日本で賃貸物件に住む人の多くは、家賃を口座引き落としやクレジットカード払いにしているだろう。しかし、米国では大家さんに小切手を郵送して家賃を支払うことも珍しくない。
また、高級マンションを除き、アパートやマンションを探す際に仲介業者が入ることは少ない。多くの場合、ネットや新聞で物件を見つけ、家主や管理人に直接連絡をとって内見し、気に入れば契約・入居となるのだそうだ。
仲介業者を入れず家主自らさまざまな対応を行うこうしたスタイルは、入居者の個人情報を手元に保管する必要もあって、負担に感じている大家さんも少なくないという。
入居者・入居希望者側の負担も大きい。物件を見つけてから申請書の作成、家主の審査など、さまざまな手続きに時間がかかったり、何件もの物件に申請書を送るのに手数料もかさむからだ。
今回紹介する「Cozy」は、こうした家主側と入居者側の両方が抱える問題を解決すべく創設されたサービスだ。オンラインでの家賃の受け取りや入居希望者の審査に必要な情報を入力できる機能などがあり、契約上の手続きや家賃の受け取りを簡略化することができる。
現在、全米500都市で6000人以上が利用しており、これまでにGeneral Catalyst Partnersなどから、総額500万ドルの投資を受けている他、不動産の専門誌やTech Crunchなど幅広いメディアに取り上げられ、米国の不動産管理に根本的な変革をもたらすのではないかと期待されているのだ。
自身の苦い経験から、問題解決の手段を模索した
画像を見るCozyの創設者はGino Zahnd(写真左、以下ザーンド)氏とJohn Bragg(写真右、以下ブラッグ)氏だ。2人はこれまでにSeabrightというデザイン会社を創設し、Bloombergやアシックスなどのデザインを請け負っていた経歴を持つ。
両氏は新居を探すにあたって、それぞれ苦い思いをした経験があるという。
ブラッグ氏がサンフランシスコからオフィスのあるマウンテンビューへ引っ越した時のことだ。同氏は10件もの物件に申請書を送り、その全部に手数料を支払った。しかし、そのうちのいくつかが手数料を支払った直後から音信不通となる。もちろん、手数料も返ってこなかった。
結局新居に入居できたのは、新居を探し始めてから8ヶ月後のことだった。新居を探すのにどれほど無駄な時間と労力を費やしてきたかと、ブラッグ氏は理不尽さを感じたという。
ザーンド氏が住んでいた家を売り、新居を探していたときにも問題が起きた。入居を考えていた家の家主が、何らかのミスで3時間の間に同氏のクレジットレポート(クレジットカードの支払いや銀行への返済など、クレジット履歴をまとめたもの)を6回もチェックしていたのだ。
家主は入居希望者の財政状況を確認するため、クレジットヒストリー(クレジットカードの支払い履歴)やクレジットスコア(支払い履歴を元に信用度を格付けしたもの)などをチェックするが、通常6回も行うことはあり得ない。
「僕たちは、新居を借りる手続きがどうしてこんなに大変なのか、いろいろな疑問点をお互いに問いつづけたんだ」(ザーンド氏)
どうして入居希望者は、銀行の口座情報やソーシャル・セキュリティー・ナンバーなどの個人情報を、紙ベースで赤の他人に渡さなければならないのか、家賃の支払いにいまだに小切手が使われているのはなぜか。5分で終わるような手続きにどうして30分もかかるのか......。
2人は賃貸物件や家賃の問題点を2年ほど議論し続けたが、話せば話すほど問題点ばかりが目に付くようになった。そこで煩雑で非効率的、ミスの起こりやすい状況を解決するようなサービスの開発を模索する。
そして2012年3月、賃貸物件へ入居する手続きの方法を根本的に変え、家主や入居者・入居希望者に最高品質の経験・サービスを提供するためのサイト「Cozy」を開始したのである。
家賃の支払いやスクリーニングを簡潔に
家主側がサービスを利用するときには、1物件につき月額9ドル(約900円)の支払いが必要だ。なお、60日間は無料トライアルを利用することができる。
サイトのサービスを利用するときには、まずサービスを適用したい物件についての情報入力・登録を行う。
掲載する情報は家主の氏名と連絡先、賃貸物件の写真、住所、敷金、1ヶ月分の家賃、寝室の数、トイレの数、専有面積、ガレージの数、ペット可/不可などだ。
画像を見る物件情報を入力した後に家賃振込先の銀行口座を登録する。既に2件以上の物件を所有し、家主としてCozyに登録済みの場合は、同じ振込先であれば、再度口座を登録する必要はないとのことだ。
登録した物件情報は、物件に興味を持っている入居希望者に直接メールで送る、twitterでつぶやく、リンクをfacebookやブログに貼り付けて投稿するなど、さまざまな方法で公開できる。
入居希望者が現れると家主にメールが届き、希望者の情報が送られてくる。入居希望者全員の給与額や職歴なども一目で把握できるのが本サービスの特長だ。
貸し出す相手を決定して「RENT TO THIS GROUP」をクリックすると審査通過のメールが希望者に送られ、希望者が入居を確定すれば契約へと進んでいく。
画像を見る家主にとって同サイトを利用するメリットは、家賃の受け取りや入居希望者をスクリーニングがオンラインで行えること、クレジットレポートの作成依頼が簡単にできることにある。
クレジットレポートには個人情報が含まれているため取り扱いに厳重な注意が必要で、入居者が変わる場合、シュレッダーにかけるなど廃棄にも手間がかかっていた。しかし、Cozyを使用すれば、そういった手間を相当省略することができるのだ。