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小保方晴子は反撃に成功したか?〜釈明記者会見のメディア性

※【編集部よりお詫び】本記事の著者は新井克弥氏ですが、編集部のミスにより4月12日午前中から22時頃まで、新田哲史氏のエントリとして表示されておりました。訂正の上、ご両名および読者にお詫び致します。

ご存知のように一昨日(4月10日)、論文のねつ造を巡ってSTAP細胞を発見したと主張する小保方晴子氏の記者会見が開かれた。時間は二時間半にも及ぶ長尺なもので、その間、小保方氏はほぼ1人で、全ての質問に答えた。様子は一部テレビでも番組を変更して放送され、ネットではその全てが生中継されていた。小保方氏がまさに今年上半期、最も注目される人物となった瞬間だった。

内容はご存知のように「改ざん」「ねつ造」に対する釈明だったが、これらが自らが無知・未熟であったためにやってしまった悪意のないものであること、そして、これらの改ざんがあったとしてもSTAP細胞の存在は間違いのないことを主張するものだった。

さて、僕は化学系のプロパーでないので実験の真実性については詳しいことはわからない。つまり、本当のところはどうなのかについての判断能力を持ちあわせてはいない。ただし、メディア論的観点から今回の記者会見がどのようなインパクトを一般に与えたかについては多少なりとも分析が可能だ。ということで、今回はSTAP細胞を巡る議論の中身=これがあったかないか?はさておき、この記者会見のメディア性について考えてみようと思う。つまり小保方氏、はたして記者会見で反撃に成功したんだろうか?

人物にまつわる記者会見はイメージを伝える場所

記者会見について、われわれは二つの観点から関心を持つ。一つは、あたりまえだが記者会見が伝える事実=内容だ。たとえば、殺人事件が起きた際、警察が発表する記者会見では、当然、われわれはその事実関係に関心を抱く。その際、発表者それ自体には関心を抱くことは、先ずない。ところが、この会見が釈明記者会見のような、記者会見を行う当人にまつわるものであった場合は、もう一つの関心を抱くようになる。「事実の伝え方」、つまりパフォーマンス、いいかえれば記者会見を開く当人のメディア性だ。

このとき、記者会見を見ている側はライブ・パフォーマンスでのオーディエンスがミュージシャンに抱く心性とほぼ同じになる。ライブに出かけることの楽しみは、音楽=内容のように一見思える。ところが、よくよく考えてみれば音楽をちゃんと聴こうと思うならCDの方がはるかに音がよいし、出来もいいはずだ。それでもライブに嬉々として出かけるのは、ミュージシャンと空間を共有したい、ミュージシャンがどういうパフォーマンスを見せるのかといったメディア性に関心を抱くからだ。実際のところ演奏それ自体=内容は、一般的には二の次になる。

個人=当人にまつわる記者会見もまさにこれが該当する。当人を巡る事実を巡って、その当人がどのように話すのかに関心が集中する。英語で表現すればWhatではなくHowに専ら関心が向かうのだ。

だから、パフォーマンス次第で記者会見のイメージはガラッと変わってしまうし、場合によっては事実=内容をパフォーマンス=メディア性が凌駕してしまうこともしばしば発生する。いいかえれば、うまくパフォーマンスすればオーディエンス、そしてマスコミを思うがままにコントロール可能になるし、その反対にもなる。

草彅剛の見事な記者会見コントロール

記者会見を行った側がイメージをコントロールした例をあげてみよう。その典型は2009年、逮捕されたSMAPの草彅剛が行った記者会見だ。草彅は泥酔した挙げ句、港区の東京ミッドタウン前の檜町公園で全裸になってしまい(その場所を自宅の部屋と間違えたのではないかと言われている)、その場を取り押さえられた。罪状は”公然わいせつ罪”、アイドルが科せられる罪のカテゴリーとしてはイメージ的に最も悪い、いわば「命取り」に近いものだ。

ところが、記者会見の中で草彅は見事なパフォーマンスを見せる。遠い目をしつつも、その目は求心的に自らに向かい、自らにその愚行を諭すように訥々と語る姿勢がオーディエンスから絶対的な評価を獲得するに至るのだ。草彅はSMAPの中でもその演技力(小津安二郎の作品に出てきそうな)で知られているが、役どころの多くが、おとなしい内省的な性格で、これが記者会見と完全にかぶった。つまり、草彅は自らが演技する、またバラエティで振る舞う振る舞い方どおりに記者会見に臨み、オーディエンスを納得させてしまったのだ。

人物にまつわる記者会見時、イメージ作りに重要役割を果たすのが質問する記者の態度=対応だ。草彅は記者のツッコミにゆっくりと、そして言い訳することもなく、申し訳ないという姿勢、いわば全面降伏的な態度で対応した。すると、記者の方はこれにほだされ、さして強いツッコミをしなくなってしまったのだ。つまり、これは全面降伏による全面勝利に他ならなかった。その結果、草彅の不祥事はこの記者会見で一気に禊ぎが払われてしまったのだ。

記者会見に飲み込まれた佐村河内守氏

一方、コントロールに失敗し、メディアによって逆にネガティブイメージが付加されてしまったものをあげてみよう。

その最たる記者会見は佐村河内守氏の釈明記者会見だ。髪の毛ぼさぼさ、髭ぼうぼうの麻原彰光ばりの風貌からガラッとイメチェン。髪は七三に揃えるわ、髭はサッパリそり落とすわで、すっかり反省したかのような態度で始まった記者会見だったが、途中からその本性を発揮したというか、記者の執拗なツッコミに高飛車な態度になり(とりわけ手話が終わる前に質問に答え始めたことに対する記者のツッコミへの逆ギレなどはその最たるものといえる)、挙げ句の果てには新垣隆氏を訴えるとまで言い出す始末。こんな感じだから、髪切って髭剃ってきたことが、単なる「ごまかし」「あざといパフォーマンス」にしか見えなくなってしまった。つまり、佐村河内氏は記者と悪い意味でつるむことによって「真性ペテン師」のレッテルを貼られてしまったのだ。

で、おもしろいのは、草彅であれ佐村河内であれ、記者会見における世間の判断は結局のところ事実=内容に基づかないという点だ。逆に言えば草彅剛のように、記者をうまく丸め込んで(もちろん、草彅が意図的にそうしたとは全く考えられないけれど、結果としてそうなった)イメージをうまく作り上げてしまえば、それでオッケーなのである。これこそ、まさに個人にまつわる記者会見におけるメディア性の力に他ならない。

小保方会見の評価は?

さて、小保方晴子氏である。そのイメージはどうなったか。例えば日刊スポーツは一面で「小保方氏反論失敗」と大々的に見出しを載っけていたが……ちょっとこれは言いすぎだろう?。ただし、少なくとも草彅の時のように成功したとはとても言えないだろう。謝罪は実に丁寧なものだったし、「STAP細胞はあります」と高々と宣言はしたが、その後の説明が中途半端。「実験は200回成功した」「第三者の実験成功例がある」とも語ったが、その具体的な展開がないため(ご存知のように、果たして短期間で200回も出来るのか、誰が実験に成功したのかといった疑問が当然出てくる)、結果として説得力に欠けたことも事実。やはり、この時問題となるのは会場の記者の対応だ。あきらかに消化不良という感じで、見ている側にもそのフラストレーションが感じられた。

こうなると流した涙は嘘泣きで、STAP細胞の存在も信憑性に乏しいと思わざるを得ない。今回痩せたと言われているけどあれは「痩せメイク」、また涙を流しやすいようにマスカラを付けないといった「イメージ戦略」もドリームチームの弁護士とともに徹底的に組まれていた、などなど、いろいろ憶測が飛ぶ。なので、やはり佐村河内氏と同じようなダーティなイメージになったのではないか?

いや、そうでもない。そのパフォーマンスにおいては説得力があったのだ。たとえば涙を流したとしても、それは相手に訴えると言うより、こらえきれずという印象の方が強く与えることが出来ていたのではないだろうか?また、質疑応答については 前述したように内容こそ明確ではないものの、真摯に答えようとする姿勢が結構説得力を持ったのではないか。このように判断する理由は二つある。一つは実際Yahoo!Japanの意識調査でも「納得できない」が46.2%、「納得できた」が34.4%で、前者の方が多いものの「納得した」人間もかなりいるたこと(僕のところの学生170名に同じ質問をしたのだが、ほぼ同じ割合だった)。もうひとつは、明らかに消化不良であった記者たちも、そのツッコミが佐村河内氏の時のような鋭さに欠けていたこと(ちなみに、誤解を避けるために、ここでは「本当の涙」「嘘泣き」、「真摯な姿勢というパフォーマンス」「真摯な姿勢」どちらなのかという価値判断を僕個人は一切行ってはいないことをお断りしておく。というのも、それは判断不能だからだ。記者会見の数値がばらけたことと、記者のツッコミが弱かったことから上記の内容を推測している。つまり「まあ、そこそこ効いたのかな?」といった判断)。

事実関係について断言するも、その具体例が示されないのでマイナス、ただし真摯な姿勢というパフォーマンス(作戦なのか素なのかは別として)がある程度のオーディエンスからの支持を取り付けた。そして記者のツッコミを鈍くさせた。だからイメージ作りとしては日刊スポーツの言うような「反論失敗」と言うよりは「中途半端で曖昧なまま」というところではないだろうか。つまり、今回の記者会見において小保方氏の反撃は成功していない、しかし失敗していない。そして、さらに話題を振りまいたと僕は考える。

結局、真実は一つなのだが…… ただし、一つだけ草彅や佐村河内氏の例とは違った点がある。それは、今回の場合、小保方氏の最終的な評価がイメージによってではなく、いずれ内容=事実によって決定されることだ。つまりSTAP細胞の存在の有無。これがなければ小保方氏は単なるペテン師、目立ちたがり屋、あるいは世間知らずの若手科学者。あればノーベル賞、ニッポンの至宝というイメージを最終的に付与されるという、ものすごい落差になる。それは、ようするにこれが「社会」科学ではなく「自然」科学に類する事柄であるからだ。つまり最終的にイメージに左右されることがない。

事実認識と人物評価が混在し、混乱した小保方記者会見の方向性 僕が今回のSTAP細胞と小保方氏の問題についてマスコミに求めるのは、まず小保方氏をスキャンダラスな存在にして弄ぶ、いわゆる「マスゴミ」的な展開ではなく、STAP細胞の有無についての言及だ。次に、小保方氏に対しては科学者としての倫理を問うことだ。ところが今回の記者会見(そして騒動全体)では科学的発見の有無と科学者倫理がごちゃ混ぜになっている。この二つを巡って、結局記者会見は迷走したのだ(で、どっちも判明しない)。だから結局、消化不良で何が何だかよくわからない。こうなったのは科学的知識と倫理それぞれに関するプロパーの記者が存在しなかったからだろう(おそらく、これもツッコミ不足の原因だろう)。

とりあえず、今回の場合、本当に必要なのは前者の「STAP細胞の存在」のはず。個人的には、小保方さん?どうでもいいんじゃない?彼女がどんな人間であろうと、と思っている(ヒマつぶしとしては面白いであろうことを除いてだが)。

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