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ネットラジオの話、再び

たまたま、今朝TwitterでPandoraはなぜ日本で使えないのか、それはJASRACのせいか、という議論があったので、ネットラジオの話をアップデートしておこう。日本でもサイマルラジオという試みが始まったこともあるし。

「著作権」と「著作隣接権」の違い、およびこの二つのアメリカでの扱いについては下記の2008年エントリーを参照。

パンドラが難関を突破!そして「アメリカ版電凸」の感想 - Tech Mom from Silicon Valley

Pandoraは、この「著作隣接権」を「ネットラジオ」として、DMCAに規定された「Statutory License(強制ライセンス)」として利用する立場を取っている。こうすると、個別のレーベルとライセンス料交渉をする必要がないからだ。ライセンス料が安く済むかどうかは、個別交渉でどの程度になるかによるので一概には言えないが、Pandoraのようにレーベルが直接経営していない独立系事業者の場合は、強制ライセンスのほうが安くなるケースが多いのではないかと想像している。サービス設計が米国のDMCAに合わせてあるため、そのまま他の国に適用するのはいろいろ難しく、今のところ日本だけでなく、アメリカ以外の国(当初配信していたイギリスやカナダも含めて)では、使えないようブロックされている。ちなみに、日本で始まった「サイマルラジオ」と同様に、個別のローカルラジオ局がネットに配信する最も原始的な形態の「ネットラジオ」は、米国でも多数配信されており、これらは上記と同じDMCAの仕組みを利用している。

これに対して、もう一つの米国の有力ネットラジオ、Last.fmの場合は、Statutory Licenseを使わず、個別レーベルと交渉して権利を獲得している。こちらのやり方のメリットは、Statutory Licenseを利用するためのさまざまな制約(「双方向サービス」でなく「既存の地上波ラジオ」に近いサービスにとどめるための種々の制約、たとえば次に何の曲がかかるかわからない、個別曲のリクエストはできない、など。それに従わず、「双方向サービス」とみなされると、ライセンス料が跳ね上がる)がなくなり、サービス設計の自由度が高くなること。また、このおかげでLast.fmは、もともとイギリスのベンチャーだが、アメリカや欧州各国など、国際的に展開できている。(レーベルが許諾した国では配信できる、というワケ)ただし、あるレーベルが「今日からネットに流すのはヤメにします」と言い出すと、そのレーベルの曲は使えなくなってしまう。こういうケースは過去実際にあり、その時にはワーナーが配信を停止して、Last.fmはワーナーの曲を流せなくなったが、Pandoraは上記の「強制ライセンス」であるため、ワーナーの意向と関係なく配信を続けることができた。

一般に、楽曲のライセンス料がこの手のサービスの死活を握る。最近では、アメリカでもRdioという「オンライン・ジュークボックス」というサービスが開始されるというニュースが出ており、これは上記のような「ラジオ」としての制約を外し、「オンデマンド」でユーザーが指定した曲をかけられるものらしい。欧州ではSpotifyという似たサービスがあり、これも米国進出を狙っている。これに近いサービスとして、過去にはRhapsodyや、新しいほうのNapstar(P2Pサービスが訴訟で潰されたあと、別の会社が引きとってオンデマンド・サービスとして再出発したもの)などが試されたが、いずれもうまくいかなかったのは、上記のレーベルとの関係およびライセンス料のレベルと、ユーザーニーズ=売上がかみあわなかったからだ。

オンライン・ジュークボックスやネットラジオが成功するためには、こうしたライセンス料の「地雷原」を乗り越え、さらにユーザーのニーズにも合う、非常に難しいバランスが求められる。アメリカでも、Napstarも含めて、非常に多くの事例が死屍累々とあって、「成功」といえるのは今のところPandoraとlast.fmぐらいなもの。

なぜかというと、「無料ネット配信」をレーベルが許すのは、過去にラジオがそうであったように、楽曲の宣伝としての役割があって、それが本来のレコード・CD売上に貢献する、というエコシステムがある場合だけからだ。過去には、ラジオで聞いた曲のレコードをみんなが買ったので、ラジオは宣伝として機能していた。これに対し、現在「レコード」に代わるべき売上が期待できるのは、iTunesやAmazonでのダウンロード販売(あるいは、アーティストや仕組みによってはコンサート・チケットの売上)ということになるが、「ネットラジオ聴取」と「本来の売上」の間の強い関係がまだできていない、というより「本来の売上」そのものを食ってしまうことのほうが多い。レーベルとアーティストの間でお金がどう分配されるか、という話はとりあえず置いておいて、両方まとめて「制作側」と見ると、制作側が商売として成り立つ仕組みが未成熟であることが一番の問題、と私は思っている。

ちなみに、ラジオでなくテレビの場合も、制作会社の許諾の仕組みが大問題であり、アメリカで現在YouTubeに次ぐアクセス数を持つ動画サイトHulu.comは、制作会社であるFoxとNBCが自分で合弁会社を作ってやりだしたからなんとかうまくいっている。儲かっているかどうかはなんとも言えず、両説ある。日本のNHKオンデマンドのようなもので、こちらもいろいろ苦労されているらしいが、すぐにあきらめず、料金の仕組みやコンテンツをNHK以外からも集めるなどの方法で、なんとか試行錯誤を続けてほしいものだと思っている。

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