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「ああはなりたくない」と思った2種類の女について

「12人の優しい日本人」という映画が好きで、大学の頃から今までに20回以上みています。「もし日本に陪審員制度があったら」という設定のもと、陪審員として集められた "12人の日本人" が議論をするさまを、コミカルに描いた名作*1。今回は、そこに登場する「2人の女」について書いてみようと思います。

典型的な日本人の女

集められた12人は、それぞれ年齢も職業もバラバラです。が、いずれも「こういう人、職場にいそう」「まさに典型的な日本人」という印象。「会議ではだんまり作戦がいいのだ」と主張して、さっさと帰ろうとするサラリーマンや、論拠を問われて「フィーリングかな…」と言っちゃうおじいさん。

最初に見た19歳の頃は、次の2名の登場人物に対して、猛烈なイラ立ちを覚えたものです

1)主体性のない、おばさん

林美智子さんが演じる、ふくよかで優しい感じのおばさんです(50代くらい)。この女性は、被告人を無罪とする根拠を問われても、何も言わないのです。「だって…そんな酷いことをするような人には見えないんです…」これでは全然、議論になりません。

そのくせ、出前のドリンクをみんなに配ったりするときは「私やりますから」と張り切る。典型的な、「他人を優先し、ケアしたがる女」です。休憩時間には、刺々しい言葉で自分を論破しようとしていた若い会社員の、スーツの袖のボタンが取れているのを発見。「つけましょうか」と歩み寄り、断られても、針と糸を取り出して(やや強引に)相手のケアをしようとする。

これまでの人生、夫や子供のことを再優先に考え、自分の「意見」なんて持つこともなかったんだろうなぁ…という感じです。今の自分がみれば、この「おばさん」は典型的な日本人の「母」として描かれており興味深いのですが、最初に見た19歳の自分は、このキャラが最も許せなかった。大学に入ったばかりで、「自分は努力して真理を探求し、社会に還元するのだ!」と意気込んでいたきらいもあります。

そんな、おごった考えをもっていた自分にとって「主体性のないおばさん」は、「家父長制の中で抑圧され、飼いならされた結果、自分の頭で考えることをしなくなった日本の母親たち」の代表に見えたものでした。

あんな風には絶対、なりたくない。だから勉強して上を目指すのだ。そう思った記憶があります(上って何ですかね)。彼女の台詞で「そんなふうに…考えられるなんて…あなたの心はねじくれ曲がってます…」というのがありますが、まさに私も「ねじくれ曲がって」いたと思います。

2)「もう分かんなぁ~い」と言う女

もう1人は、山下容莉枝さん演じる専業主婦の女性。30歳前後とみられ、5才になる息子がいます。彼女は、被告人の若い女性(水商売のシングルマザー、21歳)をさりげな~く非難しますが、自分の意見として具体的なものがあるわけではありません。

容姿は可愛らしく、男性に媚びを売って逃げるテクニックにも長けています。意見を求められると、「もう分かんなぁ~い!」と逃げる。周囲も「ま、いいでしょう」と、彼女に多くを求めません。

このキャラについても、19歳の自分は猛烈な怒りを覚えました。なんて向上心のない女なんだ。思わず、夏目漱石の『こころ』に出てくる「精神的に向上心のないやつは馬鹿だ 」という名言を持ち出したりして、彼女をバカにしました。とにかく「ああいうふわふわした主婦にはならんぞ!だから勉強するのだ!」と、これまた鼻息荒くしたのを覚えています。

可愛らしい奥さんである彼女は、男社会の中で頑張って上を目指そうとはハナから思っていない。チヤホヤされたいだけです。そういう女が「典型的な日本人」として描かれていることにガックリしましたし、向上心のない彼女を見下しました。今なら、「まぁこういうのが、パロディってやつだよね」と笑えるのですが。

「女」への怒りの矛先

「主体性のない、他人をケアするだけのおばさん」や「男社会に甘える若い女」が、日本には沢山いたのだと思いますし、今もけっこういるのだと思います。彼女たちのようにはなりたくない、自分は男社会に従属したり、甘えたりしたくない、男社会をものともせず、「対等に」認められる女になるのだ!

こういう考え方は「ミソジニー(女嫌い)」の裏返しです。女である自分が「主体性のないバカな女」を忌み嫌うのは、結局のところ男社会を優位なものとみなし、そこで性別に関係なく認められることが、成功する道だと信じているから。それは結局、男=優れている(女=劣位に置かれる)という構造を受け入れるどころか、自ら再生産しているだけでした。

男社会に従属し、他人のケアに生きがいを感じる「母」や、男社会にこびを売り、そこから最大限の利益を引き出そうとする「若い女」。どちらも「性別など関係なく業績を評価されたい」自分にとっては受け入れがたい存在でしたし、今もまだ、そういう考えから自由になったとはいえない。

が、そういう女の存在を「自分と切り離して」考えることのできた、19歳の自分は、ある意味ラクだったし、本質的な問題から目をそらしていたのかなぁと、思うのでした。

「12人の優しい日本人」、今更ですが、おススメです。

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 【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。19歳の時、大澤真幸『身体の比較社会学Ⅰ・Ⅱ』を読み衝撃を受け、以後社会学に没頭。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。

星海社新書「キャバ嬢の社会学」より引用

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*1:元ネタ「12人の怒れる男」が大変良かったので、日本版のパロディも見てみたのですが、違いがとても新鮮でした(原作は人種問題が主題ですが、日本版ではそれが「成立しにくい」のでどう描かれるのか等)。

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