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バックパッキングという物語の変容〜バックパッキング・バブルが去った後で(1/3)

バックパッキングの栄枯盛衰

バックパッキング……知っている人間は知っているが、知らない人は何のことやらわからない旅のスタイル。バックパックを背中に背負い、比較的長期間に渡り、安宿を渡り歩くそのスタイルは、旅の自由度が専らその魅力といわれている。バックパッキングは70年代から2000年初めくらいにかけて若者たちに大流行していたのだ。が、ブーム=バブルは去り、現在では、もはや「バックパッキング・オタク」のための一旅行スタイルにまでタコツボ化している。

今回は若者文化の一つとして流行したバックパッキングの栄枯盛衰についてメディア論=社会学的に考えてみたいと思う。僕は大学時代に専ら海外をバックパッキングし、いまだに同じようなスタイルで年に一度はあちこちを歩き回っているバックパッカーの一人ではある。この立場からわが国におけるバックパッキングの歴史を振り返ってみたい。ただし、だからといってかつて流行したバックパッキングを懐古的にすばらしいものと言うつもりは決してない。そして、現在のこのタコツボ化したバックパッキングという「趣味の一ジャンル」としての位置づけが、実は、きわめて健全なのではないかとも考えている。で、このタコツボ化。旅、海外旅行、そしてバックパッキングを巡る「物語の多様化」と言い換えることができる。

バックパッキングの流行~70年代国内編

わが国におけるバックパッキングの始まりは六十年代あたりを嚆矢(小田実、堀江謙一などの当時の若者の紀行文あたり)とするが、そんな細々とした話をするよりも、もう少しざっくり「一般レベル」で展開した方が話としては理解しやすいので、はしょって展開してみたい(詳細について関心のある方は山口誠『ニッポンの海外旅行』ちくま新書を参照されたい)。

日本においてバックパッキングが最初にブームとなったのは70年代前後の北海道一人旅だ。夏休み、主として大学4年生が国鉄(現JR)が発行していた周遊券を利用し、各停で北海道の各地を歩き回る。その宿泊先の多くがユースホステルだった。ユースホステルはドミトリー式で、ミーティングがあり、飲酒禁止という、ほとんど「青年の家」みたいな設備だったが、むしろこういった人と人が関わることが前提されていた宿泊施設を当時の若者(もはや六十代半ば)は好んで泊まり歩いた。ユースホステルの経営者はペアレントと呼ばれ、若者の兄貴分的な存在として毎夜「青年の熱き語らい」に加わった。ユースホステルははがきによる予約方式で8月分は5月1日から申し込みが開始されたが、北海道のユースはそのほとんどが5月1日で8月中の予約が満杯になったという。

彼らがバックパックを背負い北海道を回り歩いた理由は「青年期の終わり」の自主的な通過儀礼として北海道を目ざしたためと言われている。当時はまだ高度経済成長時代、大学進学率も低く(10%以下)、大学の数も少なく、それゆえ学生は「学士様」としてもてはやされた。多くの企業で終身雇用が約束され、大学が終われば青年期は終わり、企業に入社することで「大人になる」ということが自動的に定められるという流れの中に若者は置かれていた。

就活も現在と比べればまだ牧歌的な時代で、文句を言わなければちゃんと就職が可能だった。そして大学生、とりわけ文系の学生には暇な時間もたっぷりあった。とりわけ大学四年ともなると三年次までに単位を取り終えて一年間休みなんて学生もザラだったのだ(現在よりも単位取得ははるかにユルかった)。そこで大学四年の夏、北海道で同じ境遇にある若者たちと出会い、語り合うことで、いわば「青春に区切りをつけた」のである。バックパッキングとは「青年期の終わり」のイベントだったのだ。

こうやって見てみると、バックパッキングをする目的の背後には、それに付随する一本の大きな物語があることがわかる。つまり、当時の若者(とりわけ大学生)は、北海道を見て回ると言うよりも、北海道でこういった「青春を捨てる物語」を消費するためにバックパッキングに旅立ったのだ。一例を挙げよう。当時、帯広市は夏になると帯広市駅前にテントを張り、北海道一人旅にやってくる若者を無料で収容した。これは通称「カニの家」と呼ばれた。若者がバックパックを背負う姿がさながらカニに見えたためにこのように呼ばれたのだが(ただし諸説がある)、ここはただ古畳が敷いてあるだけ、トイレは駅を利用するという「劣悪」な収容施設だった。にもかかわらず、ここに泊まりたくて若者が大挙して押し寄せたのは、こういった「青春の終わり」という物語消費を典型的に示す事態と言えるだろう。場所なんかどうでもよかった。とにかく語り合いたかったのだ。

ところが、80年代に入ると、こういったムードは一変。バックパッキングは消費文化として注目を浴びる一つになるのだ。(続く)

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