が急激に上がってきているのだ。

茶の湯も何とかうまく行った。お茶を習っていた職員たちも、まさかミラノで腕前を披露することになるとは思ってなかっただろう。だが、見事にやってのけた。ミラノ在住の日本人でお茶の心得のある親子にお手伝いに入っていただけたのも大きかった。ほかにもたくさんの方のお手伝いをいただき、とにかく今回の取り組みはその方々のおかげでうまく行ったのだと言ってもよい。

かくなる僕も昔お茶をかじったことがあるしお茶席には年に数回顔を出しているので「少しでもお手伝いを」と思い、和服を持ち込み、自分で着付けをして本番に臨んだ。僕としてはお茶席の席主を務めるつもりだった。

お茶席には必ず正客(しょうきゃく)というメインゲストが必要だ。そのメインゲストと席主との間の言葉のやりとりがお茶席の楽しみでもある。

ところが会場にはそのようなお茶の心得のある人がいようはずがない。結局、僕が正客を務めつつ道具に解説を加える席主的なこともやる、という変な形になった。

茶器は唐津焼をメインにした。主茶碗は唐津焼の二代中野霓林。水庫(水指)は井上東也などだ。多くの人たちにお茶の心を伝えることができたように思う。

最後まで気を揉ませたのが、初日のレセプションの乾杯用の杯だった。乾杯用の酒はちゃんと会場に届いていたのだが、杯については税関の検査が厳しく空港から出してもらえない。杯のように口につけるものは有害な物質が混じっていないということが証明されなければならない、というのが彼らの主張なのだ。さらに、同梱されていた嬉野産のお茶についてもちゃんと産地証明をつけろ、という。

「これではもう間に合わない」と僕はあきらめ、ミラノ市内の日本料理店から別の乾杯用のグラスを借りるよう指示した。

ところが担当はあきらめ悪く、粘り強く交渉を続けていた(らしい)。

「遅くなりました!到着しました!」と杯の入った箱を会場に運び込んだのは、乾杯の30分前だった。

とにかくレセプションは盛り上がった。50人位の予定が実際には100人以上の人たちが出たり入ったりしていた。僕は英語でこのレセプションと出展にかける思いを訴え、その甲斐あって、終わった後、ステラワークスと組んでカーペットを製作しているデザイナーやアフガニスタンのカーペットをもっと世界に売っていきたいという米国政府職員などから話しかけられた。悩みが共通だったのだ。つまり、自分のところの伝統工芸がグローバル化の波に覆われているのを何とかハンドメイドを武器にして再度挑戦したい、ということだった。

ようやくサローネの幕が下りた今、静かに振り返りをしなければならないと思うが、とにもかくにも一つのことを成し遂げた充実感に満ちている。行ってよかった、と改めて感じている。

これから2年後、2016年にいよいよ有田焼創業400年事業は山を迎える。
先日、選出された新しい有田町のリーダーをはじめ有田町の方々と一緒に良い方向に進めていきたい。

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